創作小説 1 貴方に 伝えそびれた言葉だけが 私の手のひらに残っていた ‐― 夢ノ中デ見ル幻 ―‐ 空っぽになった貴方を抱(いだ)きながら、私はその場に座り込んでいた。 貴方は、 こんなにも 小さかったっけ? 軽かったっけ? 冷たかったっけ? 大きく感じた、 重く感じた、 暖かく感じた頃の貴方を思いだそうとした。 でも、 現実を目にした途端、うたかたの泡のように、その記憶は、はじけて消えた。 冷たくなった貴方が、今、ここにいる。 忘れもしない数刻前、暖かかった貴方は私に想いを告(つ)げた。 急な事で、私は貴方の想いにどう答えればいいか分からなかった。 そして、そのまま、戦(いくさ)が始まってしまった。 『失ってから、気付く』という言葉が、今更になって、頭に浮ぶ。 あの刻(とき)、私が貴方の想いに答えていたなら、貴方は死ななかったでしょうか? 死なないでくれたでしょうか? もう一度、生きている貴方に会いたい。 でも、それは叶わぬ願いで、 例え、会えたとしても、 それは……… ユメ ノ ナカ デ ミル マボロシ 夢 中 見 幻 。 馬鹿。 貴方が死んだら、何にもならないじゃない。 私の腕の中で、二度と目が覚めぬ眠りにつく相手を罵(ののし)ろうと開いた口から出たのは、嘲(あざけ)りの言葉ではなく、 言葉にならない嗚咽(おえつ)のみだった。 泣かないで さんざめく木漏れ日 木々のざわめき 水のせせらぎ それら全てが 母なる大地から 死に逝く者への 鎮魂歌 完 [*前へ][次へ#] |