ほんの一秒でも君と(fjwt)
読んでいた本から顔を上げて、壁の時計を見る。
17:48。
窓から校庭を見下ろすと、陸上部とサッカー部の何人かがそれぞれの用具を片付けていた。
(そろそろかな)
ぼくは開いているページに栞を挟んで本を閉じて、椅子に座ったまま一つ伸びをしてから本を鞄にいれて立ち上がると教室の電気を消した。
そのまま教室を後にする。
ぼくらの教室のある4階から1階まで、大して急ぐでもなく、階段を降りていく。
9月はまだ消えていた電気も10月になるといくつかついていて、うっすらとした影が段に合わせて規則的にずれている。
踊り場にある大きな窓から見える空はもういつかのようなオレンジ色ではなく深い青色をしていた。
「渡瀬!」
1階に着くのとほとんど同時に藤倉くんの呼ぶ声がした。
小走りで彼のところまで行くと、藤倉くんは練習の後で暑いからか詰め襟の前の釦を全開にして、髪の毛は汗で少しだけしっとりしている。帰宅部のぼくが使っている指定の鞄よりも一回り以上は大きい陸上部の名前が入ったエナメルのスポーツバッグが、入部したての頃よりも様になっている気がした。
その姿に一瞬見惚れたあと、既に藤倉くんが来ていたということに気づく。ぼくのが早いと思ってたのに。
「今日、早かったんだね」
「早かねーよ。渡瀬こそ、教室に迎え行こうと思ったらもう階段とこにいるし。」
藤倉くんの少し拗ねたような声を聞きながら靴を履き替えて、二人で学校を出る。
「俺がそっち行くから、待っててくれていいっていつも言ってるのに。」
俺は渡瀬に早く会えるから全然いいけどさぁ……なんて言ってる彼が子供みたいで可愛くて、普段はかっこいいのにとかそんなところもやっぱり好きだなとか、こんな些細なことでも思う。
「いいんだよ。読んでた本もキリがよかったし。それに、」
そこで言葉を切ったら、藤倉くんはほんの少し首を傾けながら「ん?」と尋ねる。
「ぼくも早く藤倉くんに会いたかったし。」
藤倉くんのほうを向いて言うと、彼は「あー……」とか「えっと、」とか言いながらしばらく目線をさ迷わせた。
なんだかいつもと立場が逆転して、たまにはこういうのもいいな、って考えてると何か思い付いたのか藤倉くんはまたぼくに向きなおす。
「とりあえず、そこのコンビニ、寄ってかない?」
ぼくは一瞬驚いたけど(やっぱり彼には適わない)、返事の代わりに笑顔を返した。
::ほんの一秒でも君と::
--End
すごく、難産でした……←
と、いうことで一周年記念1本目!
お題は「1秒」ですが、裏テーマは「部活終わる藤倉に合わせて教室を出られる渡瀬」です。
お互いがお互いを好きすぎて、書きながらこのリア充め(^ω^)って思ったのは秘密。
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