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IS<インフィニット・ストラトス> 〜蛇神が愛した男〜
1-2:蛇神の企み、終わりの始まり

「……あぁ、そうだ。昨日の話なんだけどさ、そもそも何で人類滅ぼす必要があるんだっけ?」
『もぅ、昨日話したばっかりじゃないですか……』
「いや、お前の身体が良過ぎるから夢中になってて、つい……」
『……』

助けられたのはともかく突然襲われて童貞を奪われた腹いせ……というワケでは無いのだが、何度も何度も夢中になって交わり続けたせいか、行為の最中に聞かされた重要な話の内容は殆ど一夏の頭の中に入ってはいなかった。
尤も、そういう行為に勤しんでいる最中に男が他の事に集中出来るハズが無いのだから、話すタイミングを誤った女神の……蛇神の方にも問題はある。
……まぁ、ヤり疲れてお互いさっきまで寝入っていたのでそれ以外のタイミングでは話す暇なんて無かったのだが。

『しょうがないですねぇ……。では始めからまた説明しますが……』

そもそも、女神は地球上のあらゆる生命の創造主であり、ギリシャ神話で例えるのならガイアの様な存在で……要するに、この星のシードマスターでもあったのだ。

『恐竜はただ大きいだけの、知性の欠片もない蜥蜴でしか無く、それはそれでもまぁ面白くはあったのですが途中で"飽きた"ので滅ぼして、次は猿に知性を与えて人間を創ったのですが……』
「……今、サラっととんでもない事言ったな」

寝台の上で身を絡ませながら説明を続ける蛇神の言い様に、昨晩自分が抱いた女はやはりただ者では無かったのだなと一夏は感心しつつ、聴き入る。
蛇神の……、人を唆す蛇の、これまでの所業を。

『……ですが、人間は人間でダメでした。頭のいい馬鹿というか何と言いますか、発展を促す為に何度も歴史に介入しながら私好みに発展の方向性を軌道修正していたんですが、どうも上手くいかなくて。よりにもよって星を滅ぼし腐らせる、ただの害虫に成り果てるだなんて思ってもみませんでした』

何度も何度も歴史に神や悪魔として歴史に介入し、自分好みの……自身の後継たる種として育んできたというのに、人間は蛇神の思い通りには育たなかった。
それどころか、あまつさえまるでキャベツを食い荒らす芋虫の如く地球の資源という資源を食い荒らし、その上にゴミを撒き散らして星を腐らせようとしているではないか。

『だから、人間も滅ぼしてしまおうと……また新たな種を創ってその種を私の後継として育もうと、そう思ったワケです』
「恐竜の時みたいにか?」
『えぇ、ですが少し決断するのが遅かった様で……人間がこの星を食い荒らし過ぎたせいなのか、今の地球には一から生命を創造する余力は残っていなかったのです。だから、猿を人間に改造した時の様に今度は人類をもっと私好みの存在に、私という神が愛した、神の後継たる新たな種として……神人類として造り直してしまおうと、そう思ったのです』
「なるほど」

細かい原理は元人間でしかない一夏には解らない。
だが、言いたい事はだいたい解った。
要は、粘土細工の出来映えが気に入らなくなったけど新しく買い足す金も無いのでそのまま再び捏ね直そうと、そういう内容の話をしていたワケである。
解釈が幼稚なのは一夏の最終学歴が中卒だからであり、しかもその中学すらISの普及に伴う女尊男卑の……その不満のはけ口にされてロクに学校に通えていなかった為だ。

「……ん、動機の方はだいたい解った」
『では、その次の段階についての話に移りますが……私という神を信仰する、瑣事を手伝わせていた言わば眷属の様な一族が居まして、今回もまた、その一族の末裔に手伝わせる事にしたのです。ちょうど、巫女の姉妹の姉の方はそれなりに頭がよかったみたいですから』
「へぇ〜、あの二人が巫女ねぇ……。箒の方はそんな恰好してんのを何度か見た様な覚えがあるけど、まさか束さんも巫女だったなんてな〜……あ、もしかして束さんが頭良いのってお前の仕業だったりするの?」
『いえ、確かにあの一族は眷属として使い物になる程度には優れた人間が生まれ安くは創ってありますが……あの娘の頭脳は偶発的なものであって私は特に何も』
「へぇ……、何かプロフィール的に実は造られた天才だったって流れっぽかったんだけど、束さんは"天然もの"の天才か」
『えぇ、妹の方の戦闘能力もまた、そうですが』
「マジか。千冬姉とタメ張れるクセにあれで何にもイジって無いとか、そっちの方が信じられん……」

