時間切れ
3
…やばい。
寝坊した。
ソファから起き上がり、時計を見ると、いつもなら5時と表示されているのだが、現在表示されているのは9時。
まあ、今更悔やんだって仕方ないから、とっとと支度して行こう。
いつものように着替えて朝食を作ろうとすると、なんと、すでに朝食が並べられていた。
しかも、いつも俺が作るのよりも美味しそうだ…
ふむ。サンドイッチか。
悪くない。
いただきますをして、サンドイッチを食べていると、その皿の下にメモが挟まれていた。
なんだこれ?
二つ折りにされているそれを開くと、綺麗な字でこう書かれていた。
『東へ
おはよう。
昨日は泊めてくれてありがとうな。
お詫びと言っては難だが、朝食を作っておいた。有り難く食べるように。
じゃあ、起こしても起きなかったので先に行く。
せいぜい遅れないようにな。
by 愛しの匠様』
やっぱり、あの人はあの人だと思った。
朝食は物凄い有り難いけど、出来れば殴ってもいいから起こしてほしかったな。
見事に遅刻だし。
溜め息をついてメモを捨てようとすると、まだ下に続きがあることに気付いた。
何々?
『P.S.
寝言で元カレの名前を呟くのはどうかと思うぞー』
…記憶って、鈍器で殴れば飛ぶのだろうか?
そんな鈍器があるのなら、是非とも欲しいものだ。
メモをこれでもかというほどグシャグシャにして丸め、力の限りごみ箱へたたき付けた。
こうしている間にも、時間は刻々と流れていく。
本当にヤバイ。
皿を流しへ持って行き、必要な物をバッグへと詰め込み部屋を後にする。
こんな時にオートロックは便利だ。
後ろからガチャと音が聞こえたのを確認し、ダッシュで職場に向かう。
もう少し、というところで曲がり角をまがると、勢いよく誰かにぶつかった。
…くっそーっ、よりによってこんな時にっ
「すいませんっ、俺急ぐんで!
すんませーんっ!」
ぶつかった人の顔も見ずにその場を後にする。
その時、ある物を落とし、それを拾った人がニヤリと笑ったのを俺は知らない。
[←][→]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!