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感謝のキモチ(骸HB/甘)



最近、彼女の様子がおかしい。まるで僕に気づかれまいとするようにこそこそと出かけていくし、明らかに咄嗟に何かを背中に隠す時もある。たとえ僕を慕って従う人間だとしても、僕は私生活にまで口出しをするつもりはない。


ただ僕は、彼女の行動が“恋人”として、気にかかる。


以前なら僕に隠し事などしなかったのに。秘密の一つや二つもっててもおかしくないのはわかってる。けれど寛容になれないのは、僕が彼女を大切に思っているから。そんな自分に苦笑する。ああ、僕は淋しいのか。

そんな自分が酷く情けなく、愚かに思えて僕は彼女に何も言えずに悶々として日を過ごした。












「犬」


「骸さんを入れないようにって、言われてるびょん!」


「…。千種」


「…できません」



そして僕は今、あろうことか今まで僕に逆らうことのなかった2人と戦いを繰り広げている。通しなさいと僕が言っても2人はドアの前から離れない。
温厚な僕でもしまいには怒りますよ。


「恋人に会うのになぜお前達が邪魔するんです。そこをどきなさい」


「だめれす!いくら骸さんでもここは通せないびょん!」


「僕に逆らう気ですか」


「…もう少し、待っていただければ」


「僕は今彼女に会いたいんです。どきなさい」


彼女はどうして僕を部屋に入れないようにするのか。こうして僕の知らないことが増えていく。
どうも最近、僕は彼女に関しては余裕をみせることができない。(以前から、…でしたかね)


「クフフ…では、力ずくで通してもらいましょうか…!」


とにかくこのままでは埒があかないので強行突破。右目に映すは一の文字、地獄道。崩れゆく地面に犬達が苦戦している間に、彼ら2人が必死に守っていたドアのノブに手をかける。かちゃり、いつも簡単に開いていたはずのドアはなぜか重い。それは紛れも無く僕の心の問題で、それを払拭するように勢いよく開けた。


「あ、いいところに来た…ね、これ手伝って……って…え!?骸、なんで…っ」


「…これは、」


「なんで骸入ってくるの!犬達に足止め頼んだのにー…主役はあと、だよ!」


見ちゃだめ!
椅子の上に立って壁に飾り付けを施していた彼女が僕に近寄ってきて背中を押す。どうやら彼女は準備していたらしい。


僕の、誕生日の。


部屋に入った瞬間に見えた“骸誕生日おめでとう!”という段幕を見るまで忘れていた。そうか、今日は僕の誕生日。
正直最近の彼女の様子が気にかかってばかりでそんなこと忘れていた。そうか、じゃあ今までの彼女の行動はもしかしたら…頭の中で次々と合点が行く。
こそこそと犬達と話していたのも、外出するのも、
みんなみんな、


「…もう、骸を驚かすために頑張ったのに…」


僕の問いに答えを出すように彼女は不満げにぽつりと呟いた。なんだそうか…、僕の心のわだかまりが晴れていくのを感じる。そして、今は頗る気分がいい。


「クフフ…クハハハハハ!」


「な、なにどうしたの骸!?」


突然笑い出した僕に心底驚いた顔をした彼女がしばらく笑っている僕に「骸が壊れた…!」と失礼なことを言うのでその頬を引っ張った。ちゃんと手加減して。


「…クフ、それにしても驚きましたよ」


「ひゃんかふくひゃつ」


「はい?」


「なんか複雑」


頬から手を離せば彼女はまだ口を尖らせている。そんな彼女を可愛いと思う。愛しいと、思う。


「おやおや…僕は十分驚きましたし、嬉しいですよ」


「だって、本当は準備完璧にして3人で骸が入ってきたところをクラッカーでぱーんと迎えようと…」


「そうれす!ちゃんと準備してたんれすよ!」


振り返れば、クラッカー片手に不満をたれる犬、少し疲れ気味の千種(いつもですかね)

彼女は膨れた顔をしていたが気を取り直したようで「まあいいや。驚いてくれたみたいだし。席、ついてね」と言って笑った。
犬はその言葉に「えぇー!クラッカーはどうするびょん!」と叫ぶ。












席について蝋燭に火をつけ、せーの、と彼女の掛け声のもと歌いだす。少し音を外した犬の声、小さいながらもしっかり歌う千種、そして彼女の陽気な声。

その間僕はあたりを見回す。不恰好で手作り感溢れる飾り付けも、たくさんテーブルに並ぶ料理も、ケーキも。
全部彼女が、みんなが僕のために用意してくれたもの。


“温かい”だなんて、僕がそんな感情抱くなんて思ってもいなかった。僕は1人だった。それを寂しいなんて思ったこともないし、それが当たり前だった。けれど、犬がいて、千種がいて、…そして君がいて。


うわべだけの人間関係ばかりで、人に対して冷たい態度をとる僕は誰かに心から礼を言うことなんてなかったんですよ。
礼の言葉など、いやそもそも言葉など人を騙すための道具でしかなかった、のに。



「ほら!骸」


「骸さん1回で消すびょん!」


「…」


「クフフ…それでは」



ふう、と息をふけばそれは一瞬で消えた。と同時に電気がつき、犬のクラッカーの音と共に、彼女の優しい笑顔が僕を迎えた。



「誕生日おめでとう、骸」



君がいたから、君達がいたからこうして心から感謝できるんです。




僕の『ありがとう』はたいへん貴重ですよ


ありがとうございます、そう言うと彼女は嬉しそうに微笑んだ。




――――――――

六道骸誕生日企画参加作品
骸さんはぴば!

Thanks for...usignuolo…千波夜様

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