被らない帽子と抜かない刀 1 4≫いつか光のさす場所へ プチトマトとパセリとブロッコリーとレタス。 「ナミっ、いらねぇのか? だったら、俺がもらうぞ!」 ナミの皿にあるサラダの残りを見つけたルフィが手を伸ばしてきた。 「待って、ルフィ! 今から、説明に使うから、これは食べちゃ駄目なの。…‥はい、みんな、注目!」 その手を払い除(ノ)けながら、航海士は他の仲間を呼び集めた。 ウソップとナミが、フォリー・ベルジェール島の町、エディンバラで調達した惣菜や肉やパンがラウンジのあちこちに散らかっている。 食べ終わったばかりの船員(クルー)は、いつもとは一人足りないテーブルについていたが、ナミの呼び掛けにすぐに反応を示した。 「今から、この島、フォリー・ベルジェールについて説明するから、ちゃんと聞いてね。」 ナミは器用にフォークでサラダの四つの残りを皿の縁(フチ)へと時計盤のように追いやった。 パセリは十二時に、ブロッコリーは三時に、レタスは六時に、プチトマトは九時という具合に。 「此の島を皿に例えると…‥」 「皿は島じゃねぇぞ。」 ナミの話をぶったぎって、ルフィが茶茶を入れる。 「だから、例えなんだって。」 「皿は島じゃねぇぞ。」 「だーかーらー、例えだって、」 同じ台詞を言い、更に茶茶を入れようとするルフィの耳をナミは引っ張ると、 「言ってるでしょうが!」 と直接、大声で耳に前置きを送り込んだ。 「頭がくらんくらんするぅ〜。」 送り込まれたルフィは耳を押さえながら、頭を左右に降った。 「イイ!? みんな、よく聞いてね!」 他ならぬ説明者自身のせいで、聞けない状態になってしまった船長を放って置いて、航海士は喋り始めた。 「私たちが今、滞在している、この島の名前は"フォリー・ベルジェール"。別名、"新緑の島"と言われてるの。」 「"新緑の島"?」 首を傾げた拍子に、トレードマークのピンクの帽子が落ちないように押さえながら、チョッパーが鸚鵡(オウム)返しした。 「そう、"新緑の島"。」 ナミが確認するかのように、再度口にした。 「この島は春島と夏島の中間のような気候を保っているの。私たちの季節感で言うと、五月ぐらいに当たるのかしら? 夏のように暑くなく、春のように暖かくもないから、ちょうど過ごしやすい気候なのよ。」 ナミの説明の単語の一つ一つに、チョッパーは頷いた。 「そして、その気候をうけて貿易港が出来上がった。それが、この島の町"エディンバラ"よ。」 ナミがフォークで、皿を時計に例えて、六時の位置に置いたレタスを指した。 「ウソップとゾロと行ってみたけど、市などが出てて、結構賑わってたし、治安も良かったわ。」 「海軍がいないのにね。」 航海士の説明を補うようにして、考古学者が発言してきた。 「ロビン! フォリー・ベルジェール島のこと、知ってたの?」 「この島にロビンは来たことがあんのか?」 だったら、なんで行ってくれなかったのよ! と言いたげなナミに続くようにして、ウソップが問い掛けてきた。 「いいえ、私はこの島に来たことはおろか、この海域には来たことすらないわ。」 「だったら、なんで…‥、」 呟くナミに、ロビンが説明した。 「新緑の島、フォリー・ベルジェールは、海賊の中では恐れられている島なの。」 「なんで?」 しっかり会話についていこうと、チョッパーが尋ねた。 「やっぱり、"クラウン(庸兵)"がいるからか?」 ウソップの質問にロビンが白か黒か言い渡す前に、 「なんだ? "くらうん"って喰えるのか?」 ルフィのお決まりな発言が飛ぶ。 「ルフィ…‥、どうして、アンタは全てを食べ物と直結させるの?」 そう言いながらも、ナミはルフィに、ウソップはチョッパーに"クラウン"が何であるか(ルフィに関しては、"庸兵"の言葉の意味を知っているかどうかすら怪しい)を説明した。 その間、ロビンは空っぽになったカップを見つめていた。 そのカップに目敏(めざと)く気が付いて、コーヒーを注いでくれる人は、今、この場にはいない。 (自分で注ぐしかないわね。) 立ち上がろうとするロビンに一つの影が差した。 影を目で追うと、無口さが増した剣士がコーヒーを注ごうとしてくれていた。 (アラ、珍しい。) 不似合いな行動を起こすゾロに、ロビンはいつもの微笑みを忘れていた。 コーヒーを注ぎ終えると、ゾロはわざと音をたてるとようにして座った。 周りを見ると、皆一様にポカンとしている。 ――それって、ある意味、失礼に当たるのじゃないかしら。 「ありがとう。」 いつもの微笑みを取り戻すと、ロビンはカップに口をつけた。 一口だけ飲むと、"クラウン"が何たるかを理解した仲間に話し始めた。 「フォリー・ベルジェールのエディンバラは昔から貿易港として栄えていた。だから、よく海賊の略奪の標的とされたの。勿論、海軍はいたけれど、彼らは街を海賊から守る代わりに、法外な関税を強いて、それを緩めたい商人からの賄賂や貢ぎ物を平然と行っていたらしいわ。」 「昔から、そーゆー最低な奴等はいるのね。」 何かを連想したのか、ナミが心底嫌そうな顔をして呟いた。 テーブルの下で、膝の上で拳を握り締める力が自然と強くなる。 続きをいいかしら? と視線を向ける考古学者に、航海士は黙って頷いた。 . [*前へ][次へ#] |