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「何故、謝るのです?煌さま」

「だって…祁纏将は…」


呟きかけて、煌はふいに押し黙った。
何かを思い出したのか、真剣な表情でむうっと口を真一文字に結んだ煌に稔はくすくすと笑った。
そして両の手で煌の左手を包み込み、そのまま傍らにひざまづいた。


「もう謝るのは終わりにしましょうと以前、約束しましたよね?それに失った痛みは、貴方の方が大きいはずです。私にはまだ母がいる」

「でも…」

「でも、は無し。それも約束しました。忘れてしまいましたか?」


真っ直ぐこちらを見つめてくる稔の顔を見ていられなくて、俯いた煌の額に彼の額が押しあてられた。


「あれは防ぎようの無い事故でした。誰を恨むことの出来ない…なにより貴方もあの事故で唯一無二の掛け替えのない存在を失った。なら、貴方が誰かに負い目を感じる必要などどこにもないのです。たとえ、貴方が公人であっても」

「うん…」


でも、と。
ごめんなさい、と。
その二言を封じられた煌は、頷くことしか出来ない。

本当なら稔の言うように、煌が悔いるようなことではない。

この一年、抱え込んできた重すぎる事実と想いを捨てさってしまえば楽にもなるし、謝る必要もなくなるのは解っている。

それでも煌の立場と背負う責任が、簡単に捨てさることを許さないから、結局煌は堂々巡りを繰り返すだけだった。


「その話は終わり。ぜんぶ、終わりです。いいですね?」


囁くように告げられた言葉と。
柔らかく合わせられた額から、震えるような温かさを与えられ煌の目尻に雫が滲んだ。


捨てさることは出来ない。
何度も繰り返し思い出しては、自分ではなく他の失った哀しみを想い、苦しむ。

でも。
もういいのだ、と言われる度に少しづつ赦されている気がしているのも確かだ。


「煌さまはあれからずっと頑張っています。だから、余計な重荷などもう失くしてしまって下さい」


額を離し、滲んだ涙を指先で拭った稔はそのまま目許に接吻をした。


「……あっ…、もう!子供扱いはやめてよ…」


昔、幼い頃にされたのと同じ甘い慰めに、煌は顔を赤らめ思わず拗ねて呟いたが、稔はいつもと同じ人懐っこい笑顔。


「そんな風に泣くのでしたら、まだまだ子供扱いで充分です」

「……」


頬を膨らませる煌に悪戯な笑顔を向けて、コツンとまた額を合わせた稔は瞳を閉じた。


*


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