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もしもの話
遭遇。


長くて短い冒険。


そして二人は遭遇する。










(ようやく戻ってきたな……)


少年の歩みに合わせていたからか、入ってきたときの倍近く時間がかかったように思う。
海馬と少年は城の正門の見える場所にいた。


(しかし……今更だが、コイツは何者だ?)


ここに辿り着くまでに起きたことを考えればそう思うのも致し方ない。
あの黒い影達が何度となく襲ってきては、少年を連れ去ろうとしたのだから。
それだけではない。
城の中には、少年にだけ反応する謎の石柱も存在した。
海馬が触れても何も起こらないただの石柱。
だが、少年が近づくと石柱から光が発せられ少年の体もまた光に包まれた。
そして石柱は動きだし、二人の前に新たな道を示した。


(城の主とやらの縁者か……?だとしても、言葉が通じない以上確かめる術はないが……)


それに、この少年には生け贄などといった血生臭いことは似合わない。

服の白と等しい程にその肌も白い。
星を思わせる、少し変わった形にまとまった髪。
髪の一部、前髪の部分だけが金色に染まり、その下からはあの瞳を覗かせている。


魂の奥底まで見透すかのような、紫水晶の瞳。





繋いでいた手をしっかりと握り直し門へ、城の外へ向かって歩きだす。
この少年が城に縁のある者ならば多少の反応があるかと思ったが、おとなしく自分に付いてきている。
杞憂だったかと安堵したその時だった。


……ズズズズズ


「何だ?……!?」


門が動きだした。
巨大な石の扉が、少年を城から出すまいとするように閉まり始めたのだ。


「いかん、走るぞ!」


通じないのはわかっているが、それでも一声かけて少年の手を引き駆け出した。

重厚な音を響かせながら閉まりゆく扉。
もう少し、というところで少年が石畳に躓き倒れた。


繋いでいた手が、離れた。


急いで立ち上がらせようと駆け寄った時、声が響いた。


『※※※、※※※※※』


おそらくは少年の使う言語と同じものだろう。
少年が、びくりと肩を震わせた。


そして、彼の者は現れた。




(何だと……!?)


服こそ少年の物と似た作りだが、纏う雰囲気がまるで違う。
草原を思わせる若草色の髪。
猫の様な金色の瞳には、隠し切れていない狂気が見て取れる。
彼の周囲の空気だけが闇色に染まって見える程に、この者の持つ雰囲気は狂々しさに満ちていた。


だが、何よりも目を引いたのはその顔。


髪と瞳の色こそ違うが、まるで鏡に映したかのように海馬とそっくりだったのだ。


『キミだね?ボクの大事な遊戯を連れ回しているのは。』





∞∞∞∞





あれが城からの出口……


結局、ここまで来てしまった。
ボクが影達に連れて行かれそうになる度に、蒼い瞳の人は剣を振るい追い払ってくれた。
……どうしてここまでしてくれるのかな。
ついさっき会ったばかりの、言葉も通じないボクにここまでする理由なんてないはずなのに。


それに、ボクはこの城から出ることはできない。


それでもここまで来たのは、蒼い瞳の人を見送りたかったから。
檻から出してくれた。
ボクの手を引いて歩いてくれた。
それだけで、十分だから。




繋いでいた手に少し力が入った。
蒼い瞳の人が、門に向かって歩き出す。


だめだ。


ボクはこの手を、離さなくちゃいけないのに。


なのに……





……どうして、この人ともっと手を繋いでいたい、なんて思ってしまうんだろう。





……ズズズズズ


(……?)
「※※?……!?」


門が、閉まり始めた?


……あの人だ!
あの人が、門を閉じているんだ!


「※※、※※※!」


蒼い瞳の人が、ボクの手を引いて走り出した。
ボクに構わないで、一人で行けばいいのに。
この人一人なら、門が閉じる前に外に出られるのに。


でも。


もしも、ボクも一緒に外に出ることができたら。


そうしたら、この人とまだ手を繋いでいられる?





(!?)


