口実( N→Z )


「ゾロ〜。ちょっと来て〜」


後甲板にて恒例のお昼寝タイムに入ろうとしていたゾロは、
突如として耳に入ってきた声に盛大に眉をひそめた。


ゆらゆらと身体を通り越していくそよ風が気持ちいい、と
身体を襲う心地よい睡魔に身を委ねようとしたらこれだ。


正直、ナミに呼ばれて良い事がない、と今までの経験が警告してくる

顰めっ面になるのも無理ないと思う。


ゾロは聞こえなかった事にして、このまま眠りの世界に入ろうとしたのだが、
まるで計ったように、再び風にのってナミの声が聞こえてきた。


「・・・・ハァ・・・」
本当は、この心地よい風に当たりながら惰眠を貪りたい。

しかし放っておけばきっとナミは自分が来るまで呼び続ける事だろう

ふと前に
同じ様に呼びつけられたのだが、無視を決め込んでいたら
それこそチョッパー当たりなら震え上がる程のいい笑みを浮かべて
俺の耳元で、これでまかと言う程のどでかい声でたたき起こしたのはまだ記憶に新しい。


(俺じゃなくてコックを呼べ、コックを)

ブツブツと心の中で文句を並べ


しょうがねェ、と溜め息をつきながら重たい腰を上げたゾロは
渋々と声がした中央デッキに向かう事にした。






〜 口実 〜










「遅いじゃない」

「・・・・・・」

呼び出しておいてほかに言う事はねェのかよ・・・


そう言いたかったのだが、言っても二倍三倍へと膨れ上がった小言が帰ってくるのは分かっているので、
あえて言葉ではなく、不貞腐れた顔を気持ちを表した。


普通の者なら逃げ出してしまうだろうその凶悪な表情も、
一つ年下のナミには全く効き目がない事をゾロは知っている。

だが、こうでもしなきゃやってられないのである





今ゾロとナミがいるのは、ミカン畑
ナミの手にはハサミと小さい袋が二つ


どうやら、自分にこの木の手入れを手伝えという事なのだろう


だったら、コックに頼めばいいだろう、と思ったが、
如何せん今の時間は確か、コックはオヤツ作りで忙しいという事をゾロは思い出した。

ルフィ辺りに手伝わしても余計疲れるだけだよな、とゾロは溜息をついた。



その溜息を了承ととったナミは、「はい、これ」と笑顔でゾロに一つ袋を渡した。


「今から傷んだ枝を切るから、あんたはそれを拾っていってね。」

「だったら、俺が切るからお前が拾えよ」


脚立が用意されているので、上の方も切るのだろう

流石に危ないと、暗に込めてゾロは言ったのだが、
ナミは、一杯あるから一々指示を出していたら時間がかかる、と言って申し出を断った。


ナミがこのミカン畑をどれだけ大切にしているか自分だって知ってる。
そして嵐の時以外は極力自分の手で世話をし守っている事も

余程の事が起きない限り
水遣りさえも、サンジに任せる事もせずに、自分で全部している事を知っている。


どれ程の愛情を注いでいるのか、自分には計り知れないが
ナミが、この傷んだ枝の処理も自分で行いたいのだ、という事は良く分かった。


其処まで言われれば、これ以上出過ぎた事はいえない、とゾロは無言で袋を受け取った。










「そういえば、あんたって最近サンジ君とどうなの?」

「あ?」

「最近全然喧嘩しないじゃない。まぁ船の被害がなくなるから助かるけど。」

「・・・・」


ゾロは言いたくないとばかりに仏頂面で黙秘した

ナミの言う通り
ここ最近コックとは喧嘩というじゃれ合いもなければ、口で言い合う事もないのだ。



何時からなんて覚えてないし、ゾロには全くの心当たりがなかった。
俺だって、気がついたのは最近で、よくよく考えたらもっと前からコックとは喧嘩をしていなかった。


しかし、確かに喧嘩はないし、話しかけてもつっけんどんな態度は変わらないが、
無視される事もないし、別に険悪な雰囲気って訳でもないのだ。

本当に良く分からない

こうなっている理由に特に思い当たる節がないのだ・・・



だからゾロは、
単なるサンジの気まぐれだと思うことにして、しばらく放っておく事にした。


だが、サンジの態度は相変わらずで、むしろ日に日に酷くなっていった。

俺が水を貰いにいけば、慌てふためき、運が悪かったら包丁で指を怪我する事もあった。
食事の時に寝過ごさずに時間通りにいけば、
ぽかんと口を開けて、何故か誰の目から見ても分かるほど残念な顔をする事もあったな。

しまいには、俺が鍛錬している時、
少し離れた所で何か用事があるわけでもないのに、じっとこっちを見てくるのだ。



サンジの様子が、普段とは違い可笑しいという事は
誰の目から見ても明らかだろう・・・


そろそろナミかウソップには聞かれるだろうと思っていたが、今聞くのかよ・・・・

いや、むしろ
手伝いは只の口実で、本当はこれを聞くのが目的だったのかも知れない








返事を返さないゾロだが、
そう簡単には口を割らないだろう事は分かっていたので、ナミは別段気にした様子もなく手を休める事なく作業を続けていく。



バチンバチンと、大きい音だけが響く中、ゾロも静かに落ちた枝を拾っていく


ナミはもう何も聞く気はないのか、
それとも単にオヤツ時が近いから速く終わらそうとしているのかは分からないが、
口を開く事はなく静かに作業を行っている。


そんなナミにゾロはふと、
いつもこれ位静かだったら、もっと可愛いのに、と思った。



「ねぇゾロ」

「んだよ」



今先程心の中で褒めたばかりだというのに、また口を開いたナミに心の中で苦笑いを浮かべる。


「あんたってサンジ君の事どう思ってるの?」

「はぁ?何だよいきなり」



ナミが唐突なのは今に始まった事ではないのだが
それでも突拍子のないそのセリフにゾロは一瞬呆けてしまった。




(一体何企んでるんだ?こいつ・・・・)


