2 太陽は西に傾き、空は茜色に染まり始めていた。 辺りの木々も、音を起てて流れ落ちる滝のキラキラ輝く飛沫も、紅に染まる刻限。 夜はひそかに、だが確実に訪れようとしている。のに、膝を抱えた煌(アキ)は気にすることなく泣き続けていた。 夜は魔の領域と。 古くから伝えられる教えがあるけれど。 ここは『惑いの森』。 自分を傷つける者などない。 守人たる自分に危害を加える者などいないと解っているから。 煌は夜が訪れようとしている今も、動こうとはしなかった。 帰る気にはなれない。 あの子が、来ないから。 多分きっと、城の者達は心配しているに違いない。 兄も、きっと。 けれど解っていても、やはり動くことは出来そうにも無い。 だって、朝からずっと待っているのだ。 この場所で。 約束を違えたのは自分で。 だから、待つのだ、この場所で。 なにより。 会いたいのだ、彼に。 彼と。彼の赤い龍に。 でも彼は来ないから。 煌は幼い心を、悔いと哀しみの色でぐちゃぐちゃにしながら、ただひたすら待ち、泣き続けるしかなかった。 * [*前へ][次へ#] [戻る] |