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被らない帽子と抜かない刀
6

「"麦"わら帽子と"刀"を持っていたから、"ムギガタナ"!! ねっ、すっごく良い名前でしょ!?」

 喜々として理由を語るシルクに、ジョリーは頭が痛くなった。

――"ムギガタナ"。

ネーミングコンテストとなるものがあるとしたら、鐘が一つ、いや、一つも鳴らないような名前だ。
ころころとした犬に"コロ"、ちびっこい猫に"チビ"と名付けるのと同レベルのネーミングセンスである。
確かに、この男を"拾ってきた"のは事実だが、拾ってきた犬や猫に付けるような名付け方で良いのか!? と思う。
ジョリーが呆れるのも当然だ。
それに、ほら。
記憶喪失男の握り締めた拳が震えている。

(女好きとはいえ、流石に呆れるよなー。)

お気の毒様、と言わんばかりの眼差(まなざ)しを向けていると、男が顔をあげて言った。

「なんて…‥











素敵な名前なんだぁーーっ!!!!!!」


 男の台詞(セリフ)に、ジョリーは自分の頭を壁に本気(マジ)で打ち付けたくなった。
ついでに、この男の頭も壁にぶつけたくなった。

「シルクちゃん、こんな素敵すぎる名前を付けてくれて、ありがとーーっ!!!!!」

「喜んでくれて何よりだわ!」

喜び合う二人に、ジョリーは完全に取り残されていた。
先ほど、男の拳(こぶし)が震えていたのは、感動のためだったのだ。

「医者も"ムギガタナ"でイイよねっ?」

目を輝かせて、同意を求めるシルクにジョリーは投げ槍で頷いた。

「テメェなんかにシルクちゃんのようなネーミングセンスはねぇもんな。」

へらへらと男はジョリーをからかう。

(この男の名前は、もう"色ボケ馬鹿ヤロー"に決定だ。)

この男。
ジョリーが考えた名前"色ボケ馬鹿ヤロー"でも、レディーから付けられたのなら、喜んで譲受するだろう。

(一瞬でも、この男に同情した俺が、シルクのネーミングセンスと男の感性に期待した俺が、馬鹿だった。)

心の底から、ジョリーは思った。
ありったけの暴言をぶちまけたい気分に襲われている医者の横では、男がシルクのネーミングセンスをべた褒めしている。

「"ムギガタナ"、なぁんて、エレガントでイイ響きの名前なんだぁ!!」

(むしろ、コイツに普通の名前を付ける方が勿体ないような気がするぜ。)

 男の発言に、ジョリーが心の中で逐一(ちくいち)ツッコミを入れてやる。

「シルクちゃん。君はまさしく、ネーミングの女神様だぁぁ!!!」

(いや、"悪魔"の間違いだろ。)

「そして、"あの方"と同じ、最高のネーミングセンスっ!!」

(そうそう、"あの方"同様、最低のネーミングセンス…‥って、)

 ハッとして、ジョリーは男を見た。
シルクも同じことを思ったのか、男を見つめている。
ガラリと変わった雰囲気に「えっ?」というような表情をした男に、ジョリーとシルクは同時に言ってやった。





「「"あの方"って、だれ?」」





「…‥え、あ、"あの方"?」

 途端。
男を酷い頭痛が襲った。
"あいつ"と思った時と同じ痛みだ。
「頭が…‥痛ぇ…‥」と呻(うめ)いたかと思うと、男はその場に崩れていた。
前回と違って、掴むものがなかったせいか、その場で頭を押さえて座り込む患者(クランケ)に、シルクとジョリーは、

「大丈夫っ!?」

「おいっ、お前っ!」

咄嗟(とっさ)に声をあげていた。
男は顔を上げない。

「ねぇっ、大丈夫っ!!??」

もう一度、声を掛け、シルクは男に手を伸ばしていた。
すると、男はその手を掴んだ。










「はいっ!」

その手を掴んだまま、顔を上げた男は、目をハートにした、ジョリーの言う"色ボケ馬鹿ヤロー"だった。
大丈夫だと確認すると否(いな)や、シルクは躊躇(ちゅうちょ)なく、男を蹴り飛ばしてやった。

「ぐえっ!」

そのまま、壁に激突した男に、シルクは

「心配するだけ無駄ね。」

と呟き、ジョリーは、

「そうだな。」

と同感の意を表した。

(壁に頭をぶつけたついでに、その記憶喪失同様、お前のアホな性格も吹っ飛んじまえ。)

いてて…‥、と頭痛とは違う痛みに頭を押さえる男に、ジョリーはそんな非情なことを思っていた。

「さて、ショウゲキ(衝撃/笑劇)も終わったし、"ルーブル"に行きましょうか。」

 キュロットスカートを翻(ひるがえ)しながら、玄関の扉を全開にするシルクに、今、思い付いた、とでも言うように、記憶喪失の男は、いや、"ムギガタナ"は座り込んだままで尋ねた。

「そういえば、この島の名前はなんて言うんだい?」

玄関から、日光がさっと差し込み、少女の体の輪郭をきらきら光らせる。

「ここの名前?」

立つジョリーの隣りに座り込みながら、シルクの問い掛けにムギガタナは頷いた。

「ここの名前はね…‥」

シルクは言葉を続けた。












「"シロツメ島"の"プラド"よ!」


 シルクはあの笑顔満開で、そう言ったのだった。





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