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「無理をなさらず負担は分けてください。それが私の役目です。そして私には甘えてください。……貴方がこの一年で失くしてしまった者の代わりには決してなれませんが、支えてあげたいのです」


瞬間、息を呑んだ。

脳裏に過ぎったのは、懐かしい二つの笑顔。


そして。


「大丈夫、僕は大丈夫だよ?」


稔に言い聞かせると同時に、不甲斐ない自分にも言い聞かせる。


「なら、午睡の欠伸もしませんか?」

「あ…」


言い訳の出来ない事実を突き付けられて、煌は口ごもった。

多分、全てを理解していなくとも薄々稔は煌が何かに心を捕われているのを知っている。



―――いい加減にしなきゃ…こんなじゃ、セイにも笑われる…



昔からの自分の悪癖が最近、また顕著になってきている。

だが以前のようにそれを甘受し、自らに許すことなどもうあってはならないのだ。

それを稔に指摘されたような気がして、煌がため息をつきそうになっていると、笑んでいた稔の顔つきががらりと変わった。


「後、ご自分の能力を卑下するのもやめてください。父が円滑に見える軍政を行えていたのは、長年の経験による馴れと、適度な手抜きを知っていたからです」


そう言って、重ねていた手に強い力を込めた稔の表情は真剣そのもので、決して慰めや激励によるものではなかった。


「今の状況は決して煌さまの能力が低い所為ではありません。軍師の不在は父にも多大な影響を及ぼしていました。ですから…」


真摯な言葉に稔を見つめてコクリと頷いた後、煌は口元を緩めて遮った。


「なら、稔が軍師をしてくれればいい」

「それは…」

「稔なら適任だよ?僕はずっとそう言ってるよね?」


そこで。
ため息をつきそうな程の落ち込みに陥りそうになった自分を救った稔へ、重かった空気を払拭するように、煌はわざと言葉をぶつけた。


「私は上に立つのは不向きです」

「そんなことないよ?稔なら大丈夫」

「私を選ぶなら、適任は他にも沢山います。私を過大評価しないでください」


首を傾げて問えば、稔は途端に困惑で顔を歪ませる。

これは、いつものやり取り。

煌は軍師に稔をと思っている。けれど稔が辞退するので、こんな風になるのだ。



―――稔だって同じだよ。



煌が己を過小評価しすぎるという稔もまた、同じ悪癖を持っている。


*


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あきゅろす。
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