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もしもの話
高校生社長と秘密の友人の会話。


「ただいまー……ふう。」


誰もいないボクの部屋。
だけど、ここにはボク以外にもう一人いる。


『お帰り、相棒。……疲れてるみたいだな。』
「アテム……うん、少しね。」


彼はアテム。


子どもの頃に、パパがエジプト土産だって渡してくれた千年パズル。
三千年の間、誰も完成させたことがない。
そんな曰く付きの―半分は箔をつけるための創作だろうけど―物。
八年近くかけて、数ヶ月前にようやく完成させた。


そして彼は現れた。


完成させたと同時に輝きだしたパズル。
眩しくて目を閉じて、もう一度目を開けたらボクによく似た彼がいた。


アテムと名乗った彼は、名前以外の記憶は大分あやふやみたいだった。
パズル自体はとても古い物だし、幽霊(?)の一人や二人憑いていてもおかしくなさそうだけど……
とりあえずボクに危険なことや怖いことはなさそうだし、記憶を取り戻し成仏できるまでは一緒にいようと決めた。


それ以来、誰にも秘密の友達としてボクとアテムの付き合いは続いてる。





「アテム。」
『何だ?』
「ボク、パパの後を継ぐよ。」
『……そうか、決めたんだな。』
「うん。」





一週間前、パパが死んだ。


パパは日本では最大手のアミューズメント企業とされている、武藤カンパニーの社長だった。
当然、誰を次の社長にするかで揉めた。
普通なら息子であるボクが継ぐんだろうけど、まだボクは高校生。
経営に関することなんてほとんど何もわからない。


それでも。





「……経営のことは、しばらくじいちゃんに任せっきりになっちゃうけどね。」
『確かじいさん、初代社長だったっけ。』
「うん。……ボクも、できるだけのことはやっていくつもり。」


今のボクにできること。


ちゃんと勉強して、大学の経済学部に入る。
会社がどんな仕事をしてるのかをきちんと把握する。
与えられた仕事を責任を持ってこなす。


あとは……





『……できることから頑張っていけばいいんじゃないか?』
「うん、そうだね。」
『ごめんな、オレには話を聞いてやるくらいしかできなくて。』
「そんな、謝らないでよ。……あの時は、すごく助かったもの。」





パパが死んだって聞いて、最初はめちゃくちゃに叫んで喚いてママとじいちゃんに迷惑をかけてしまった。
……この時のこと、ボクはよく覚えていない。
パパはもういないんだって事が、どうしても認められなかったんだと思う。





気がついたら自分の部屋にいて、アテムが心配そうにボクを見ていた。


『相棒……何があったんだ?』


アテムは黙ってボクの話を聞いてくれた。





……そうしてやっと、ボクはちゃんと泣くことができた。
パパが死んだという現実を、受けとめることも。





「アテム。」
『ん?』
「これからも、よろしくね?」
『……ああ。オレで良ければ何でも話してくれよな。』
「ありがとう。」





じいちゃんが立ち上げて、パパが大事に育ててきた会社。


ボクはボクなりの方法で会社を大切にしたい。


きっとそれが、ボクにできる最大の親孝行なんだから。





END


あとがき。


遊戯の決意表明。


この物語では、アテムは遊戯以外には(現時点では)存在を認知されていません。

二心同体ではないので、入れ替わりもありません。


多分アテムの出番は今回のような幕間的な話に限られるかな?



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あきゅろす。
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