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まったく泣きやむ様子のない煌を、セイはそれでも辛抱強く撫で続けくれていた。


けれど。


「もう、駄目だ。こんな事は終わりにしよう」


煌の泣き声に紛れ、どうかすると掻き消されてしまいそうな程小さな声で呟かれた言葉だった。

しかし胸の中にいた煌にははっきり聞こえてしまい、涙は一瞬にして止まった。


「何がっ!?なんでっ!?」


セイが何を言っているのか解らなかった。

いや解らなくはない。
ただ煌は理解したくないだけだ。


本当は解っていた。
セイの言葉の意味が。

呆れられたのだ、こんな風に泣く自分は。

セイは。
自分より一つ年上なだけだが、煌などより余程落ち着いていて年齢には見合わない少年だった。
まだ七の齢も迎えていないのに、場合によっては三つ年上の兄よりも上に思えることもあった。

きっと、自分は幼過ぎて大人なセイに愛想を尽かされたのだ。


それだけではない。


きっと。
約束を違えたから。


でも。
諦めたく無かった。


「もう泣かないよっ!?我が儘も言わないっ!!ちゃんとするっ勉強もっお作法も……っ」


気がついたら縋るように叫んでいた。


「約束もっ破らないからっ!!」


必死にセイを見つめる煌の瞳から、また大粒の涙が零れ始めた。
静かにほろりほろりと零れるそれは、煌の必死な心の現れ。


「だからだから…嫌いにならないで…もうヤだって言わないでぇ…」


泣かないと言ったそばから零れ始めた涙が嫌だったけれど、それでも煌はセイから目を逸らそうとはしなかった。


「もう泣かないからっ、これが最ごっ、」

「違うっ!違うよっ!!煌っ!!」


すると。
どんなときでも落ち着いているセイが、動揺も露な声をあげて、びっくりした煌は言葉を飲み込んだ。


「違うよっ!煌!!そんな事をいいたいんじゃない!ただ僕はもう君を泣かせたくないだけなんだ!!」

「………え?」


何を言われているのか、少しの間、解らなかった。
けれども、必死にセイを見つめる煌の瞳に、同じくらい真剣なセイの瞳が映っていた。


「セイ…?」


呆然と呟くと、セイは涙に濡れた煌の頬を上衣の隠しから取り出した手巾で拭いながら、悲しげにそれでいてどこか悔しそうに続けた。


「ずっと、泣いていたんだろう?知ってたよ。皆が僕に教えてくれたんだ。僕がいないから…煌はいっつも泣いてるって」


訳がまったく解らなかった。
誰が自分の様子を彼に伝えたのだろう。


*


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