Shall we dance? 〈OP〉

ワンピースのサンゾロ小説サイト
「エメラルドの金糸鳥」の瀬織様から50000HITのお礼企画でリクエストさして貰ったサン→ゾロ小説です。










 差し出された手を、思わず凝視した。






―Shall we dance?―






 海賊はみな、騒ぐことが好きなのか。

 それとも、麦わらの一味がお祭り騒ぎを好むのか。

 ひとつの闘いが終われば、宴会はあたりまえ。

 買い出し目的のみで立ち寄った島で、たまたま島人と打ち解けて宴会、という流れもあたりまえ。

 クルーの誕生日は言わずもがな。

 ひとりで行動していた頃には関心もなかった、クリスマスだの正月だのこどもの日だのに託けて宴会、というのも当然で。

 自然な流れで、いきなり始まる馬鹿騒ぎ。

 振り返ってみると、結構な回数である。

 料理を振る舞うコックも大変だと思うが、プロ意識の高い彼のことだ、腕を振るう機会が多いことは、料理人冥利に尽きると思っているのだろう。

 そんな思考に陥ったのは、偏に現在、まさに飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの只中だからだ。

 運が良いのか悪いのか……、食料が底をつきそうで慌てて立ち寄ったこの島は、花祭の真っ最中だった。

 海賊旗を堂々とはためかせた船を、島人は警戒することもなく、船から降りた途端、花輪をかぶせて歓迎した。

 少しは警戒したらどうだと怪しみ紛れに言えば、「花祭は無礼講。何か悪さをすれば、島にいる花の精霊に追い出されるから心配ない」と応えられ、今に至る。

 島の中心にある広場は屋台がところせましと並び、観光客でごった返していた。

 同業者らしき姿もちらほら見えたが、みな純粋に祭を楽しんでいるようで、クルーも最初は首を傾げていたが……。

 乱暴者は花の精霊に追い出される、というのはあながち嘘ではないらしい。

 賑やかで楽しそうな場に、おとなしくしているような年少組ではないし、綺麗な花々に目を綻ばせるナミと、花祭の謂れに興味を示すロビンに反対もできず、ゾロは広場の縁でひとり酒を飲んで祭の様子を眺めていた。

