野
身動きの取れないこの場所で(栄口)
「…さかえぐちー」
放課後、一人で日誌を書いていると、ドアが勢いよく開いて、苗字が情けなく俺を呼ぶ声と一緒に教室に入ってきた。
俺の机の前まで来ると、近くの椅子を引っ張ってそこに座った。
「どうしたの?」
予想はしているが、敢えて尋ねる。
「またフラれたーー」
言いながら日誌を広げている机に突っ伏す。
とりあえず日誌が書けないからと苗字の顔を上げさせる方法を考えると、鞄の中にお菓子があることを思い出した。
鞄から取り出して苗字に差し出す。
「食べる?」
まだ1/4程残っているそれは、今日の昼に水谷が忘れていったものだ。
本人には悪いけど、別にあいつなら気にしないだろうし。
「…いいの?」
「水谷の忘れ物だけど。」
「もらう。」
拗ねたような顔で一本取って口に運ぶ。
「で、今度はどうしたの?」
少しずつ食べながらぽつぽつと話し出した。
「あのね、今度の人は陸上部の人だったんだけどね、たまたま、その人がコクられてるとこ見ちゃって。」
そういえば今日は掃除当番とか言ってたっけ…。
大方、裏庭にゴミ捨てにでも行ったんだろうな。
そんな推測をしながら話の続きを聞く。
「その子も断られちゃってたんだけど、その理由がね、」
もう一本、と小声で呟いてまたお菓子を口に運んだ。
「もう、好きな人、いるんだって…。」
涙は流していなかったけど、微かに声が震えている。
「その好きな人が苗字って可能性は…?」
半ばすがるような気持ちで聞くと、苗字はふるふると首を横に振った。
「違う学校の人って、言ってた。」
苗字から何度失恋の愚痴を聞かされても、かけるべき言葉が見つからない。
俺はいつも「そっか…。」と返す以外何もできない。
永遠とも思えそうなぐらい長い、実際はほんの数分の無言の時間がすぎる。
突然苗字が両手で自分の両頬を叩いた。
「よっし!」
一つ気合いを入れて立ち上がる。
「うん。なんか栄口に話したらちょっとスッキリした。」
「そ? 俺は何もしてないけど。」
「ううん。日誌の邪魔してごめんね。ありがと。」
微笑みながらそう言った苗字は、椅子を戻して鞄を取ってから教室を出ていった。
その違和感の残る微笑みを見て、
ああ、彼女はこのあと家で一人泣くんだろうか、
なんて思った。
外の夕日がほんの少し目に染みた。
::身動きの取れないこの場所で::
(このポジションが)
(一番長く、)(一番近く、)
(君と一緒にいる方法)
--End
久しぶりな栄口。やっぱり片思いかつ栄口目線…。
お菓子はポ○キーをイメージ。
栄口のだったら遠慮するのに水谷にはそんなのないっていうのも個人的なこだわり。
寝る前とかがよく思い付くらしい。
よく考えたら企画もの以外田島と栄口しか書いてない(笑)
タイトルは夢らしくちょっと長めにしてみた!
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