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雪や周りの人に何をどう言われようと、煌にとって『惑いの森』は綺麗で素晴らしくて、楽しいところでしかない。
だから何故、『惑いの森』を訪れてはいけないのか、たとえ心配をかけていたとしても、煌にはまったく理解ができず、いつでも困惑するしかなかった。


それでも国主の息子として、周りへの配慮をせねばならず、煌は理解しようと努めてはいた。
雪が心配しないよう、自分につく官達が苦労しないように幼いながらも心を砕き、幾度も尋ね問うた。


が、その努力も空しく。
雪に聞いても誰に聞いても、困った顔でただ危険なのだとだけ告げられるだけで終わってしまう。


『まだ小さい煌には解らないかもな。それに煌は守人だから』


自分は理解しようと努力しているのに、満足のいく理由も告げられず、理不尽に押し付けられる。
酷いと思い、我慢出来ず、一度、兄の馨(ケイ)に不満をぶちまけた時、そう告げられたことがあった。


『おっきくなったら解るの?兄さまぐらい!?』

『俺くらい?う〜ん、まだ無理かな…もう少し大人にならないと…』

『もう少しってどのくらいっ!?』

『うん、そうだな。人が何かを怖い、と、何故思うのかが解るくらい大人にならないといけないのかもな』


その時は、そんな風に仕方なそうに笑まれながら、頭を撫でられたけれど。
兄の言葉の意味が理解出来ず、はぐらかされたような気がして、悔しさに唇を噛んだ。




人を寄せつけない幻獣の聖域。
危険な訳ではない。
しかし、何があるか、起こるのか解らないから恐ろしい。




人間とは不確定な事柄に、畏れを抱くものなのだ、と。
理解するには、煌は少々幼すぎた。

煌にとっては、『惑いの森』は触れられる物で知っている物。
ただ、自分はそうでも他人は違うのだ、と、理解するにはまだ早過ぎた。

だから、大人達が抱く畏れは、煌にとって押し付け以外のなにものでもなくなってしまっていたのだ。


もう少し大きくなったら理解出来るのだろうかと考えもしてみて、努力しようとしたが、納得するのとは別で。


どんなに心配されても、止められても。
幼い煌はやはり、訪れるのをやめられなかった。


なにより。
『惑いの森』には。
森以上に煌を魅力してやまないものがあったからだ。


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あきゅろす。
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