ヘタレ!!!


フワッと香ってるラズベリーの香り

一口含んでじっくりと味わえば、身体だけでなく心まで温まる


今日は何時もより多く海図を書き上げたから
肩はこり、目の奥は重く、身体は正直に休息を訴えていた。

そんな自分の体調を見通して作ってくれた飲み物は、実に心身共に癒しを与えてくれ
あんなに重かった頭が、まるで憑き物でも落ちたかの様に軽くなっていくではないか。


言葉に出していないのに
皆の体調をが疲れている事を分かって、いつもより甘めに作ってくれる彼は

周りを実によく見ており、ちょっとした事でも本当に気が利くのだ。

それだけでなく女には滅法弱いのが惜しいが
極度のフェミニストな彼の言葉は、たまにイラッとする時もあるがとてもこちらをいい気分にさせてくれる。

海の戦うコックさん
彼の料理を食べたら一瞬で胃袋を捕まれてしまう事は間違いないだろう


料理は完璧で、腕もたつ。
あげくにフェミニストで繊細な気配りもできる


こうして仲間となって旅を重ねているとたまに忘れてしまいそうになるが
ほんと、滅多にお目にかかれない超優良物件よね。と今も自分に背を向けながら夕食の準備をしている彼に視線を向ける。

「ねぇ・・・サンジ君」

「はい。何でしょうか!んナミすわぁぁ〜んww」


目にも止まらない速さとはこういう事をいうのだろう

ナミが呼びかけた瞬間
包丁を置き、両手を組んでクネクネしながら傍まで来たサンジ

その行動はほんの一瞬で、何時包丁を置いたのかも見えなかった。


サンジ君らしい、と呆れながら、そんな事はおくびにもださず
笑顔で、私の為に考えて入れてくれた美味しい紅茶のお礼を言う


「いやぁ〜ww僕は感激だなぁ〜〜ナミすわぁんに喜んでいただける事が僕の幸せ!!!」

目をハートにして言い切る彼に、笑いが込み上げてくる。

うん。やっぱりいいわ。

彼のこのリップサービスも鬱陶しい時もあるが
やはり無償で褒められて嫌な気分になる女はいないだろう。




「ねぇサンジ君。お願いがあるんだけど」

「はい!なんなりと!」


クネリ具合をアップさせながら歓喜の声を上げる彼に
ナミはじゃぁ、とニコッと自分の中で最高の笑顔を向ける。


その愛らしい笑みに、一瞬ドキッとしたサンジはその目のハートを益々増やしながらナミの言葉を待った。


「じゃあ・・」

コツン

ナミが言おうとした言葉は、聞こえてきた音に中断を余儀なくされた。

音の方へ振り向けば、其処にはゾロがこちらに入って来た所だった。


「あらゾロ」

「・・・・」

「喉が渇いた。何か飲み物はねぇか?」


あちぃ、と呟きながらコツコツとこちらに歩いてくる彼

しかし、その恰好に少し眉根を寄せたナミが、溜息をつきながら
呆れた顔を隠そうともせずゾロに話しかけた。


「あんたその恰好何とかしなさいよ」

「?何時もしてんじゃねぇか」

今更何言ってんだ、と不思議そうな顔をするゾロに、内心で大きい溜息をつく


実は此処に来る途中でデッキで鍛錬をしているゾロを見かけていたのだ。

だから、冷たい飲み物でも持っていってあげようと思って、
まさに今サンジに声をかけようとしたところだったのだ。


しかし自分がティータイムをしている間に
鍛錬を終わらせてシャワーを浴びたのだろう


湿った髪の先から落ちる雫が、首から下げているタオルに吸収されていく

晒された上半身は、先ほどまでの鍛錬ですこし赤色に染まっている。

蒸気した頬に何処か潤んでいるようにも見える瞳



そりゃあ慣れているといったら慣れているが
昼間っから刺激が強いのではないのか、とチラリと視線を横にいる彼に向ける。


「お。良いもの飲んでんじゃねェか。一口貰うぜ」


いつの間にか私達の傍まで来たゾロが、私の返事を聞く事もせず
徐に私が飲んでいた紅茶に手を伸ばした。


「あ、ちょっ・・・」

「ん、美味かった。サンキュ」


そういって、ニカッと子どもみたいな笑顔を浮かべるゾロに
これだから天然は、とナミは少し赤くなる顔を抑える事も忘れて思った。


「ん?何だよ。お前も欲しかったのか?」


凝視するようにこちらを見ているサンジに気が付いたゾロが
んっ、と今し方自分が飲んだカップをサンジに差し出した。


無邪気にカップを差し出すゾロは、きっと何も考えていないに違いない。

天然はこれだから、と再確認させられたナミはニヤニヤしながら
さぁサンジ君はどうでるかしら、ともっぱら観察することにした。



緩慢な動作で、ゾロとゾロが差し出しているカップを見てぎこちなくそれを受け取るサンジ


きっとその腕が少し震えている事に気が付いているのは、隣にいるナミだけだろう・・・




「・・・・・・・・」


「?いらねぇのか?」


カップを持ったまま固まってしまったサンジを訝しげに見やっているゾロだが、
サンジが今それ所ではない事を気が付いていないのはゾロだけだろう

ナミは笑いだしそうになるのをぐっとこらえ
さぁどうするかしら、とサンジを垣間見た。


少し静かになったラウンジに
ゴクリっと喉の音が聞こえた気がした・・・


じゃ、じゃあ・・・・
 あ〜そういや俺チョッパーに呼ばれてたんだっけ、悪いけどもう行くわ。じゃ」


「んあ?お、おう」

「・・・・・・・・」






視線を彷徨わせながらカップをゾロに渡してまるで逃げるようにして出ていったサンジ


変な奴、と小さく呟きながらゾロは手元にあるカップの残った紅茶を飲み干し
ナミにお礼を言ってラウンジから出ていった。


いや、その紅茶はサンジ君がいれたものなんだけど・・・まぁそんな事はゾロにはどうでもいいことなんだろう

そんなゾロは昼寝でもするのだろう



扉が閉まる音がすると、ナミははぁ〜と溜息をついた。


それにしても・・・

「ったく、ヘタレなんだから・・・・・」



折角の間接キスのチャンスっだったのに・・・・


そのチャンスを自ら振ってしまった彼は
今頃、チョッパーに「どうしたんだサンジ!顔が真っ赤だぞ!?風邪か?医者ー!!」っと言われている事だろう・・・

ナミの予想は、見事に当たっていて、
少ししてラウンジに入って来たウソップが、
「サンジの奴、今度は何なんだ?林檎みたいになってたぜ」
っと呆れながら聞いてくるウソップに事の真相を話すまで、後少し



どんな男にもやっぱり駄目なところはある。
それがまぁ可愛くもあるのだが・・・

あんなにフェミニストな男が本命にはこうも初心だなんて
誰が知っているだろうか・・・



メリー号の変わらないよくある光景に
ナミは呆れと苦笑を混じらせたため息をつきながらつぶやいた


「ほんっと・・・ヘタレなんだから・・・」















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あきゅろす。
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