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ふと。
泣いている煌をその大きな白い躯で包み込んでいたヨウが、頬を舐めた。
温かく濡れた感触に、目を開くと覗きこむ金の瞳があった。
「ヨウ…」
泣き濡れた声で呼べば、ヨウは光彩を僅かに細めながら、咽を鳴らした。
ヨウはなにもせず、ただ側にいてくれている。
本当ならばもう帰ろうと、煌を促しているはずなのに。
優しい虎は煌の心を知っているから、せずにいてくれている。
「ごめんね…ありがとう…」
煌が目を伏せると、ヨウは煌の頬を何度も優しく舐めてくれて。
その優しさに尚更涙が止まらなくなる。
「セイ…セイ…会いたいよ…」
言葉に出してしまうと、もう本当に駄目だった。
「ヨウッ!ヨウッ!セイに会いたいのっ!!会いたいよぉ!!」
膝を抱え込んでいた腕を伸ばし、ヨウの首に強く抱き付いて煌は泣き始めた。
会えない哀しみならまだ耐えられた。
だが約束を破ったのは自分。
嫌われてしまっていたら…と、どうしても考えてしまう。
約束も守れない嫌なヤツだと…思われていたら…
もしそうだとしても、諦められない。
それでも会いたい。
嫌われていてもいい。
会いたい…
激しくしゃくり上げながら泣く声が、辺りに響いていた。
ヨウは抱き付く煌に頬を擦り寄せ、慰めてくれている。
けれど火がついたように泣いている煌には、その慰めも助けにならなかった。
今の自分を助けてくれるのは、世界中を捜してもたった一人。
「会いたい、会いたいよぉ」
「うん、僕も会いたかった…」
その時、ふわりと風が動いて。
ヨウの首にしがみつく煌を、誰かが背後から抱きしめた。
「え…?」
驚いた煌の涙は一瞬止まり、耳元ではヨウが安堵の吐息を零したのが解った。
「泣かないで?ね?煌…」
その優しい声は。
今の自分が一番聞きたかった声。
「あ…」
確認したくて振り返ろうとしたが、抱きしめる腕は案外力強くて、煌はもごもごと身動きしたが振り返れなかった。
「セ…イ…?」
「うん、僕だよ。遅くなってゴメン。でももう泣かないで?ほら、ヨウもシャンインも心配してる」
「あ…セイッ!?」
これは現実なのだろうか。自分に都合のいい夢を見てるだけなんじゃないだろか。
煌は信じられない思いで無理矢理振り返った。
「うん、僕だよ、煌…」
するとセイは抱きしめていた腕を緩め、煌の顔を覗きこんで微笑みながら名を呼んでくれた。
「本当にセイだっ!!セイッ会いたかったよぉっ!!…セイッ…セイッセイッ!!」
名を呼ばれ、セイの顔を確認出来た煌は、ようやく夢ではないと解って喜びのあまりそのまましがみついた。
再び泣きじゃくり始めた煌の背中を、セイはなだめるようにさすってくれている。
その手の優しい温かさに、ますます涙が溢れた。
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