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被らない帽子と抜かない刀
4

「よぉう、リチア、仕事サボって、男をたらしこんでんのか?」

 リチアの台詞に被るようにして、誰かが発言してきた。
声の出所をゾロは探した。

 いた!
パブの軒下に少年が三人たむろっていた。
それぞれ、赤・青・黄と信号機みたいな髪色をしており、三人とも、動きやすそうなカラフルな服を着ているので、クラウンに間違いないだろう。
先程の台詞は、その三人の内の一人である赤髪の男子が発言したものであった。

「あら! アナタたちは剣の修行をサボって、お喋りの修行中かしら?」

リチアが荷台の縁に立ち、相手を見下す形で言い返した。

(…‥かなりの毒舌だな。)

荷車を止め、リチアの口喧嘩に付き合うことをなってしまいながらも、ゾロは心の中で呟いていた。

「じゃあ、リチア、お前は男をたらしこむ練習中ってか?」

先程とは異なる、青髪の少年の発言に、残りの二人がどっと笑い出した。

「…‥そんな練習、傭兵であるアタシには必要ないわ。アナタたちが極めている、"無意味な"お喋りの修行もね。」

リチアが冷静なままで切り返す。

「だから、アナタたちは、いつまでたっても"弱い"のよ。武術も精神面においても。アタシに何一つ敵いやしない。」

「ンだと、コラァ!!」

一番目の赤髪の男が激昂する。

「あら、図星だったのかしら? ごめんなさいね、本当の事を言っちゃって。」

刺のある言葉を連発する金髪少女に、ゾロは誰かと重なった。

(テメェら'二人'も十分、お喋りの修行とやらをやってるじゃねぇか。)

「アナタたちの無意味なお喋り修行に付き合う程、アタシは暇じゃないの。行きましょ、旅人さん。」

顔から湯気が出るんじゃないか、と思われる程、顔を赤くする少年たちを尻目に、リチアがゾロに荷車を進めるよう指示する。

(仕方ねぇな。)

ゾロが腕に力を込め、荷車を進めようとした時だった。













「確かに、女にゃお喋りの修行はいらんわな。女はお喋りが専売特許で、男は武術が専売特許。アンタの言う通り、道に外れたこと、しちゃあ駄目だよな。俺らも、そして、アンタも。」

今までずっと黙っていた三人目の黄色い髪色の男の言葉が後ろから聞こえてきた。

「分からないの?」

荷車は動いているというのに、座りもせずにリチアが再び少年たちに言い放った。



「男や女なんて関係ない。強い者が弱い者を守れば良いの。守られたくない弱い者は強くなれば良い、ただ、それだけのことよ。」



一気に言うと、リチアは少年たちに背を向けた。
もう何も言いたくないらしい。
少年たちもぶつぶつ言い合うだけで何も言い返さない。

(やっと、進めるな。)

とゾロが思ったと同時に、リチアがダンッと足を鳴らした。

(何だ?)

振り返ったゾロが見たのは、少年たちを射殺しそうな勢いで睨み付けるリチアの姿だった。
怒りの感情が顔だけでなく、体中から表れている。
さっきまで、何を言われても、飄々(ヒョウヒョウ)としてたのが嘘のようにさえ感じられる程、少女はキレていた。

「今、なんて言った?」

リチアが感情に邪魔されながらも、絞り出すように声を出した。
どうやら、少年たちのボソボソ声がリチアの逆鱗に触れたらしい。
少年たちは答えない。


「今、なんて言った!!??」


リチアは、怒りを露わにした大声で、もう一度、問い詰めた。

「へっ、何なら言ってやろうか。」

吹っ切れたように、三人目の男が答えた。

「アンタに背中を預けている"ユー"は、かなりの"キチガイ"だって、言ったんだよ!」

(ユ'ウ'といやぁ、この女の相方じゃねぇか。)

ゾロが思っている間、リチアは何も言い返さない。
言い出した男子に嫌な意味で勇気づけられる形で、残りの少年たちも次々に台詞を放った。

「"腑抜け"もあるだろ。」
「"トチ狂ってる"も忘れんなよ。」
「それじゃあ、"キチガイ"と同じじゃねぇか。」
「ハハッ、そうだな。」

リチアの相方を罵倒する言葉が際限無く飛び出して来る。

(…‥何か、起こるな。)

ゾロはリチアの目の色が変わったような気がした。
ヒュン、と槍を回す音がした。
少年たちの会話は止まらない。

「だってよ、あの二人は…‥」

次の瞬間。
リチアは少年たちの方に向けて槍を投げ飛ばしていた。

「「「ひっ!?」」」

少年たちは思わず声をあげたが、槍は彼らよりもだいぶ上に向けられていた。

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あきゅろす。
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