どうせ碌な事じゃない

ゾロは内心怪しみながらも、正直に自分の気持ちを返す事にした。



「別に。」

「それだけじゃ分からないでしょ。好き?嫌い?」


好きか嫌いかだぁ?

本当に、ナミは一体自分に何が聞きたいんだ?










「・・・。まぁ、嫌いじゃねェよ。ウマは合わねェけどな」










そう言って自然に笑みを浮かべているゾロの表情は
きっと本人は気が付いていないだろうが、とても穏やかなものだった

いつもの仏頂面からは考えられないその笑みに、
ナミは思わずドキッっとときめいてしまった。




「ふ〜ん・・・・」


ドキドキしているのがばれないように、ナミはあえて素っ気ない言葉を返す。



「んだよ。自分から聞いといて・・・・」


私が・・・
あんたの行動の一つ一つで、こんなにも心乱している事を知らないから・・・そんな表情が出来るのよ・・・

今のゾロの顔には、先程の穏やかさなんて欠片もなくて
でも唇を尖らせて不貞腐れているその顔もまた可愛くて、一瞬悶えそうになったのをナミは間一髪踏みとどめた。









きっとゾロは気が付いてない・・・・・





サンジ君があんなにギクシャクした態度を取っているのも

喧嘩を吹っかけないのも

毎回食事に、ゾロの好物を一品多めに作っているのも





全部、ゾロが好きだから・・・






肝心のゾロは、
変な奴とでしか思っていないみたいで全然気が付いてないみたい


でも、それでいいのよ・・・・・




「ホント、あんたって自分の事に関しては鈍いわよね」

「はぁ?何言ってんだ。変な事ばっかり聞いてないで・・・ッ!」
「だって、ホントの・・キャッ!」








ガチャーン!










「・・・・・大丈夫か?」

「あ、ありがとう」

「ほら言わんこっちゃねェ。こっちばっかり向いてねェでしっかり前向いてろ。危ねェだろうが」



話しの途中から作業の手を止めて上半身を後ろにいるゾロに向けて話ていたナミ

幾ら風がないとはいえ此処は海を走る船の上で、しかも普通の海ではないグランドライン

何時何が起こるか分からない。しかもナミは今脚立に上がっている、謂わば不安定な体勢を取っているのである。


危ない、とゾロが注意しようとした時に、案の定バランスを崩してしまったナミの身体を
間一髪ゾロが受け止めたのだ。










勿論









横抱き



俗にいうお姫様ダッコで











ゾロが、文句を言いながらも優しい目で自分を見下ろしている

ナミは、
さっきのドキドキなんて非じゃない位心臓がバクバクしているのを嫌でも自覚せざるおえなかった。

このドキドキが、間違っても脚立から落ちてしまったからじゃないという事も・・・・・・





真っ赤になる頬を抑えられない
でも見られるのが恥ずかしくて、つい俯いてしまうナミ。



「おい。大丈夫か?どっか怪我したのか」


全然違う方向に勘違いしているゾロだが、正直今顔を上げたくない。


それに、もう少しこの暖かい腕を感じたい、と強く思った・・・・










いいのよゾロ。鈍いままで



サンジ君の気持ちにだって気が付かなくていいわ









出会ってからずっと
気が付いたらあんたを好きになった私の気持ちにも気が付かないあんたが、

最近になって漸く自覚したばかりのサンジ君の気持ちに気がつく訳ないもんね








それでいいの








そんな鈍いあんたも好きだから









でも、少しは私の気持ちに気が付いて欲しい・・・・







この距離を壊したくない


私を見て欲しい




どっちも本当で、正直な本音






















END.



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「好き、だからいえない」の少し前の話です(^ ^)



ゾロは、ナミが自分を呼んだのも単に最近変なサンジの事を聞く為に呼んだと思っていますが


違います!



ナミは少しでもゾロと一緒にいたかったから、サンジ君ではなくゾロに頼んだのです。


勿論サンジがおやつ作りに忙しい時間帯を狙ったのは態と(^^)


ゾロがサンジに手伝ってもらえと言って断っても、それを理由にできるから、と踏んだのです。









因みにこの話のゾロは、ナミが思っている程、鈍くありません


勿論サンジの気持ちには気づいてはいませんが、
ナミの気持ちには何となく感づいています。けど、確信はもてない、っていう感じです



どうしようかと、珍しく悩みますが、
今回の事でゾロはナミの気持ちに確信を持ちます


勿論ナミが赤面していたのにも気が付いていました。
(最初は心配してたけどね。笑″)



そして、好機が巡り、ゾロは見事ナミをゲットしました(★^-^)bグット




ナミゾロでゾロ←サンジ

この構図は大好物なんです!!








[2013/6/8]

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あきゅろす。
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