11 謝ってしまうのは簡単だけれども、謝ればまたセイを哀しませてしまいそうで、どうしていいのか解らない。 煌は幾度も礼を呟きながら、自分より少し背の高いセイにまたギュッとしがみついた。 するとセイもまた、煌を先程以上にやわらかく優しく抱きしめてくれた。 「心配してくれてありがとう。大丈夫、もう泣かない」 「……違うよ?」 セイの温もりを心に刻みつけて。 泣きそうになったらこの温もりを思い出せばいい。 そう思って安心できるくらいに、暖かかったから。 煌は本心からそう呟いたのに、抱きしめてくれていたセイから否定の囁きが漏れた。 そして。 「もう泣かないんじゃない。僕がきっと…君を泣かせたりしないから…」 小さな呟きだった。 けれども、想いのたけが溢れそうな声だった。 「うん…ありがと」 それに煌は。 これまた小さくとも。 大きすぎる喜びに奮えた声で、返した。 「満月と、新月の日に。」 すっかり宵闇が辺りを包みこみ、空には大きな白乳色の月が浮かんでいた。 「会う日を、そう決めよう。これからは満月と新月の日にここで会おう?」 優しい光を注いでくれる月を見ていたからかもしれない。 しばらく、抱きしめてくれながらも無言だったセイが、そう煌の耳元で囁いた。 「満月と、新月?」 煌も空に浮かぶ月に気がついて、顔をあげた。 「そう。必ず月に2回。ここで会う約束をしよう。そうしたらもし会えなくても、次の約束を心配しなくていいから…」 「あっ!!本当だねっ!?」 「ね?」 空の月を見上げながら。 告げられた言葉に、煌は空の輝きに負けないくらい瞳を輝かせた。 「月の満ち欠けは北でも南でも同じだから、日付を間違えることもないよ?」 「そうなの!?本当に!?凄い凄いっ!!なら大丈夫だねっ!!」 「それでも会えなくて、泣かせるかもしれないけど…」 月の満ち欠けが同じなどとは知らなかった。 煌はさすがだと無邪気に喜び、満面の笑みで顔を綻ばせた。 だが、それでもセイは顔を曇らせていて。 「ううん?泣かないよ?」 だから煌は。 笑みを引っ込め、首を傾げた。 「泣かないよ?もし会えなくても次があるでしょ?もし、その次も会えなくても、でもまたその次があるんだよ?なら、泣かない」 そして。 少しだけ大人びた顔で、嘘偽りない気持ちを告げた。 この辛かった数カ月。 セイに嫌われてしまったかもしれない絶望を抱いて過ごした煌にとって。 悔いと辛さが微塵もない擦れ違いなど、さほどのものでもない。 ただ会えないだけなら、ほんの少し我慢すればいいのだ。 「もう、大丈夫。心配、しなくていいよ?」 「煌っ!」 抱く腕に力がこもり、 それが嬉しくて、煌もセイの背を強く掴んだ。 「絶対、煌に会いにくるよ、必ずここにいる。約束する」 「うん…」 自分達には。 擦れ違いを産んでしまった国の隔たりという制約以上に、多くの困難な障害がある。 悔いと哀しみの中。 ただ嘆いていただけではない。 考える時間は沢山あった。 あり余る程、あったから。 幼いなりに考え、それに気がついていた。 だからこそ。 擦れ違い会えない日々をへて、セイのくれた約束が嬉しかった。 「約束を、ありがとうね?セイ」 * [*前へ][次へ#] [戻る] |