創作小説 1 ≪好きな人との身長差≫ ―‐それは、大概の人が自分より背の低いか・高いか、どちらかの方が良いと望んでいると思う。 男なら自分より低めの女を、 女なら自分より高めの男を、 という具合に。 …‥で、どう思う? 何を思い付いたのか、急にこんな事を尋ねてきやがった。 テメェさ、俺が理屈やらを捏(コ)ねるのを苦手な事を承知で、尋ねてきてねぇ? その顔は確信犯だな? わーったよ、答えりゃ良いんだろっ!? …‥俺は、同じぐらいの身長が良いな。 自分より低かったり・高かったりすると、困るじゃねぇか? 何が…‥って キスだよ、『キス』! 相手の身長に合わせて、ちまちま、屈(カガ)んだり・背伸びしたりするのはメンドくさくねぇ? テメェッ! 今、ズボラとか思わなかったか!? 第一、テメェが答えろっつぅから……‥‥ったく、続きを言うから、テメェは最後まで黙って聞いてろっ! 途中で口を挟むんじゃねぇっ! 身長が同じぐらいだったら、何時(イツ)でもキスが出来っからな。 額(ヒタイ)もあるけどよ、どうせするなら、唇が良いだろ? こら、目を放すな。 他にもあるんだぜ。 テメェと同じ視点で世界を見れるんだ。 身長が違うだけでも、テメェが見る世界と俺の見る世界は異なっちまう。 俺はな、好きな奴と同じ世界を見たいんだよ。 (おーおー、茹蛸[ユデダコ]みたいに顔を染めちまって、かわ…‥) ‥…って、蹴んな! あ″あ″!? 素で恥ずかしい事を言うなって? 別に、あったりめぇの事を言っただけだろ? それにな…‥ 【俺は、にやんと笑ってから、相手を抱き締めた。】 身長が同じテメェを抱き締めっと、テメェの真っ赤になった顔が真横にあって、最高だろ? だーかーらー、暴れんなって。 こんな風に、テメェの肩に俺の顎(アゴ)を乗せることも出来るし…‥、 ほら、キスも出来る。 (赤がテメェの顔から、引かねぇなぁ。照れてんのか? 恥ずかしいのか?) 今更だろ? キスだなんて。 ほんとっ、テメェは"可愛い"な。 狽ョえっ、俺の足を踏むな! その上に憎まれ口を叩くな! 抜けだそうとすんな! まだ、俺の腕ん中にいろ。 【おでこを合わせ、至近距離で相手を見る。そして、出来るだけ低い声で相手に囁いた。】 なぁ、知ってたか? 『可愛(カワイ)い』って漢字は、『愛』する事が『可』能だ、って書くんだぜ。 俺が言いてぇ事、分かるか? 『可愛い』って言葉を、俺が使うのはテメェにだけだし、他の奴等に言う気は、さらさらねぇ。 テメェが一番『可愛い』。 【やっとおとなしくなった身体を抱き締めてやる。】 テメェは憎まれ口を叩くわ、素直じゃねぇ上に暴力的だが、悪くねぇ。 むしろ、テメェらしい。 『恋愛』に程遠かった俺でも、飽きそうにも、退屈しそうにもねぇし、それよか、もっとテメェと『恋愛』したくなる。 テメェといると『愛(イト)しさ』が溢れ出ちまう。 やっぱ、身長は同じくらいが良いな。 好きな奴と世界を共用出来るし、何よりも同じ世界を見ている事が嬉しい。 (思ってたより、コイツとの『恋愛』にハマっちまってんなぁ、俺。) なぁ、好きだぜ。 【そう言って、わしゃわしゃと相手の髪を撫で上げると、それに答えるかのように"ぎゅっ"としがみついてきた。】 (蹴られたくねぇから、声には出さんが、無茶苦茶『可愛い』。) 【触れるだけの口付けを…‥恋人である相手と交(カ)わした。】 ―‐好き…‥だ。 (素直ってのは、思ってたよりも良いもんだな。) 【相手の蚊みてぇなに本音に、俺は心密かにそう思った。】 END [*前へ][次へ#] |