野
未来が表情を変えた気がした(泉)
誰もいない教室で机の上にある1枚の紙を睨むこと早数十分。
右手はシャーペンをくるくる回すだけで、文字を書くというシャーペン本来の仕事はさっきから果たされないまま。
「どうしようかなぁ」
そう言ってまた紙を睨む。
進路希望調査表。
まだ高1だからそんなにしっかり書かなくてもいいらしいけど、来年のコース選択は早く決めないといけない。
文系か理系か。
「物理と英語と国語だけで受けられる学校ないかなー」
「んなとこあるかよ。」
「わっ!」
自分しかいないと思ってたらいきなり声をかけられたからびっくりして思わず振り向いた。
「なんだ、泉か。」
「悪かったな、俺で」
泉は進路希望表を手に取る。
何も書いてないから見るとこなんてないのに。
「泉は文理どっちにした?」
「苗字は?」
「……まだ未定。」
「じゃあ俺も未定。」
「『も』ってなに……」
「よ」まで言う前に、泉に丸めたプリントで頭を軽く叩かれた。
人のプリント勝手に丸めるなし。
「俺がどうしたとかじゃなくて、お前がやりたい方に進めばいいじゃんじゃねーの?やらないでする後悔よりやって後悔するほうがいいって言うし。」
「……泉くん、人間には向き不向きというものがあってだね、」
「じゃあ自分が後悔しないぐらいの理由つけて似たようなとこにすれば?」
後悔しないぐらいの理由?
私の顔を見て何か悟ったのか、泉は若干呆れた顔をして言葉を足した。
「将来後悔したとしても、こうだったんなら仕方ないなって思えるような理由ってこと。」
「例えば?」
って聞いたら、泉はすごくめんどくさそうな顔をして、一つため息をついた。
「お前は何で悩んでんの?」
「数学」
「だったら、上から何分の何とか自分の中で基準決めて、それ以上に達してないなら数学取らないとか。」
なるほど……。
「ま、曖昧な理由で諦めんなって話。」
部活だから、とだけ言って泉は教室を出ていった。
(後悔しない理由か……。)
私は何だかすっきりした気持ちでちょっと巻き癖のついたプリントを鞄にしまった。
::未来が表情を変えた気がした::
(泉、泉!私進路決めたよ!)
(はいはい。オメデトーオメデトー)
---End
泉が実はヒロインの進路が気になってたら可愛い。
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