ISに乗った場合の事は見た事が無いので想像するしか無いが、生身でやり合った場合はあの姉相手に引き分けるという、凄まじ過ぎる戦闘能力を持った幼なじみの事を思い出す。
千冬もそうだが散々人を人外染みた力でボコボコにしておいて男のクセにだらしがないだとか、そんな無茶苦茶な事を宣うヤツだったが、戦闘以外ではそれなりに可愛いげのあった……………………………………………………かな? うん、まぁそんな気がする少女の事を。
一応、彼女の名誉の為に言及しておくが、ホントに箒に可愛いげが無いのでは無く、会っていない期間が長かった上に共に過ごしたのも幼少期のみであった為にあまり一夏の記憶が定かでは無いだけの話なのだ。
……それはそれで酷い話しだが。

『寧ろ、千冬の方こそ手を加えていたワケなんですが……』
「へ? 何故に?」

きょとんとした表情で尋ねる一夏に、蛇神はバツが悪そうな表情で、躊躇いがちに答える。
一夏的には普段(……といってもまだ初めて会ってから一夜明けただけなのだが)余裕有りげな蛇神のその表情にかなりそそられるものを感じ、昨晩の様にすぐにでも押し倒してしまいたい衝動に駆られる一夏だったが、取り敢えず話が終わるまでは我慢する事にした。

『実は、始めは一夏では無く千冬にこの任を任せるつもりだったのです』
「……? 女同士でヤッても子供なんて出来ないだろ

『……えぇ。ですから、神人類なんて創らずに直接千冬を私の後継に改造して、私がそうであった様に他の星へと旅出させてシードマスターとして生命を育んでもらうつもりでした』
「で、断られたと?」
『えぇ……といっても、千冬に直接語りかけずにただ《白騎士》を纏った副作用みたいな体裁にしたのが不味かったのでしょうね。だんだん人間離れしていく自分の力を忌避する様になってきまして、とても私の後継になれる状態では無くなってしまいました』
「あ〜……千冬姉、アレでメンタル弱いからなぁ……。普段だって腕っ節で捩伏せてそもそも責められない状態を作りにいくタイプだしなぁ……。いや、普段腕っ節で捩伏せてるから責められ慣れてないのか?」
『……まぁ、その点一夏は強かった。自分以外の全てが敵になってもなお、世界の破滅を憂いて助けを求めずただひたすらに耐え続けられたんですから』

確かに、千冬は誰よりも強かったかもしれない。
だが、それは力だけの……攻めるだけの強さであって、耐える強さでは無かった。
蛇神の求める、たった一人で……独りで永遠に生命を育み続ける強さとは違う強さだったのだ。
だから、道を違えた。
互いに言葉を交わす事無く、どちらかが一方的に相手を知っているだけの、それこそテレビで見たからこの人を知っている程度の関わりですら無い関わりで、道は違えてしまったのである。

しかし、一夏は違った。
老若男女問わず、自分以外の全てが敵で、頼れば助けてくれるハズの人物に助けを求めればそれが世界の破滅に繋がると理解していたが故に誰にも頼る事が出来なくて、自己保存よりも世界の破滅を防ぐ為に、ただひたすら耐え続けてきた、まさに蛇神が求めていた強さを持ち合わせていたのである。
男性である以上、産み落とすという作業が不可能である為、直接後継者として宇宙に旅立ってもらう事が出来ないのが残念ではあったが、しかしこれほどの逸材を逃す手も無かった。
故に、方針を変え、新たな生命の父として……蛇神は一夏を己の夫として向かえたのである。

『そこで、私は一夏に目を着けました。目をつけて、男性として……新たな生命の父として、そして私の夫として貴方を向かえ入れようと、そう思ったのです』
「夫、か……」
『嫌でしたか?』
「まさか。……こんなに美人な嫁が手に入るのに、それで嫌がる男なんていねぇよ」
『フフッ、身体の方も随分気に入ってくれたみたいですが』
「はっはっは、男がエロくて何が悪い」

向かえ入れる……とはいったものの、正直一夏が自分を受け入れてくれるのかが不安だった。
神として人の心を操り、無理矢理に……という手段もあるにはあったのだが、何故かそうしようと思えなかったのである。
そうしたく無かったと、そう言い換えてもいい。
だから、今でこそこうやってふざけ合ってはいるが、不安が大きかった事もあって内心では酷く安堵していたのである。

