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おはなし
A

「もーいいわよ馬鹿ッ!!」

声を上げたのは彼女だった。森野は依然、背を向けたままだ。

「あんたがそんな感じなら別にいいし!ごてぃと付き合っちゃうもんねー!」

おいおい…そうなったら森野は…。

「(森野振り返れ!)」

こっちを向いて反論しろ!こんな玲雄磨みたいな野郎に負けるな!

その思いが通じたのか、森野はこちらを振り返った。

「あ?」

森野の「あ?」は俺たちで言う反論だ。

「ごてぃだったらアンタと違ってみおのこと守ってくれそうだし?」

「はしたねぇ言葉使うんじゃねぇ」

森野は自分のことを名前で言うヤツが嫌いで、はしなたいと思ってるらしい。

「…え?じゃあれおはどうなの?」

「ドンマイ」

玲雄磨のことは今はどうでもいいんだよ!

彼女がまた自分のことを名前で呼び始めた…つまり森野とガチで別れるかもしれない、ってことか?

「面倒臭ぇ…じゃあこうしようや」

ごてぃこと後藤寛斗が頭をかいた。

「練習試合、団体戦だろ?俺とこいつが当たるようにしろ。試合で決着つける」

そういうことか。

「分かったな、森野」

「勝手にしろ」

「…つーわけで、清林の主将頼むぜ。後藤は次鋒だ」

「あぁ…分かった」

俺は頷いた。

綾野先生と埼玉鳴尾の監督は審判を務めるので、オーダーその他試合のことは全部主将任せだ。

「じゃあ…オーダーを発表する」

重い空気の中、俺は円になっているみんなに告げた。

「先鋒、桃城」

「はい!」

「次鋒、森野」

「はい」

「中堅、綾部」

「はい」

「副将、早瀬」

「はい!」

「で、大将は俺だ」

そこから沈黙が続いた。

「みんな頑張ろーぜ!」

それを破ったのは虎治だった。

「なにこれすげぇ暗い!インハイの時めっちゃ盛り上がるじゃん俺ら!それで行こうや!森野は森野の問題、俺らは普段通り元気に…なっ!?」

「そう…そうですよ!」

虎治に続きモモも声を上げた。次第にみんなにも活気が出てきた。

「よしっみんなで勝つぞ!全勝だ!」

『はいっ!』

やっといつものみんなに戻った。


***


みんな気合い入ってんな。
俺は、どうだろう…?

‐あんたがそんな感じなら別にいいし!ごてぃと付き合っちゃうもんねー!‐

‐俺とこいつが当たるようにしろ。試合で決着つける‐

知るかよ。俺はそんなことのために剣道してるわけじゃねぇんだよ。特にこれと言ってなんのためとかってのもないけど。

整列して、防具を並べながらみおのいない今後を考えてみた。

「(あぁ…俺、)」

なんもなくなっちゃうな。ガチで、剣道しかなくなるわ。

「もーりの!」

玲雄磨を挟んで虎治が俺の肩を叩いた。

「なんだよ」

「へへへっ頑張ろうぜ!」

親指立てて笑っていた。

「言われなくても頑張るよ」

「…なんかさぁ、お前ひとりで剣道やってるよな」

「…は?」

「確かに剣道って個人競技だけど、みんなの気持ち背負ってみんなも一緒に戦ってんだよ。そういう意味でさ、剣道も団体競技だと思う」

「虎治…」

「俺はそう思って剣道してきた!ひとりで戦おうとすんな!彼女守ってやろうぜっ」

いつもなら「うるせぇバーカ」とか言ってあしらうところだが、今の俺にはかなり響いた言葉だった。ひとりで戦おうとするな、そうだインハイだってみんなで頑張って掴んだ栄光じゃないか。

「…サンキュな。リア充に、俺はなる!」

「ワンピースみたいに言うなよ!そしてリア充うぜぇー!」

「虎治うるせぇ」

「きたっいつもの森野だ!」

やっと俺らしくなってきた。あのままだったら自分の剣道出来ずに後藤に負けてたかもしれない。
俺はタダで人にモノやるほど良いヤツじゃない。早々簡単にみおを後藤にくれてやるか馬鹿野郎。

「礼!」

主審は埼玉鳴尾の監督だった。しかし綾野先生…まだまだ剣道ドシロートだってのに審判出来んのかよ。

整列した時に後藤と目が合ったがすぐ反らした。野郎の面なんか見てやるまでもない。

「モモ」

「はいっ森野さん!」

先鋒のモモに声をかけた。団体戦では先鋒と次鋒は面まで付けて準備する。

「頑張れよ。俺は絶対勝つから、お前も勝て。俺らでいい雰囲気持ってこうぜ」

「はいっ頑張りましょう!」

入部当初に比べていい返事するようになったじゃん、モモ。俺はそんなモモの背中を叩いてやった。

「始め!」

「ヤァアアア!!」

気合いの入ったかけ声とその勢いでモモは相手の小手を払い面。気持ち良い音が鳴り響いた。

「面あり!」

「モモいいとこー!」

虎治を始めみんな声をかけ大きな拍手。

有言実行。いい流れで俺に繋いでくれそうだ。

「勝負あり!」

結果、先鋒戦はモモの二本勝ちで終わった。モモはコートの外で待つ俺に一礼した。

「ナイス一本」

「ありがとうございます!森野さんも頑張って下さい!」

「おう」

モモと入れ代わり俺がコートに入った。目の前には後藤。

「(野郎…清林ナメてんじゃねぇぞ)」

お互いゆっくり蹲踞し、始めの号令がかかった。

「っしゃあぁあああ!!」

勢いのまま後藤が前に攻めてきた。なにが来る?面か?小手か?突きか?

