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彼だけが変なモノに彩られていて、初めはそれが色と呼称されるものだとはわからなかった。
吐き気がしただけだった。
ただ彼がボンゴレだと紹介され、ああと納得した。
≪どうせ殺すんだから、どうでもいいことじゃない?≫
もう一人の自分がいうことも最もだった。
「大体の形式は整った」
「後はボンゴレを丸め込めば…」
「なに。たかがジャポネの青二才だ。少し脅せば容易いさ」
「今こそ我等の時代。ボンゴレなど黴の生えた化石に過ぎない産物だ」
「しかし力は相当だぞ。守護者達も、ウ゛ァリアー部隊も一筋縄では」
当人達からすれば熱が入っているらしい在り来たりな台詞がやや興奮気味に飛びかう。
まぁそれなりの、だが自慢は自分ならば恥ずかしくて出来ないような力を持った輩共を冷めた目で眺める。
≪馬っ鹿な豚ちゃん達〜≫
きゃらきゃらとけたたましくアレが嗤う。
煩い
どんなに強気でいようが、心中では強大なボンゴレを相手にする不安と恐怖が手に取るように感ぜられる。
自分達が馬鹿にしている青二才がそのボンゴレを動かしているのが何故わからないのか。
全く相手にしていられない。
とんだ茶番劇だ。
≪茶番といえばさ〜≫
「昨日のあの人も、そうだったか…」
「何か言ったか白蘭」
「いえ」
それきり会話を打ち切り、昨日の彼の声を思い出した。
『一人で…?』
『はい』
命令とはいえ自分で言いながらあまりの馬鹿馬鹿しさに自然目が細まった。
死ににいらして下さいと頼んでいるようなものだ。
誰がこんな要求を飲むのか?
やはりアレは真の愚者だったか。
≪っていうかカラなんでしょ〜?≫
つらつらと雇い主の頭の構造を考えていた為か、彼が出した答えが一瞬理解できなかった。
『うん、わかった』
『は…?』
『だから、わかった。一人でいくよ』
受話器越しから響く彼の声音はいつもと違わず穏やかだった。
彼が入って来た途端、部屋の空気ががらりと変わった。
何人かの三流共はゆっくりと歩く青年を眉を潜め人違いではないかと囁きあっている。
中には眼を見張るものや、口笛を吹き、彼のことを見抜く者もいた。
ブラックスペルのユニの近くに座っているあの男の名は確かγ。
アフェランドラ3隊の隊長格だ。
γから再び彼を見ようとして、丁度眼が合った。
内心動揺したが、彼は曖昧に笑いそっと視線を外した。
胸に変な感触が走った。
引かれた席につき、後ろの男に礼を言った後軽く手を組んだ青年は微笑む。
「では…、はじめましょうか」
呟いた瞬間優しげな青年は消え失せ、そこにはドン・ボンゴレがいた。
ボンゴレの発するオーラに飲まれ、惚けるようにしていた男が咳払いをする。
一応リーダー格の男だ。
≪今回の交渉が纏まろーが決裂しよーが消される程の存在だけどね〜。
可哀想な駄具人形ちゃん☆≫
ミルフィオーレは現在ボンゴレに凌駕はせども劣りはしないといわれる程のファミリーだが、
此処にはまだそれらを全て纏め上げる力を持った者はいなかった。
だからいつも果て彫りを立てていた。
人形が口を開く。
「あー以前、お渡ししました手紙は読んでいただけたようですな」
「ええ、とても楽しく拝読させていただきましたよ」
馬鹿にされたと思ったのか、笑顔で答えたボンゴレの言葉に男の顔が恥辱で真っ赤に染まる。
「ふっ」
男の顔に笑ったのか、ボンゴレの言葉に反応したのか、γが笑う。
「失礼、楽しくというのは中々興味深い内容だったとお伝えしたかったのですが」
昔から語句が乏しいと家庭教師にも言われているんですよ。気分を害させたのならば謝りますとボンゴレは申し訳無さそうに苦笑した。
≪皮肉じゃなかったのかー。詰まらないね☆≫
まあこの人は皮肉など言おうとも考えないのだろうが。
ボンゴレの謝罪に不満げに鼻を鳴らした男は本題に入った。
「それでは条件は飲んでいただけるのですかな」
ここまできてからに断るわけがなかろうという思考が丸出しの男に、ボンゴレは微笑む。
優雅という言葉が相応しいものだった。
「謹んで。お断りしたいと思います」
「な、何!?」
「貴様ふざけているのか!」
予想していなかった言葉に男の叫びが彼方此方で木霊し、各々の得物が取り出される。
此処では交渉の場として武器の持ち込みは許されていないのにも係わらず、
その場で護身用と称されるものを持っていないのは彼だけだった。
「・・・皆の言った通りになっちゃったなぁ」
独り言のようにボンゴレは呟く。
その声と共に、室内の温度が低下した。
ボンゴレの額に炎が揺らめく。
「つまりどうあっても。譲られるおつもりはない、と…?」
氷結した瞳に見据えられ、男が二重顎を恐怖に震わせながらも強がりながら叫んだ。
「い、いざとなされば強行手段も辞さな、」
≪ん〜そろそろじゃない?≫
立ち上がり、声を上げる。
「強行手段に出る気はありません」
「え…」
「なっ…!?」
「白蘭貴様何を言って…!?」
「私は今ボンゴレと話をしているので黙って頂けますか」
願いではなく絶対の命として同盟者へ眼をやる。
弛みきった顎を震わせ顔を赤黒くしながらも、男は黙る。
「もう一度言います。強硬手段に出る気はありません。
こちらとて無駄に戦力を失いたくありませんから」
向き直った白蘭に淡々と告げられ、驚きに眼を見張っていたツナはやがてほっとしたように頬を弛めた。
同時に今にも切れそうなほど張り詰めた空気がツナから消え去る。
それにより白蘭からも知らず入っていた力が抜けた。
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