籠
ファーストコンタクト(黒子)
(あーもう、先生今日に限って話長すぎ……!)
図書室に続く廊下を走りながらそんな愚痴をこぼす。
今日は図書委員の当番の日。カウンターで本の貸し出しや返却の手続き、書架整理なんかをしなくちゃいけない。
かつ、今日はバレンタイン。
友達や先生の分は既に渡し終えて、鞄の中は行きとは違うお菓子が詰まってるけど、あともう一つだけ、渡してないお菓子が入ってる。
今年は丁度当番の日とバレンタインが被ってたのに、これで渡せなかったら意味がない。
急いで階段を駆け上がって、息を切らせて図書室のドアを開ける。
「あ、どうも」
丁度黒子くんがカウンターで貸し出しカードを書いてるところだった。
(よかった。ギリギリセーフ……。)
息を整えながらカウンターに入ると、黒子くんが本とカードを差し出す。
「お願いします。」
「あ、はい。」
間に合いはしたけど、心の準備ができてない。お菓子をあげるタイミングを見つけるには簡単な手続きの時間は短すぎる。
「今日はいないのかと思いました。」
「え?」
「走ってくるなんて、よっぽど本が好きなんですね」
本を受け取りながら言って黒子くんが笑う。
確かに本も好きだけど、走ってきたのはそうじゃなくて。
「あ、あの、」
「はい?」
意を決して声をかける。鞄から最後のカップケーキを取り出して、黒子くんに差し出す。
「よ、よかったら、これ……」
「ボクに、ですか?」
黙ってこくこくと頷くしかできなかったけど、黒子くんは笑って受け取ってくれた。
「ありがとうございます。」
「あと、」
「はい?」
「部活、頑張って」
黒子くんは一瞬驚いたような顔をして、また笑った。
「はい。」
そのまま本とカップケーキを鞄にしまうと、顔をあげた黒子くんと目があってどきっと心臓が跳ねる。
「それじゃ、また月曜日に。」
「あ、うん。」
黒子くんが図書室を出ると、どさっと椅子に座ってしばらくぼーっとしてしまった。
(また月曜日に……「また」って、)
次の生徒が来るまで頭の中はもうそのことでいっぱいだった。
::ファーストコンタクト::
(あ、私の名前言うの忘れた)
===
おまけ。
「黒子、その菓子どうしたんだ?」
「もらいました」
「え、マジかよ?!誰から?」
「……あ、」
「ん?」
「そういえば名前、聞いてませんでした。」
「アホか」
「でも、すごく可愛らしい人ですよ」
--End
ヒロインは貸し出しカードで黒子の名前を知りました。
顔と名前は知ってたので、風の便りで部活もわかりました。
そういう設定だったのに上手くまとめられなかった……。
ってことでハッピーバレンタイン!
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