『寧ろ、性欲が旺盛でないと困ります。何せ貴方は神人類という新たな種の父となるのですから、一人二人孕ませた程度では到底足りません』
「あぁ、それなんだけどさ」
『なんでしょう?』
「夫が他の女とヤりまくってんのって、お前的にはアリなの?」
『えぇ、それでも私が貴方の1番であるのなら』
「可愛いなぁもう」
『きゃっ!? ……い、一夏! まだ話は終わっていませんよ!』
「むぅ……」

シードマスターとしては神人類という種の為に一夏により多くの女を孕ませる必要があると解っているのに、神と人とは違うと解っているのに、自分こそが1番として見て欲しいだなんて、そんないじらしい事を言われたりなんかしたらせっかく説明が終わるまで我慢していたのに我慢が出来なくなってしまうではないかと、思わず一夏は蛇神を押し倒した。
……が、おあずけをくらってしまう。
ホントはそれでも無理矢理犯してしまいたい気分なのだが、話も佳境に入ったのでそこはグッと堪える事にする。

『私は勿論、人間の女を……特にIS操縦者を犯して欲しいと言ったのには理由があります。人間ベースとはいえ別種の子を生ませるのですから、やはりそこに生めるか生めないかの適性というものがあるのですよ』
「なるほど。ちなみに適性の無いのとヤッたらどうなるの?」
『その場合は単なる異種姦と同じで幾ら犯しても孕みません。貴方はもう人間では無いワケですから』
「? IS操縦者だって人間なんだから、それだと適性があっても無くても関係無くないか?」
『えぇ、つまり……IS操縦者としての適性というのは、その身体を神の子を孕める様に改造出来るかどうかの適性なワケでして、機体の形態移行(シフトチェンジ)は肉体の改造の度合いの尺度で、一次移行(ファースト・シフト)、二次移行(セカンド・シフト)……と形態移行(シフトチェンジ)を繰り返す度に神人類を生みやすい身体になっていくワケですね。まぁ、形態移行(シフトチェンジ)については一次移行(ファースト・シフト)だけでも十分なんですが』
「へぇ〜」

一夏自身、千冬が遠ざけていた事もあってか一般的な意味でのISについてですらあまり詳しくは無いのだが、記憶が正しければ形態移行(シフトチェンジ)は機体が操縦者にどれだけ適合したかの尺度であって、形態移行(シフトチェンジ)を繰り返す為操縦者にとって使いやすく、それでいて強い機体になっていく機能のハズであったのだが、その真相はまるで違った。
機体が操縦者に相応しい形に成るのではなく、操縦者の方を目的の為に相応しい形に変える機能だったのである。

『勿論、馬鹿正直にそんな事を言おうものなら誰もISを纏ったりなんかしませんから、まず白騎士事件を起こして"後付けされた戦闘能力"を見せ付けて、そして一機でも多くのISを所有せざるを得ない状況に追い込み、ISを世界中にバラ撒いたのです』
「? だったらもっと沢山バラ撒いた方がいいんじゃ……」
『えぇ、そこで一夏の出番です』
「俺の?」

ISが造られた本当の目的と、その目的の為にワザと戦闘能力を後付けしたISで……《白騎士》で白騎士事件を引き起こし、世界の注目を集め、そして普及させたと、そこまでは解った。
だが、それならば目的の為にももっと多くの数のISを生産した方がいいハズである。
しかし、蛇神はそうしなかった。
その上、このタイミングで一夏の力が必要になると……そう宣って、ますますワケが解らないといった風な一夏に、こう答えた。

『えぇ、ここで一夏が暴れ回るのですよ。私を……《白騎士》を纏ってね。そして次々と薙ぎ倒されていくISを見て人々はこう思うハズです。自分達が助かる為にはもっと強い力が……それも沢山必要だと、ね』
「なるほど、そういうワケか。……でもさ、それってISを増産させなくても束さんに《白騎士》を強制停止させたら済むって考えるヤツとか出るんじゃないの? 特に千冬姉とか」
『えぇ、一夏の疑問も尤もです。ですから、先に手を打ちます』

そう言って、一旦言葉を区切った蛇神は告げる、人の世を終わりに誘う、週末のシナリオのプロローグを。

『貴方が行方不明になっている事は遅かれ早かれ千冬の耳に入りますから、そうなればすぐに千冬は一夏の捜索を束に要請するでしょう。そこで束が千冬に……世界に告げるのです、一夏がいままでどんな仕打ちを受けてきたのかを、"最後に"どうなったのかを、ね。そしてその際にこうも告げるのです。一夏を助ける為に放った《白騎士》は、誰も彼もが敵だった一夏を守る為に、一夏だけの味方で在る為に、自身の手を離れたので、もう止め様がないと。そして世界は恐怖に包まれ、人の世の終わりが始まる』

外ならぬ、人の手によって。






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