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第二の人生


邂逅


魔王の伴侶を地下の座敷牢へと放り込み、騎士は主の元へと踵を返した。
薄暗い地下牢への道から足を進めるにつれ壁面に備えられた光源は数を増していく。
硬い靴音を鳴らし辿り着いたのは王の待つ玉座。
姿を隠す御簾の前に跪き、騎士の先程の首尾を淡々と報告する。
が、それにに応ずる声は無い。
魔王の伴侶、“卵”に関して異常なまでの執着を見せる主人である。
返答が無い事を訝しんだ騎士は、しばし逡巡した後、躊躇いがちに御簾を捲った。

「失礼致します。陛下」

薄衣の向こうには、騎士の敬愛する東国の王が、まだ少年らしい体躯を投げ出し、光を失った瞳でぼんやりと虚空を見つめていた。
どこにも焦点の合っていない瞳、だが時折細かく揺れている。
そして唇も注視しなければ分からない程に開閉を続け、何か言葉を紡いでいるようだ。
人形細工のような端正な唇の端を漏れ出た唾液が汚している。
己の帰還にも、御簾を開けた無礼にも気付いていないどころか、明らかに異常だ。
騎士の瞳孔は開かれ、全身の毛穴からは嫌な汗が吹き出した。
先刻までの饒舌な王の姿はどこにも無い。
これは一体何事なのか。

「陛下、アクト様…!」

底無しの喪失感に触れたような気がして、一心不乱に呼びかけ縋る騎士。
思わず触れた王の指先の冷たさに、騎士の頭は鮮烈な既視感を覚えていた。
途端に目の奥が点滅を繰り返し、眩暈のような感覚が騎士を襲った。
呻き声を上げ、床に崩れ落ちる。
瞬きの度に視界に焼き付き、目まぐるしく移り変わる残像は、まだ少年であった自分、父親、先代王ーー。

『わたしだけに仕えると約束するのだな』

そして、今よりももっと、幼い日の主人。



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あきゅろす。
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