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『赤貧』
※mainに置いていた連作短編を移動したものです。


「げっほ!ごへ!うげあっ!」
「無理すんなよ、親父。飯作るから寝転んで天井でも眺めてろって」
「さとしぃ、飯何?我が輩コロッケが食べたいなり」
「黙ってろ役立たず。てめえが居る限り動物性タンパク質は身分不相応の馳走なんだよクズ」
「ううっ、苦労掛けるなあ……お、俺がこんな身体じゃなけりゃあ、ごほごほ」
「親父、それは言わない約束だろ」
「コロッケ!コロッケ!」
「ミンチにされてえのか」
「げほげほ!すまないなあ…!」

四畳一間のボロアパートに大の男が三人。
一畳半は持病に苦しむ寝たきりの実父専用万年床に占領され、一畳は必要最低限にも及ばない微々たる生活用品が床を覆い、残り一畳半には稼ぎ無し血縁無しの駄目男が長い手足を投げ出して寛いでいる。
 未成年にして一家の大黒柱である俺はというと、その隙間を爪先立ってかいくぐりキッチンとも呼べないガスコンロにつつましやかな小さい土鍋を火にかけている所である。
土鍋の蓋を持ち上げて、米投入。
それに過剰な水分を含ませて銀シャリ未満粥未満、貧乏人の十八番料理の雑炊にお人好しな隣人に無期限でお借りしたうどんだしを勿体ぶって入れる。
ガタガタと窓枠が風に押され、建て付けの悪いその隙間から漏れ入った外気に項が粟立った。
しょっちゅう家鳴る築五十年の遺跡的アパートの耐久性は信用度が激しく低い。

 郵便局の配達員として定職に就き、なおかつ内職までしている身なのにこの困窮ぶりは如何なものか。
理由の一つとして寝たきり病人の父が挙げられるが、そこは家族だ。
面倒を見るのは当然だろう。
他に、蒸発した母親の残した目の眩む程の借金。
派手に遊び歩いた挙げ句姿を消した彼女の勝手に翻弄されるのは不本意も底無しだが、お袋に未練タラタラの親父を伊達に五年も見ていない。
遊び人を母に持つ哀れな子息として、誠心誠意、毎月の返済は怠らない。俺こと聡君は我ながら感心する程、親孝行な息子なのである。

 しかしだ。
天使のように寛大な俺にも唯一見過ごせないモノがある。
稼いだ分だけ塵に帰す。
度重なる不運の数々。
我が家の貧しさの元凶。

「肉が食いてえよーさっとしー!」
数少ないスペースを占拠して無茶な要求を衣着せずだだ漏らすこの男。
「テメエは雑炊の上澄みでも飲んでやがれ、疫病神」
「残念、疫病神様は俺よりいっこランク上。貧乏神様は心優しいから、君達をビンボーにするだけなんだぜ!」
「何いばってんだウドの大木」
ひひひ、と笑う見た目チャラ男のパツキン野郎。
そう。
家計を圧迫する為だけに存在しかつ我が物顔で飯の催促までしやがるこいつは、昨今昔話やなんやで不幸の代名詞と語り継がれている、
『貧乏神』なのである。
自称、だけならばどんなに良かっただろうか。


続.




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あきゅろす。
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