籠
嘘つきと正直者(黄瀬)
「はい、黄瀬くん。」
そんな言葉と一緒に書き終わった日誌を渡される。
あとは俺が今日の感想を書けばおしまい。
受け取った日誌を書こうと思ったら、向かいに座って頬杖ついてる君が切なそうに窓から体育館を見るから、慣れてるはずなのに、何故かいつもより胸が苦しくなって、思わず口が滑った。
「名前っちは、笠松先輩のこと好きなんスか?」
彼女は一瞬(本当に、多分オレじゃなかったら気づかないぐらい一瞬)驚いたような顔をしたけど、すぐにいつも通りの、ちょっと無愛想な表情に戻った。
「別に、そんなんじゃないわ」
「でもいつも目で追ってる。」
ほぼ毎日、好きって言って抱きついて。
その度に軽くあしらわれてるけど、本当に好きだから、君が誰を好きかぐらいすぐにわかった。
「……。」
「嘘が下手っスね」
「……好きだけど、本当に付き合うとかはどうでもいいのよ」
彼女の口から出る「好き」という響きがこんなに痛いものだとは知らなかった。
頭を強く殴られたときみたいな衝撃だった。わかってたはずなのに。
「オレとならすぐに両想いになれるっスよ。名前っちのこと大好きっスもん。」
「いつも言ってるわね」
「信じてもらえないっスけどね。」
「あんな子供が親に言うみたいに言われて、信じろっていうほうが無理だわ」
丁度そこで携帯が鳴った。
画面を見ると、そこには「キャプテン」の文字。
「げっ」
「部活の人?」
「……まぁ。」
内容は予想通り、「早く来い」とのことだった。
曖昧に言葉を返しながら、返事のメールを送る。
(普段メールなんてしないくせに)
「日誌、先生には私から渡しておくから早く行ったほうがいいんじゃない?」
エースなんでしょ?、と言いながら差し出された手にお礼を言って日誌を渡すと、慌てて帰りの支度を始める。
彼女のほうが早く終わったけれど、オレが終わるのを待っててくれた。そこに彼女にとってはなんの意味もないことを知ってるから、心の中で苦笑する。
「それじゃあ、また明日。部活、頑張ってね」
「はいっス」
一人になってから、何度も彼女の言葉を反芻してて、自分も大概バカだなぁと自嘲気味に口の端をあげた。
::嘘つきと正直者::
--End
全部笠松先輩に持ってかれる黄瀬。
いつかやつの幸せな話も書いてみたいです。
(Title:ななめ40°様)
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