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君に悪戯(骸/甘?)
「骸さぁん!!」
「…!」
「げっきたびょん」
「…」
「奇遇ですねえこんなところで会うなんて。ふふふ!これも赤い糸で結ばれてるからですね!」
「いろいろツッコミたいところはありますがとりあえず言わせてもらいます。並盛に住む君が黒曜にいることが奇遇だとは思えないんですが」
「さ・す・がまいすいーとだーりん骸さん!今日は会いたくてきちゃったんですーっ」
「毎日来といてよく言えるびょん!」
「お、犬ちゃんに柿ぴー。今日も骸さんをあらゆる害から守ってるんだね、ありがとう。でももう私が来たから大丈夫。さ、さっさとどっか行きなさーい」
「君がその害ですよ」
「え?やだ骸さん!気の利くはにーだなんて!」
「「「……」」」
世の中いろんな人間がいるとは思っていましたが、まさかこんな女子がいるとは思いませんでした。彼女の名前は名前。どうやら僕に一目惚れしたらしく、今日も懲りずにこうして付きまとって来ます。
はっきり言って迷惑…ですが恋する女とは無駄に強いもの(精神的に)。どんなに辛辣な言葉を放っても聞かないんですよねえ。
「あ!骸さんアイスクリーム食べましょう!」
「勝手に食べればいいでしょう」
「冷たいこと言わないでくださいよう!犬ちゃん達の分も買ってきてあげるね、待っててくださいね骸さん!」
「…僕の言葉は流すんですか」
やってられない。千種と、アイスという言葉につられている犬を引っ張ってその場を去る。
僕を信じているのか一度も振り返らず並んでいる名前を見て多少の罪悪感を感じながら歩いていたときだった。
「きゃっ」
「てめえ、どこ見てるんだよ!」
「あ、ごめんなさい…。人を探してたもので」
「ごめんですむかっつの!見ろよアイスでべとべとだ」
「すいません…」
「謝罪の気持ちがあるならちょっと付き合えよ」
「…え、や、やだ!」
離して、と必死に言う名前の声が聞こえる。「…骸様」千種が何か言いたそうだ。なんなんです。勝手にやって来て絡まれるなんて馬鹿なんですか。僕は知りませんよ。嗚呼まったく面倒だ。
「や、このアイス骸さん達のなの!触らないで!」
「あぁ?でもいねーじゃねえか。置いてかれたんじゃねえの?」
「…そんなことない!」
「うだうだうっせえな!さっさと来い!」
「痛…っ!む…くろさ……」
「何してるんですか、君は」
今にも泣きそうな顔して、なんなんです。
勝手にやって来て僕について来て、それを迷惑極まりないと思っているのに来ないと来ないで気にかかってしまう。君は一体どれだけ僕を振り回せば気がすむんですか?
絡んでいた男はいとも簡単に倒せた。まったく…
「だいたい君は―」
「骸さん!!」
「ぐっ」
な、なんですか今の…!突進ですか、アイスを抱えながら突進するとかあなた何者ですか!
頭を僕の胸に押し当てぐすぐすとぐずる名前。肩は小刻みに震えていて、なぜかとても申し訳なく感じた。
「何泣いてるんです。だから弱い人間は」
「な、泣いてなんかいません!」
「ほう?」
顎に手を添え顔をあげさせれば顔が赤い。が、更に赤くそまっていく名前の顔。おや?
「アイス…一つ落ちちゃって…」
「僕はいりませんよ。犬と千種と君が食べなさい」
「でも」
「食べたかったんでしょう?君が食べればいい」
少し困ったように笑った名前だが頭を撫でると顔がまた赤くなった。そして嬉しそうに、いつもみたいに馬鹿みたい(というか馬鹿)に元気な笑顔になった。クフフ…面白い、と思うのは僕だけですかね?
「はい、犬ちゃん、柿ぴー!えへへ、おいしいね!」
今までただ迷惑でたまらない人間だと思って、適当にあしらっていたんですが。
また手をのばして頭をぽんぽんと優しく叩くとアイスクリームを食べていた名前は恥ずかしそうに目を泳がせた。よく赤くなる娘ですねえ。
「名前、やはり少しだけアイスいただけますか」
「あ、はいどーぞ、骸さ…」
一瞬、名前が固まってアイスを落としそうになったので僕の手をかぶせてそれを留める。犬と千種を見れば彼らも驚いた様子。
唇についたクリームをぺろりと舌で舐め、僕はクフフと笑った。
「む、むむむ骸さ」
「クフフ…美味しかったですよ、名前」
ぼん!と音が出そうなくらい赤くなった名前は口を右手で抑えている。
さて、僕は多分意地の悪い笑みを浮かべてるんでしょうねえ。ほら、こんな面白い玩具を見つけたんですから。
君に悪戯
(それにしても、あんなに追いかけてきたくせにうぶですね)
(いつも骸さん相手してくれなかったじゃないですかあ!!こんな、いきなり…!!)
(クフフ、可愛がってあげますよ)
(…!望むところです!)
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