7 ちょっと。 惚けてしまったのは内緒だ。 自分の顔の所為で、ある程度の美形なら馴れてるはずなのに、その祐遥を呆然とさせてしまう程の美形だった。 背は自分より頭一つ以上違うから、175pはゆうに越えてるだろう。 背に見合う体格の良さも、祐遥にとっては溜め息モノだった。 少し長めの黒髪を肩ぐらいで一つに括っているのが、これまたよく似合っていてかっこよかった。 前髪のかかる秀でた額の下には男らしいラインの眉。 切れ長の瞳は勘違いでなければ、藍色にも見える綺麗な黒。 ―――黒の光彩って珍しいんだよな…普通は茶だよ、茶。 いらん知識を頭の中でこねくり回しながら、ひたすら祐遥はガン見していた。 ―――鼻も唇も男らしー… くっきり通った鼻筋に、色も厚みも薄い唇。 祐遥と違い顎の線も鋭くて、綺麗ではあるが女と間違われることは決してない顔だ。 顔も躯もなにもかもが、これぞ男らしい美貌!美形!!と常に目標としているタイプの、祐遥が羨望してやまない典型的な美丈夫だった。 「あ、あの…?」 つい。 本当についガン見してしまっていた相手は、自分の視線に戸惑ったような声をあげた。 が。 祐遥の脳内フェスティバルはその声にて最高潮を迎えた。 ―――声っ!!声も理想っ!!!! ちょっと低めの腰にくるタイプのボイス。 女の子にキャーキャー騒がれる声優さんみたいだった。 ―――俺なんか変声期きても全然変わんなかったのにーーっ!! 自分の声は。 そりゃ確かに女子と比べれば多少低い。 けれども女子と言ってもまったく問題ないような声で。 『可愛い祐遥ちゃんの声が低くなったら衝撃だ!立ち直れない!!』 小学校から中学にあがる頃、まわりの男達にそう言われ続けて、内心、いや、声高に『ひっく〜い声になってやるっ』と宣言していたのだが。 お蔭さまで、可愛い祐遥ちゃんは変声期を経てもなお、可愛い祐遥ちゃんのままだった。 だから、彼のような声には憧れていた。 顔、躯、声と。 三拍子揃いな、理想が服着て歩いてキタヨーな男が目の前にいる。 もはや祐遥の脳内はフェスティバルを超えて、ブラジルでサンバなカーニバル状態だった。 まあ、普通なら。 そんなのが現実にいたら逆に嫉妬で狂いそうなものだが。 そこは楽しければ無問題な祐遥の、短所を裏返した長所といえる。 「えっと…俺の声は聞こえてるかな?」 しかし。 いつまでも脳内サンバカーニバルに浮かれている場合じゃない。 訝しげに声をかけられ、そこでようやく我に返った祐遥は慌てて頭を振った。 「なら、よかった」 すると。 相手はホワンと笑った。 * [*前へ][次へ#] [戻る] |