そんなことを考えていたせいか、石畳に躓いて転んでしまった。


繋いでいた手が、離れた。


慌てて立ち上がろうとした時に、声が響いた。


『さあ遊戯、良い子だから戻るんだ。』


肩が跳ねる。


……あの人が、来る。


そう判った途端、動けなくなってしまった。





∞∞∞∞





只者ではないことだけは気配で十分に判る。
剣を抜いたところで、おそらく返り討ちにされるであろうことも。
それに、彼の者が現れたのは少年のすぐ傍だ。
少年を巻き添えにはできない。


「貴様……何者だ。」
『……この城の主。それで十分だろう?』


人を見下すような、癇に障る微笑を浮かべながら金の瞳の男は答えた。


『それよりも……キミはこの子が誰なのか、解っているのかい?』


蹲ったまま、動けずにいる少年に視線を向ける。
城の主と名乗ったこの男に、随分と怯えているようだ。





『この子、遊戯はボクのたった一人の半身。ボク自身の力を具現化することで生まれた、謂わばボクの息子であり弟とも呼べる存在。』


「……っ!?」





信じられなかった。


血生臭いことなど似合わない、無垢な存在だと思っていた少年―遊戯が





『キミのような人間とは異なる存在。そして……いずれはこの城を受け継ぐ者。』





この、闇と狂気の塊のような男によって生み出されたことが。





『所詮、キミとは住む世界が違うんだ。……さあ、わかったらその子を置いてこの城から出ていけ!』





男から竜巻にも似た強烈な力を叩きつけられ、思わず目を閉じた。
目を開けたその時には、城の主だという男は消えていて、後には蹲ったままの遊戯が残されていた。





「……大丈夫か?」


近づき、しゃがみこんで遊戯の様子を確かめる。
顔色が悪い。
あの男の毒気に当てられたのか、肩が小刻みに震えている。


『……※※※※※※……』


何事か呟いて、益々その躰を小さくしていく遊戯。





だが。





「……行くぞ。」





出会った時と同じように、再び遊戯に手を差し出す。


このまま城に留まることが、遊戯にとって良いこととは思えなかった。
ならばもう一度、城からの脱出を試みるだけだ。





……遊戯と、共に。





暫し考え込んだ後、躊躇いながらも遊戯はオレの手を取り立ち上がった。
それを了承と受け取り、城の探索を始めようとした。





『※※※、※※※※※※※※……』





瞬間、城の主と名乗ったあの男の声が響いた。
まだ何かあるのかと警戒したが、男が現れる気配はない。


(……遊戯に、何か言ったのか?)


遊戯にのみ伝わる言葉を残していったのならば、遊戯に関する何か重要なことだとは思うがそれを理解する術をオレは持っていない。





(……まあいい。何を言ったか知らんが、オレの……オレ“達”の目的は変わらない。)





この城を、二人で共に脱出する。


遊戯の手を握りしめ、脱出方法を探すべく歩き出した。





∞∞∞∞





いる。


あの人がボクのすぐ傍に。





……こわい。


ごめんなさい。
この城から出られるかもなんて考えて。


ごめんなさい。
あなた以外の人と一緒にいたいなんて思ってしまって。





もう二度とこんなこと考えないから。


だから、蒼い瞳の人だけは無事に城から出してあげて。


……お願い……





刹那、あの人の力が渦巻いたかと思うと次の瞬間には気配が消えていた。





「……※※※?」


……良かった、この人は何ともなかったみたい。
だけど……


『……あの人は怒ってる……』





「……※※」





(…………どうして?)


初めて会った時と同じように、ボクに向けて差し出された手。





だって、あの人からボクがどんな存在なのか聴かされたはずなのに。


ここでボクを置いていけば、無事に城から出られるのに。





(…………ボクは……)





蒼い瞳の人の手を取って立ち上がる。


……この人についていく。


ボクのことを知っても、手を差し伸べてくれた人。
もし少しでも城の外に出られる可能性があるなら、それに賭けたい。


それがボクの選択。





『バカだね、キミは城の外では生きられないのに……』


あの人の声だ……


わかってる。
それでも、できるだけのことをしたいんだ。


どうしてだろう、今はあの人のことがそんなにこわくない。


……蒼い瞳の人と、手を繋いでるからかな?





ボクの手を強く握りしめて歩きだす蒼い瞳の人。


もう少しだけ手を繋いでいられる。


それがなんだか嬉しかった。





少年のことを知った青年と、自分自身の意思を持った少年。


長くて短い冒険は再び始まった。


END

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あきゅろす。
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