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被らない帽子と抜かない刀
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3≫お前が海賊王になれない理由(ワケ)


 海のど真ん中に、その船はあった。
船長である男が情けなく―‐

「ぼうし〜〜〜」

‐―と泣(鳴)いている船が。

 玩具(オモチャ)を取り上げられた子供のごとく泣(鳴)き続ける船長がいる船首に向けて、エターナルポースで自船の進路を確かめていた航海士が大股で歩き出した。
彼女が近付いても尚、嘆き続ける彼に航海士は握り拳をつくった。

「うるっさいわ!!」

「いでっ!」

航海士が船長を殴る、小気味良い音がした。

「何すんだよ、ナミ!」

当然のごとく抗議する船長に、オレンジ色の髪の少女がぐいっと近付いた。

「何すんだよ、じゃないわよ!さっきから聞いてれば、帽子・帽子って!」

「あれはおれの宝なんだぞ!」

「そんな事ぐらい知ってるわよ!ルフィ!私が言いたいのはね、」

クレシェンド(意味:音楽記号で段々音が大きくなる)をマーク付けられたかのような、ナミの語調は次の台詞で最大に達した。


「サンジ君が心配じゃないのかって事よ!!!」


その声は甲板だけでなく、小さな船――ゴーイング・メリー号――中に響いた。

「ルフィ、アンタはね!」

「おいおい、落ち着けよ、ナミ。」

今にもルフィに飛び掛かっていきそうなナミを狙撃主が肩を掴んで制止させた。

「ウソップ。」

狙撃主に振り向いたナミは、鬼以上の表情をしていた。

「どうやったら、落ち着けるって言うのよ。」

怒りの矛先を船長から狙撃主に変えたナミがウソップの両頬を引っ張った。

「ナミ!」

解読不能の言葉を発しながら訴えるウソップを助けるため、赤い帽子を被ったトナカイが航海士の名前を呼んだ。

「何、チョッパー!?」

「あ…‥いや、あの、その…‥何でもない。」

ナミのあまりにも恐ろしい視線に、チョッパーは尻込みした。

("何でもない"訳ねぇだろ!)

ナミに頬を引っ張られているため、上手く言葉の出せないウソップは心の中で文句を言った。

「航海士さん、落ち着いて。」

もう一人の女性船員(クルー)の声に、水が打ったように静まり返った。

「ロビン…‥。」

ナミがウソップを頬を抓(ツネ)るのを止め、声の出所に顔を向けた。
ウソップは頬が痛いのか、しきりに擦(サス)っている。

「心配なのは貴女(アナタ)だけじゃないのよ。」

言い聞かすかのように、ロビンが話しかけた。

「私も、狙撃主さんも、船医さんも、剣士さんも、」

一人一人を確かめるようにして、ロビンがみんなの名前をあげていく。

「…‥そして、船長さんも、」

ルフィの事を言った瞬間、船首に座っていた彼の肩が微かに震えた。

「みんな、コックさんの事が心配なのよ。」

ロビンの口調は、ナミを咎(トガ)めるものではなかった。

「分かってる、分かってんだけど、」

そう呟いた後、ナミが外に視線を向けた。
その発言を最後に、みんな黙り込んでしまった。

 その雰囲気がいたたまれなくて、チョッパーは海を見た。
万物の母である海は、一体何処にあの非常さを隠し持っているのだろうか?

 彼が嵐の海に自(ミズカ)ら飛び込んだのは、昨日の事であった。





 


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