籠
いい加減名前くらい覚えてください(黄瀬)
会った回数は決して多くはないけど、それなりに話したことはあるわけで……。
「あ、」
昼休みに、自販機で飲み物を買った帰りに先輩と遭遇。
眼鏡で、まったく手を入れてないセミロングの綺麗な黒髪。いかにも学級委員とかやってそう。
この人の見た目を形容するならほとんどの人が「知的」と言うだろう。
そう、「見た目」なら。
「おや、君は確か笠松ンとこの……」
「……」
さぁ今日はなんだ。
小野か?阿部か?
「藤村」
「全然違うッス」
む、違ったか、といいながら先輩はまた考え出す。(多分この人的には記憶を辿ってるんだと思うけど)(そしてオレの経験上十中八九当たらない)
年上だけどオレの腕にすっぽり入っちゃいそうな小柄で華奢なとことかあまり化粧っ気のないところとかが割りと好きなんだけど、オレはまったく眼中にないのか会うたびに名前を間違えられる。それも、惜しいとかいうレベルではなく、今みたいに掠りもしないぐらいに豪快に。
「わかった!」
お?
「おおはr」
「黄瀬ッス。黄瀬涼太」
「黄瀬かー、いやーそうじゃないかとは思ったんだ」
「はいダウト」
「……」
先輩が言い切るか否かのタイミングで言うと彼女はすっと目をそらした。
「……っだがもう覚えたからな!次こそはいける!」
「じゃあ今どうぞ」
「えーっと……」
また視線が合わなくなる。今回は目をそらすというよりも、泳ぐ、と言ったほうが正しい気がする。あんた今さっきオレの何を聞いてたんだ。
「まさかもう忘れたとか言わないッスよね……?」
「あー、うん、その……、なんだ……。……すまん」
「……」
うわー。鶏もビックリな記憶力。
もう傷つくとか呆れるとか通り越していっそ尊敬しますよ、先輩。
「あ!」
「?」
今度はなんだ、清水か?
「涼太!」
「っ……!」
そんな不意討ち。
おまけに、あれ、違ったか?と小首を傾げるなんていう追撃つき。
(あー、もうこの人は……)
::いい加減名前くらい覚えてください::
(次会うときにまた忘れてるのは別の話)
--End
(Title:joy様)
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