籠
エイプリルフール・ロジック(黄瀬)
「名前っちなんか大嫌いッス」
「……。」
俺の部屋で、床に座って俺が載った雑誌を読む彼女を後ろから抱き締めながら言う。
今日は4月1日。つまりエイプリルフール。
もちろん彼女が嫌いだなんて嘘に決まってる。そもそもこんな状態なら信じないだろうし。
彼女は雑誌をめくる手を止めて真顔で振り返る。
「……じゃあ別れる?」
「え、ちょ、待って待って」
どうしてそうなる?
いや、確かに嫌いって言ったけどあれは嘘で。
「今日は何の日でしょう?」
「4月1日。エイプリルフール。」
なんだわかってるんじゃないッスか。
「……嘘ッスよ?」
「でしょうね。黄瀬くんは仕事でもないのに大嫌いな人を抱き締めるなんてしないもの」
「じゃ、じゃあなんで、」
別れるだなんて。
「黄瀬くん、さっきどんな嘘をついたか覚えてる?」
「名前っちなんて大嫌いッス?」
「そう。それが嘘ってことはどういうことかわかる?」
「名前っちが大好……」
「違うわ」
最後まで言わせてすらもらえなかった。
何が違うのか俺にはさっぱりわからない。
「今日は『反対の日』じゃなくて『嘘をついてもいい日』なの」
「?」
「だからさっきあなたが言った『嫌い』っていうのが嘘だったら『嫌いじゃない』ってことになるのよ」
つまりそれが「好き」ってことじゃないんスか?
全然わからないって顔で聞いてると、彼女はわかりやすくため息をついた。今絶対馬鹿にされた。
「『嫌いじゃない』って言うのと『好き』は必ずしもイコールじゃないってこと。『好きでも嫌いでもない』かもしれないでしょ」
わかった?って首を傾げて名前っちが聞く。
言いたいことがやっとなんとなくわかって頷いたけど、こんな風に聞かれたらどんな難しい公式だってわかったって言ってしまいそうだ。それぐらい、なんていうか、可愛い。
「でもでも、俺は名前っちのこと大好きッスから!」
「私はそういう黄瀬くんの素直でちょっと馬鹿なところ、大好きじゃないわ」
「え?」
「嘘よ。」
「大好きじゃない」ってのが嘘だから、えーっと……
。
「……俺も!俺も名前っちのこと大好きじゃないッス!」
半ば叫ぶようにそう言って腕の中の彼女を強く抱き締めた。
彼女がふふっと笑った気がした。
::エイプリルフール・ロジック::
--End
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