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もしもの話
戸惑いの日。
その日、彼らは皆戸惑いの中にいた。










武藤遊戯、武藤カンパニー社長就任。


記者会見報道の翌日、童実野高校はその話題でもちきりだった。





『昨日のニュース見たか!?』
『見た見た!あれってウチのクラスの武藤だろ!?っつーか、マジにあいつ社長になるのかよ!?』


『武藤くんのお父さんって、MCの社長だったんだね。飛行機事故で亡くなったって、テレビでやってたよね……』
『だからなのかな?要するに、お父さんの跡を継ぐってことだよね、これ。』


一番騒がしいのは、やはり遊戯のクラスメイト達。


そんな中、城之内と本田の間には沈黙が流れていた。





「…………」
「…………」
「……杏子、まだ来てねえな。」
「…………」
「……大丈夫か、城之内?」
「……ああ。」


登校してすぐ、城之内と本田は揃って質問責めにあった。
遊戯と最も仲の良い彼らなら何か知ってるのではという、好奇心丸出しのクラスメイトに不愉快になりつつも、最初は適当に受け流していた。


……自分たちだって、知らなかったのだ。


自分たちは遊戯の親友だと思っているし、遊戯だってそう思っていると信じている。
そんな自分たちにさえ告げられることのなかった事実に、こっちだって混乱しているのだ。


良く知らないと答えた自分たちに、尚しつこく食い下がってくるクラスメイトに城之内がキレかけた事で質問責めからは解放された。


やりきれない気持ちを持て余しながら、杏子を待った。





遊戯のことを知っていたのかどうか、確かめたかった。


……質問責めに合うのを予想して、学校を休む事もあり得るが。





ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ


重い空気の中、本田の携帯の着信音が鳴った。


「メールか……!」
「どした本田?」
「……杏子からだ。」
「!!」










『遊戯の事で話しておきたいことがあるの。放課後、童実野美術館に来て。』


ただそれだけの短いメールだった。


特別な展示物のない今の美術館なら人もそう多くないし、じっくり話をするのにはぴったりだろう。
二人は放課後、クラスメイト達を振り切るように教室を飛び出した。





「こっちこっち、二人とも。」


杏子は美術館の入口、人目につかない柱の影で待っていた。


「杏子……」
「……中、入ろ?それから話すから。」





入ってすぐのホールに置いてあるソファに三人で座り、杏子が話し出すのを待つ。


「遊戯のこと、だけど……」
「杏子は知ってたのか?」


小さく首を縦に振り、本田の言葉を肯定する。


「何で……教えてくれなかったんだよ……」
「城之内……」
「だってそうだろ!?オレらと同じ普通の高校生だって思ってたのに、いきなりニュースで社長になったなんて、ワケわかんねーよ!?」
「落ち着け城之内!」


杏子に掴みかかりかねない勢いで立ち上がり、叫ぶ城之内を本田が宥める。


「君たち!館内では静かにしなさい!」


警備員に注意されて、城之内も我に返ったらしい。
乱暴にソファに座って頭を掻き毟る。





「……約束、してたの。」





「約束?」
「遊戯の、お父さんと。」
「……どんな約束だよ。」





「遊戯が『普通』の学生生活を送れるように協力するって。」





「『普通』って……」
「遊戯がMCの社長の息子だって最初から知ってたら、今と同じになれた?」
「それは……」





武藤カンパニー、通称MC。


休日になれば大勢の人で賑わう人気スポット、屋内型アミューズメントパーク“MCステーション”を全国各地に展開。
MC製の玩具は子供達の憧れの的であり、一種のステイタスと化している。
その水準の高さから、大人にもMC製玩具のファンは少なくない。


そんな超巨大企業の社長の息子が遊戯だと、最初から知っていたら。





「……知ってたら遊戯のこと、遠ざけてたかもな。」


ぽつりと本田が呟いた。
住む世界が違い過ぎるからと、自分から話しかけることもなかったかもしれない。


「……かもしんねー。」


城之内も本田に軽く同意する。
そもそもそういった“お坊っちゃん”という人種には反感を覚える質なのだ。
友達どころか、むしろ嫌っていた可能性もあった。


「……だからなの。友達と学校帰りに寄り道したり、休みの日には皆で遊びに行ったりっていう、当たり前だけど貴重な経験をさせてあげたいって、遊戯のお父さん言ってた。」





普通なら、遊戯は企業の社長の子供や政治家の子供等が通う名門と呼ばれる学校に進学していたのだろう。
だがそれでは見えないこと、わからないことはどうしても出てくる。


裕福な家の子供達にばかり囲まれていては、一般家庭の子供達の感覚を掴むことはできない。
MCの玩具は全ての子供達のために作られているのだから。
それ故に、遊戯の父は遊戯をごく普通の公立の学校に通わせていた。





「…………わかったよ。」


長い沈黙の後、城之内が呟いた。


「社長だろーと何だろーと、遊戯は遊戯だ!オレ達のダチだってことには変わりねーんだろ!?」
「だな。あ、でもアイツが学校来たら文句の一つくらいは言わせてもらうけどな、それくらいは許せよ?」





遊戯の現実を、城之内と本田は受け入れた。





「二人とも…………ありがとう。」





そんな二人に、杏子は心からの感謝の言葉を告げた。










終わりを迎えた、戸惑いの日。


END



あとがき。

今回は遊戯と海馬はお休み。


そのせいか、書き上げるのに苦労しましたι
前回の更新から何ヶ月経ってんだろ……


次の話には、ちゃんと遊戯と海馬の二人出しますからね。
その前に今回の補完的な話を書こうかな。

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