呼び名 〈他〉
S.D.KYOのほた辰中心辰伶総受け素敵サイト
「虹のビー玉 七色の願い」の那由様から六周年記念に頂いたフリー小説です。
呼び名
狂たちとの死合いや壬生でこごたごたが終わり、なんとなく和解して以降、ほたると辰伶は一緒にいる機会が増えた。
とはいっても、2人が意識してそうしているわけでもなく、もちろん、今まで異母兄弟らしいことをしてこなかったからそれを取り戻そうとか考えているわけでもない。
ただ、なんとなく一緒になるが、わざわざ避ける必要もなくなったのでそのまま一緒にいる。
だから、特に会話もあるわけではなく、2人のいる空間は静かだ。とはいえ、その沈黙は別段重苦しくなく、穏やかで。
こんな風に2人で過ごす日がくるなんて、と2人とも思うも、もちろん相手に伝えることはない。
が、それで別にいいかな、とお互いに思っている。
掴んだような掴めないような曖昧な距離のまま、2人は過ごす。
「螢惑、「“ほたる”。」
ふと用を思いだして辰伶が紡いだ名前を、ほたるが遮る。
それにきょとんとした顔で辰伶がほたるを見れば、ちょうどこちらを見たほたると目が合った。
「オレは“ほたる”だって言ってんじゃん。」
「え、あぁ悪いな。」
少し拗ねたような様子のほたるに、そういえばこいつの表情の変化も少しわかるようになったな、と辰伶はちらと思う。
まぁまだわからない部分も多いが、と呑気にそんなことを考えていれば、おまえはさ、とほたるはゆっくり口を開く。
「なんでいつまでも“螢惑”って呼ぶわけ?」
基本的には呼び方なんて気にしないけど、と思いながらも、なぜか答えを知りたくてほたるは辰伶を見つめる。
そうだな……と理由を考えて目をふせた辰伶は、ふとほたると出会った時のことを思い出した。
辰伶が、自分に異母弟がいるのを知ったのは、幼いころではあったが、そう昔のことでもなかった。
自分が水を自由に操れるようになり、次の“水曜”に有力だと囁かれるようになったときだ。
「私の子なら当たり前だ。」
そう言った父親の目は、言葉の通り当然という思いが大多数であり、子供を誇らしいと思う気持ちもないではないが、基本的には家を守れる安堵感が色濃く出ていた。
自分の子供というより、家の跡取りという、ある意味、道具のように見られることに慣れていた辰伶は、そのことに特にどうとも思わなかったが、いままで、時折見せる父親の恐怖や不安の眼差しが、ここで無くなったのに気づいて心の中で首をかしげた。
自分を見ながら、自分ではないなにかを考えて微かに顔を歪める父親をいつも疑問に思っていたが、どこか聞いてはいけない雰囲気に辰伶はいつも口を閉ざしていた。
だがその疑問も、思わずといった体で漏らした父親の言葉で解決する。
「こいつもあの忌ま忌ましい子供のように、私の血を受け継がなかったらどうしようかと思った。」
よりにもよって炎など、と呟いた父親に、あぁ自分には兄弟がいるんだな、と思った。
どんな子なんだろう、とか、たぶん血は半分しか繋がってないんだろうな、とか、会ってみたい、とか考えるものの、あの日うっかり言葉を漏らしたことになど気づいていない父親に言えるはずもなく。
ようやく異母弟について口にできたのは、異母弟に刺客を仕向ける父親に気づいてから。
思えば、辰伶が父親に対して異を唱えたのはこのときだけだった。
自分の気持ちを押し殺して生きてきた辰伶は、思うがまま生きるほたるに初めて会ったときは衝撃を受けた。
“火曜”“水曜”として初めて会ったほたるを見て、自分とも父親とも似ていないな、と思う。
「はじめまして。」
なんと声をかければいいかわからず、とりあえず紡いだ言葉に返ってきたのは沈黙で。
あぁ嫌われているな、と感じる。
強い光を放つ目は酷く攻撃的で、それでも辰伶はその目が綺麗だと思った。
「私が“水曜”の辰伶だ。」
名乗ればほたるはすっと目を細める。
また無視されるかと思ったが、ほたるはゆっくり口を開いた。
「……螢惑。」
水は嫌い、と言い残して踵を返した螢惑の背中を見ながら、そういえば、と辰伶は不意にあることに気がつく。
(あれだけ会いたいと願っていたのに、名前すら知らなかったのだな。)
ぼんやりと考えながら、辰伶は螢惑を立ち去った方をじっと見ていた。これが、辰伶が覚えている、螢惑との出会い。
じっと考え込む辰伶を、ほたるは静かに待つ。
そういえばこいつとこうして改めて話すのは新鮮かもしれない、とふと思う。
なにげなく、というわけでもないが、そう深い意味もなく聞いた質問にこうも悩まれるとは思っていなかった。
ほんとにこいつは真面目だよな、と感心半分呆れ半分で見ていれば、そうだな、と辰伶は独り言のように呟いて顔を上げる。
「おまえと、初めて話した時に聞いた名だからだろうな。」
「ふぅん?」
納得したような納得できないような答えにほたるは少し首をかしげる。
それに辰伶は困ったように笑って、あぁつまり、と言った。
「おまえの声を初めて聞いた時に言ったのが“螢惑”だったから。」
無意識だろう、大切な思い出を語るように辰伶は微かに微笑む。
それに、ほたるは一瞬息を止めた。
「……そうだっけ?」
「そうだぞ?」
「……そう、だったかも、ね。」
曖昧に返したほたるだったが、実はほたるも初めて会った日は覚えている。
ただ、辰伶が覚えているとは思っておらず、ましてや、そんな大切に思っているなんて考えもしなかった。
なんで、と思う。
自分はずっと辰伶を憎んでいたから、いい思い出ではないはずなのに。
ほたるがぼんやりそんなことを考えて辰伶を見ていれば、辰伶はちょっと肩をすくめて、まぁ、と言った。
「呼び慣れているから、というのもあるが。」
「……そう。」
わずかに頷いたほたるに、話が一区切りついたと思った辰伶は、ふとほたるへの用を思い出す。
そもそもこれで呼びかけたらこんな話になったんだったな、と思いながら、あぁそうだ、と口を開く。
「ほた、「“螢惑”。」
「え?」
「別に“螢惑”でいいよ。」
唐突な言葉にきょとんとした辰伶にほたるは肩をすくめてみせる。
「呼び方なんて、どうでもいいし。」
「そう、か……?」
なんだか腑に落ちないような表情をしながら辰伶は頷く。
それで、と話し出した辰伶の話を半分以上聞き流しながら、ほたるは少し笑った。
(一緒にいる理由も、呼び方が気になる理由も、あんがい簡単なのかもしれない。)
「?螢惑?聞いてるか?」
「少しは?」
「なんだそれは。」
あとがき
アンケートにご協力ありがとうございました。
もう、本当に遅くなりましたが、ほた辰がだんとつの1位だったので書いてみました。
の、わりには、くっついていなくてすみません。
もう少しすればくっつくんじゃないかなーと、ね;;
ここまで読んで下さってありがとうございました!
Thank you for 6th anniversary…
引き続きまして六周年おめでとうございます。
これからも頑張ってください♪
管理人・yasu
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