後藤の腕が上がる。なにが来るか分からず身体が硬直した…が、このまま安々と野郎の打ち込み台になるのはもっと嫌だ。俺は真っ直ぐ飛び込み腕を前に伸ばした。突きだ、そうすれば相手の竹刀は俺に届かない。

…が、後藤は首を横に傾け俺の突きをかろうじて交わした。

途端に、腹部にドシンと大きな衝撃が走った。

「がはッ!」

胴?しかしどうやって打った?仮に突きが外れたとしても剣先が防具に引っかかって竹刀は届かないはずだ。どうやって、一本決まりにくい胴を?こんな力強く…?

「胴あり!」

後藤に旗が上がる。試合開始からまだ1分も経ってないってのに…。

「見たか清林!」

後藤は竹刀を持ってない右手拳を俺に突き出した。

「学校の名前だけで、実力以上の評価を受けてるヤローどもに俺は負けねぇ!」

なんだとっ…!?

「教えてやるよ、今のはかつぎ胴だ。今までどこの学校も俺のかつぎ胴は攻略出来てねぇ!」

野郎…っ!

「俺を倒せねぇでみおちゃんのカレシ面してんじゃねぇ!!強ぇ男がオンナを守れる、今のお前じゃみおちゃんを泣かせるだけだ!!」

「…ってめぇ、この「森野!!」

カチンときたところを潮坂さんの声で我に返った。見るとグッと俺を睨んでいる。

「(俺は…みんなを裏切ろうとした)」

ここでブチギレてつっかかれば台無しになる。せっかくモモが繋いでくれたこのイイ流れを壊したくない。

竹刀を握る左拳にグッと力を入れた。ガマンだ、なにを言われても耐え抜け。

「後藤!!いい加減にしろ!!」

ついに埼玉鳴尾の監督がブチギレた。どうやらこれが初めてではないようだ。監督の口から「お前はいつもいつも」だの「何度言えば」などの言葉が出てくる。

「(玲雄磨に似てると思ってたが…)」

玲雄磨よりタチ悪いなこいつ。こんな野郎にみおは任せられねぇ。

「反則一回!」

今ので後藤は一本取ったが同時に反則も取ってしまったようだ。へっ…ざまぁみやがれクソが。

二本目の号令。

「(かつぎ胴か…)」

初めて見たな。どんな風に打ったのかちゃんと見てみないと攻略しようがない…けど。

「(あんなのまた来たらかわしきれねぇ)」

打ち込みながら考えた。

目には目を、歯には歯を、かつぎ胴にはかつぎ胴を。

いちかばちか。

さっきかつぎ胴を食らった時と同じシチュエーションを作って見せた。突きを打つフリをして…。

「(きた!)」

腕を上げ、まるで空を切りかつぎ上げるよう竹刀を大きく左に回している。普通の胴打ちより大げさな感じだ。
同じ技を何度も食らうほど馬鹿じゃない。胴を打たれる前に、相手の身体に自分の身体を寄せ付けその勢いで体当たり。後藤は耐えることなく真後ろに吹っ飛び倒れた。それでも俺は攻撃の手を緩めることはしない。竹刀を頭の上まで掲げ…。

「やめ!」

くそっ…号令かかるかやっぱり。

後藤は立ち上がり跳躍。身体を解した。

「始め!」

その場からまた試合続行。

分かった。今のでかつぎ胴ってヤツが。確かに後藤のかつぎ胴は凄い、あんなの攻略出来ない、つーかする気もない。
相手がかつぎ胴で来るならこっちだってかつぎ胴で行ってやろうじゃねぇの。

「(…やったことないけど)」

ミスってもいい。試合が終わってみんなの元へ戻ったとしてもきっと笑って迎えてくれる。

こんな技でみおを守れるならいくらでもしてやらぁ。

試合は硬直状態に陥った。構えの位置から互いに動かないのが続いた。
かつぎ胴は大きくダイナミックな技だ。効果的なのは試合開始の号令直後か、今まさにこの…硬直状態だ。

「(見よう見真似だが…やってみるか!)」


***


野郎…なにか清林レギュラーだ、こんなんがレギュラーかよ!戸田も騒ぐこたぁねぇのによ。

しかし…この硬直状態は避けたい。しかし陥ってしまったからにはいち早く抜け出してしまいたい。

その時。

森野が動いた。動じるな、ガマンしろ!
森野は腕を上げた竹刀を左へ振り回し…ん?これって…

「(俺のかつぎ胴!?)」

「森野っ!」

「すげぇ!アイツも出来たのかよ!?」

清林のヤツらも驚きを隠せない。

そんな馬鹿なっ…俺のかつぎ胴を…今のたった数回見ただけで真似たってのか。あり得ねぇ、んな簡単にされてたまるか!

胴がくるのは分かってるんだ、かわせる。打たれまいと腕を下げ肘を曲げる。胴を完全に塞いだ。

「(どうだ!!打てるモンなら打って)」

パーンッ!

なにっ!?

「小手あり!」

小手だとっ!?

「バーカ」

見ると森野はドヤ顔でペロッと舌を出した。

「胴を塞いだつもりか?小手がガラ空きなんだよ。てめぇと清林の違いはなぁ…ここぞって時に強いか強くねぇかだ」

「…ってめぇ」

「騒ぎたきゃ騒げや。次やったら確実に退場だ。試合で馬鹿騒ぎするガキがオンナ守れるって?笑わすな」

払い面、払い小手、払い胴があるように。
かつぎ胴だけじゃねぇ、かつぎ面、かつぎ小手もあるんだ。

発想とここぞで乗り切る忍耐力。

「(やっられたぁ…)」

野郎に小細工はいらねぇわけだ。すっきりした。今からガチでぶつかっていけるぜ。

*Bに続く*



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あきゅろす。
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