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被らない帽子と抜かない刀
2(それは此方の台詞です)

 曲がって、一番最初に見えたのは「あらまぁ」とでも言いたげに取り囲む商人と買い物客の群衆だった。
その中心地には、見事な人間タワーが建てられていた。
ざっと見て、十人以上。
クラウンの少年少女たちが色彩豊かな服を来ているので、フルカラーな断層になっている。
やっぱり、騒動は起きていた。
ナミが前髪を掻き上げ、額に手をやっていると、下層がもぞもぞ動いた。

「よぉ、ナミ、ロビン!」

「ルフィ!」
「船長さん!」

その声の持ち主に、航海士と考古学者がそれぞれの呼び方で叫ぶ。
亀が甲羅から手足を出すように、クラウンの子どもたちの下敷きから顔を出したのはルフィだった。

「アンタ、何やってんのよ!」

ナミの怒鳴り声にルフィは「しししっ」といつも通りの笑顔を笑い返す。

「見ろ! サンジを捕まえたんだ!」

くいっと最下層の人間の腕を掴み、ルフィがにっかりと笑って宣言した。
一瞬、「本当っ!?」と声を上げ、ナミは喜びそうになったが慌てて止めた。
押し潰されているその人物の後頭部は間違いなく金髪だったが、ルフィが掴んでいた腕は浅黒い色をしていたからだ。

「…‥ねぇ、ルフィ。サンジ君、そんなに黒くないんだけど。」

「あれぇ? 地面とぶつかっちまったせいで、肌が黒くなっちまったんかなぁ?」

掴んだ腕をキョロキョロ見ながら、ナミの発言にルフィが大袈裟なほどに首を傾げる。
有り得ないことを真剣に悩み、どれ、とその浅黒い腕を擦(こす)ったところで、白くなるはずもない。

「肌が浅黒いのは生まれつきだ。」

それでも何度も擦ってると、ルフィより更に下から、這い出(い)でるような密(ひそ)やかな声で回答が返ってきた。

「サンジ、何言ってんだ? お前、ゾロみたいにこんなに黒くなかっただろ!」

飽くまで、ルフィは下敷きにしている男をコックだと思い込んでいる。
階下の男は拳を強く握り込むと、ルフィに掴まれていた腕を勢い良く振り払った。

「訳の分かんねぇことをごちゃごちゃ抜かすまえに、」

海底火山の前兆のように唸(うな)りを上げる最下層により、グラリと人間タワーが揺れる。

「あ!」
「もしかして、この声は――っ!」

騒音迷惑罪の現行犯を押さえ付けることに必死になっていたクラウンの子供たちが声を上げるが、もはや遅い。






「邪魔だーっ! どけーっ!!」






海底火山が勃発した。
最深部の男が渾身(こんしん)の力を込めて立ち上がると、パラパラとフルカラーな火山灰が宙に散った。

「痛っ!」
「わぁっ!!」
「きゃあっ!!!」

空に投げ出された子供たちが地面に尻餅をつき、可愛らしい悲鳴をあげる。

「ぐえっ!」

男の勢いを直撃した、最後から二番目だったルフィはものの見事、顔面から煉瓦の壁に激突していた。

「おい、テメェ。」

いってー、と顔を抑えるルフィに、ドンと下敷き男が立ちはだかる。

 ここで初めて、ルフィと男はマトモに対面を果たした。
ルフィの言った通り、サンジ同様の金髪をしていおり、年齢も同じようであったが、それ以外はまるっきり違っていた。
第一、髪型も短いには短いが、ろくな手入れをしてないのか、ボサボサしている。
肌は浅黒く、大木から生えた枝のように男の腕は太い。
きりりっと締まった眉からはサンジの様な軟派さは一切見受けられなかった。

 そして、やはりクラウンなのだろうか、他の傭兵同様、男は奇妙な服装をしていた。
首と腕に赤い布を巻き付け、木の胸当て(プレート)を、鉄の腰当てを防具として装備している。
下にいくにつれて幅が大きくなる、灰色と緑色の間(あい)の子のような色のズボンを穿き、爪先の尖った靴を履いていた。
これらはまだ良い。
問題は上半身をプレート一枚にしていることだ。
おかげでヘソ出し状態だったが、引き締まった腹筋が丸見えでもあり、浅黒い肌と木の胸当てが遠目では、いっしょくたになってしまっていた。
右手には赤い布切れを掴んでいたが、両手を組んでしまったので、何なのかはよく分からなかった。

「何か言うことがあるんじゃねぇのか?」

 眉間にありったけの皺をかき寄せ、ルフィをガン見する男に、無関係であるはずの観客までもが震え上がった。
だが、当の本人たるルフィは何処吹く風よ、あみだクジ模様のついた顔面で男を確認しただけだった。
目くじらをたてる男と、呆(ほう)けた態度でそれを見るルフィ。
だが、次第にルフィの瞳が見開かれていく。
やっと、事の重大さに気付いたか、と街人がホッとした瞬間。






「鼻血でてるぞ。」






ルフィが放った言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。
ルフィにぶつかられた瞬間、顔面から地面に倒れ込んだのか、確かに男は鼻血を垂らしていた。
男の鼻頭が赤い。
ダラリと垂れ落ちる程ではないのがせめてもの救いだろう。

「お前が己(おれ)を押し倒したからだろ! それに、テメェも鼻血でてるじゃねぇか!」

上半身は殴りかかる気満タンだったが、理性で下半身をその場を維持しながら、男が怒鳴り声をあげる。
声をあげた衝撃で血が唇まで垂れ落ちる前に、手の甲で拭い、男は「くそったれ!」と吐き捨てた。

「うわっ! ホントか!」

男に指摘され、ルフィが顔を拭うと、血がべっとりと手の平に付着する。
煉瓦の壁に顔面をぶつけた際に、鼻の内部が傷付いたようだ。

「拭くもの、拭くもの…‥何かねぇかな。」

見渡すルフィの眼前で、薄いピンクの布が揺れている。
これでいいや、と手を伸ばし、顔を拭く前にルフィは吹っ飛んだ。

「アホかぁ!」

ピンクの布はナミのカーディガンだったのだ。
蹴り飛ばされたルフィは勢い良く、鼻血と格闘していた男に背部から激突した。
可哀想に、ルフィがぶつかった衝撃で更に鼻血が悪化したらしい。
とうとう、血が地面に散った。

「おい、テメェ! どうしてくれる!!」

ヒビが入りそうな程に肩を掴まれ、無理やり振り向かされると、鼻から血を流しつつ、青筋を大量に浮かべた金髪男の面が間近でルフィを待ち受けていた。
流石のルフィも危機感を悟ったらしい。
青ざめる赤チョッキの男に、やっと、と街人が思ったが。






「サンジじゃねぇ!」






またしても予想外の発言が飛び、観客の足がガクリと折れた。

「今更かいっ!」

それに、ナミの尤(もっと)もなツッコミが続く。

「お前、誰だ?」

「それは此方の台詞だ! 第一、今は三時(サンジ)ですらねぇよ。」

「なに、訳分からねぇこと言ってんだ? サンジはサンジじゃねぇか!」

「訳分からねぇこと言ってんのは、そっちだろが!」

相手を指差して尋ねるルフィと、会話を重ねる毎(ごと)に髪が逆撫でる勢いで激情する男が、二人して鼻から血を流しているので、みっともないことこの上ない。
しかも、男は“サンジ”を人名ではなく時間と勘違いしているので、話が見事に食い違う。

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