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どんなに駄目と言われても。
皆に心配をかけたとしても。
煌には『惑いの森』に行きたい理由があった。
あの子に会いたい、ただそれだけの為。
一目見た瞬間、好きになったのだ。
その子と始めて会ったのはほんの数カ月前。それもその後たった1回会っただけだが、多分、好きになってしまうのに回数など問題にもならない。
どうしてそうなるのか大人はよく理屈を語るけれど、そんなものは理屈ではないのだと、まだ子供の自分でもなんとなく解っていた。
陽の光を吸い込むような灰黒の髪を風にそよがせ、煌の元に彼は舞い降りてきた。
彼の乗ってきた深紅の龍はとても大きくて、少しだけ怖かったけれども。
龍から飛び降りて、煌の目の前に立った彼が、母の持つ玉石によく似た綺麗な碧玉色の瞳で煌を見つめ、微笑んだ瞬間。
感じていた恐れなどどこかへ飛んでいってしまった。
『君も守人?だね?』
そう呟いて。
いっそう笑みを深めた彼に。
煌の心は早鐘のように高鳴った。
ゆっくりと落ち着いた口調で何かを問われ続けていたのも、心奪われた煌の耳には何も届かず、どうしたの?と問われて真っ赤になる始末で。
ようやく煌が平静を取り戻した頃には、すっかり打ち解け合い、互いの素性も全て話していた。
少しだけ。
本当に少しだけ、彼の素性には戸惑ったけれど。
それでももう、煌の気持ちは止められなかった。
『僕は前からよくここに来てるけど、君は?』
『僕はね?最近、来るようになったんだよ。みんなが駄目って言うから』
『ならこの辺りのことは知らないよね、案内してあげようか。色々教えてあげる』
『うん!!行くっ!!教えてっ!!』
そんな風に誘われ、差し出された手を取るのを。
躊躇すらしなかった。
『ね、煌って呼んでもいい?』
『いいよ!!なら僕もっ!!名前で呼んでもいい?えっと…えと…きょ…せい?』
『………。名前で呼んでくれたら嬉しいな、ありがとう。でも、言いにくい?』
『うん…ちょっと長い…』
『そうか…桂花は単字名が主流だものね。なら、呼びやすいように呼んでいいよ?』
『うーん………、なら、セイ!!セイって呼んでもいい?』
『うん!!いいよ、嬉しいな』
『嬉しいの?本当に?』
『うん…嬉しい。本当に…凄く嬉しい』
『なら、セイって呼ぶね!』
『うん、煌、僕も煌って呼ぶよ』
『うん、僕も嬉しいよ!!』
手を繋ぎ、歩きながら交わされた言葉はそんなたわいないものから、彼の豊かな知識から齎される事柄に至るまで様々だったが、何も知らなかった煌には目新しいことばかりで、楽しくてしかたがなくて夢中になった。
そう、回数など関係ない。理屈などこねるだけ無駄だ。
何故かなど煌自身にも解らないのだから。
何も解らなくても。
煌は出会って数刻後には彼が大好きになってしまっていたのだから。
煌の背負う責任やしがらみ、それらを全てを忘れて。
想いの濁流に逆らうには、煌は幼な過ぎた。
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