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―――やはり、僕が色々上手く出来ないからだよね…



稔はそんな風に遠回しに嫌みを言ったりする人間ではないから、そんなつもりでその言葉を口にしたのではないことくらい、煌にもよく解っていた。


現在、武八将が一人であり自分の補佐役の地位にいる稔とは、もう6年の付き合いになる。

煌が10の齢を数え、本格的に政務を学ぶ事になった時つけられた世話役で、血の繋がった本当の兄の馨とはまた違った優しさをもって煌を見守ってくれているもう一人の兄のような存在だ。


世話役になった頃はまだ13歳であった稔だが、将来的には守人と共に桂花を守護する武八将の一人になるだろうと言われるだけの才覚があり、その任に抜擢された。


国の護りの要である武八将といえば、強面で屈強で、激しく猛々しい武人を想像されがちだが、稔は外見からしてそうはとても見えない。

淡い金の髪は、いつだって煌に真夏に咲く大輪の華を連想させる。
つねに人懐っこく笑む瞳は、生命を育む穏やかな湖の色。
華奢ではないが、煌と変わらぬ背がなんとなく小さな印象を抱かせる為、少々頼りなげな青年だ。

ただ、中身はまったく別物だ。

体術は他に圧倒されがちだが、身体の小ささゆえに素早く小回りがきき、剣術ではひけをとらない。
稔より二回りも大きな相手を、地面に平伏させる光景を煌は何度も目にしてきた。

そしてなにより、弓なら軍に並ぶ者はいない腕を持っている。
条件さえ調えば、一町先の的でも彼は易々と射ぬいてみせる。

武人としての高い能力を持つと同時に、さらに彼は戦術にもろう長け、知識も豊かで頭の回転も早い。

だから、頼りなげだとなめてかかれば、剣術でこてんぱんされた上に、口で理路整然と完膚無きまでに叩きのめされる。
正直、あの人懐っこい笑顔で、辛辣で反論の余地のない言葉を矢のように投げ掛けられれば立ち直れないだろう。


そんなどこまでも外見を裏切る実力の持ち主で怒らせると怖い稔だが、いらぬちょっかいさえださなければ、平素は穏やかで柔和だ。
つねに笑顔で誰にでも優しく、怒らせてしまった時でさえ、感情に振り回され激昂しているところは見たことがない。

自分を正しく律し、武人として真っ直ぐに生きている、それが稔だった。
そんな稔だから、陰ですら他人を非難、愚弄したりしない。
面と向かっての嫌味なともってのほかだ。

それでもあまりに自分の能力が低すぎて周りの足を引っ張ってしまっていることも、稔を知るくらいよく解っていた。


*



※一町→約1q


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