 中央では、色とりどりの花で飾り付けられた小さな木を囲んで人々が踊っている。

 少々賑やか過ぎるが、花見とも言えなくない。

 クルーに危険はなさそうだと、ゾロはようやく口許に笑みを浮かべた。

「こんなところにいたのか」

 ふいに声をかけられてふりあおぐと、そこには料理人が立っていた。



 さっき見掛けた時は、島の女たちに囲まれてハートを飛ばしていたが……、ナンパは成功しなかったのか。

 サンジは隣に腰をおろし、ほい、とゾロの目の前に酒瓶を翳した。

「この島のレディたちに勧められたんだ。地酒ってヤツ?」

 透明な瓶の中で、薄紅色の液体が揺れていた。

「……甘そうだな」

 見た目の印象からそう溢すと、サンジの笑みが深くなった。

 まあ飲んでみろ、とグラスに注がれてひとくち含んでみれば、爽やかできりっとした味が舌を刺激した。

「……旨ェ!」

「だろ?」

 予想に反した好みの酒に目を見張るゾロのグラスに、サンジは自分のグラスを軽く当てる。

 すぐに立ち去ると思ったのに、サンジはゾロの隣から移動しようとしなかった。

 普段、戦闘や喧嘩の時くらいしか側にいることがないのに、珍しいこともあるものだと思いながら、ゾロは酒を飲む。

 特に会話らしいものもなく、祭で浮かれる人々を静かに眺めていると、突然サンジは音高にグラスを置いて立ち上がった。

「なあ。オレらも踊らねェ?」

 …………いきなりの突拍子もない言葉に、ゾロは目を点にした。

「なんか楽しそうじゃねェか。たまにはああいうのに参加するのも悪くねェだろ?」

 そういえば、宴会の最中、こいつは忙しく動き回っているのが常だ。

「行ってこいよ。オレは遠慮する」

 ああいう輪の中に入るのは苦手だ。
 ここで酒を飲んでいる方が気が楽だし、楽しい。

 そう言ってグラスに口をつけるゾロに、サンジは手を差し出した。

「Shall we dance?」

「………………は?」

 差し出された手を、思わず凝視した。

 何と言った? この男は。

「オレと、踊ってくださいませんか?」

 呆気にとられたように見上げてくるゾロに、にっこりと笑いかけながらサンジは言い直した。

「………………なんで?」

「おまえと踊りたいから」

 さも当然のように応える料理人に、酔ったのか? とゾロは首を捻った。

 ……酔うほど飲んでいない気もするが。

 いや、女と間違えているあたり、やっぱり酔っているのか。

「なあ、ゾロ。オレと踊ってよ」

 乞うように名前を呼ばれる。

 誘っている相手が、いつも喧嘩しかしない剣士であることを、間違えてはいないようだ。

 最近、サンジはよく分からない行動に出る気がするのは単なる気のせいだろうか。

「だから、なん……、うわっ!」

 顔を盛大に顰めてその手を叩こうとしたが、逆に掴まれ、ゾロは勢いよく引っ張りあげられた。

 上機嫌で輪に入っていくサンジに、ぐいぐいと引き摺られる。

 振りほどこうにも、思いのほか強い力で手を繋がれて、はずせない。

「オレはこういうの苦手なんだよ!」

 ダンスは苦手というより知らないのだ。
 どう動いて良いのか、さっぱり分からないし、興味もない。
 育った文化の違いは顕著だ。

 不本意ながら、舞踊の心得は亡くなった親友の所為で多少あるのだが、動きや早さが全く違う。

「踊れなくてもいいよ。教えてやるから」

 ぐいっと腰を引き寄せられ、ゾロは恥ずかしさに赤面した。

「てめえ、マジで酔ってんじゃねェのか!?」

「酔ってるように見える?」

 耳許で囁かれて、ゾロは固まった。

 酔ってるとしか思えない。

 サンジは楽しそうにくすくす笑った。

「いいじゃねェか、たまにはさ。喧嘩も楽しいけど、こういうのも悪くねェだろ?」

「てめえが何考えてんのか、さっぱり分からねえ……」

「ん? ゾロのことしか考えてないぜ。な? オレの相手になってよ」

 まるで、女を相手にしているような甘い声だ。

 自分には向けられたことのない優しい顔を見て、ゾロは思わずその足を踏みつけた。


「いてェッ!! いきなり何しやがるんだ!!」

「うっせえ!! オレは男だ! わかってんのか!?」

「当たり前だ! てめえがマリモだってことくらい分かってらァ! 何度も言うが、オレは酔ってねェッ! おら、右ッ!」

「うわッ!」

 がしりと片手を取られ、もう片方をサンジの肩に促されたかと思うと、そのままいきなり動かれて、ゾロは踏鞴を踏んだ。

 男同士で突然ワルツを踊りだされて、周囲は驚いたが、見目の美しいカップルに盛り上がったのは言うまでもない。

 楽団も気をきかせてか、曲をスローテンポなものに変えたため、周囲の人々もワルツを踊り始めた。

 しかし、そんな周りの変化に気づく二人ではなかった。

「右足引いて、次、左へ……、そうそう。さすがだな。のみ込みが早い」

「……ひとつ聞くが」

「なに?」

「なんでオレが女役なんだよ!?」

「リードしたいからに決まってるだろ」

「…………そうですか」

 もう、反論する気力も起きなかった。

「それに、こうしていれば、変な虫も寄ってこないしな」

「虫?」

 近くに変な虫でも潜んでいたか?

 あまりにも天然なゾロの思考に、お見通しのサンジは溜め息を零した。

「おまえ、そういう対象にされやすい容姿してるって、自覚した方が良いぜ。気が気じゃない」

 ああ、そういうことか。

 ゾロは顔を顰めた。

 何故か自分が同性にもモテることくらい、自覚はしている。

「顰めっ面するなよ。笑ってる方が可愛いから」

「………………ほんっとうに、どうしたんだ? おまえ…………」

「恋するオレの最大の敵は、相手の鈍感さか……」

「はあ?」

「ふつう、男嫌いのオレがこんだけ接近したら分かってくれるだろ……」

 まあ、仕方ないか、とサンジは呟いた。

「そんな、鈍感なおまえを好きになっちまったんだからな……」

「――おい。マジで熱でもあるんじゃねえか? 大丈夫か?」

 おかしいな、なんで熱ねェんだろ?
 チョッパーのところに連れてくか?

 サンジの額に手を置いて、ゾロはサンジの不可解な言動に唸った。






「……涙ぐましい努力だこと」

 ふたりの噛み合わない様子を遠くから眺めていたナミは、呆れたように溜め息を零した。

「まったく、焦れったいったらありゃしない」

 ぼやくナミに、珈琲をひとくち飲んだロビンは小さく笑みを浮かべる。

「コックさんも、男の人を口説くのは初めてだから、勝手が分からないのね」

 女性だったらされて喜ぶことも、言われて頬を染めることも、鈍感な剣士には通用しない。

「直球でいくしかないって、気づいたんじゃないかしら」

 微笑ましいわ、とロビンは楽しげにふたりのダンスを見守った。


―end―









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こんな素敵な小説をありがとうございます。

これからも応援しています。頑張ってください











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