ゾロside




( お。酒場があるじゃねぇか )



お酒を飲む為に探し回って二時間

漸く辿り着いた酒場は、外からの雰囲気からでも知れる程、
決していい雰囲気とはいえない、ゴロツキ共のたまり場的酒場だという事は人目で分かった。

まぁ自分が探していたのは、堅苦しいバー等ではなかったので、丁度良かった。



ゾロは漸く酒が飲める事が嬉しくて、気分が向上したまま戸を潜った。


しかし、その瞬間折角のいい気分は、
入った瞬間目に飛び込んできた見慣れた後姿と、
この場にそぐわないキラキラしている金色の髪を認識した瞬間にすっかり降下してしまった。



何で此処にいるのかは、別に聞きたくもないし、聞くつもりもない。
そりゃ、幾ら女好きなあいつでも、無性に飲みたくなるって気分もある・・・・か?

嫌、微妙だな・・・何たってこいつの女好きは病気だから
どちらかというと、酒よりも女に走りそうだ・・・・


だが現実は、普段のあいつからは想像出来ない場末の酒屋にいる。
どうやら相当酔っているのだろう・・・頭とカウンターが友達になっているじゃねぇか。




「いらっしゃい」


思いもしなかっただけに、ついあいつの後ろ姿をジッと見入っていると
カウンター奥でガラスを拭いているマスターから声がかかった。


このまま立っている訳にもいかない。
何せ、人の事はいえないが、周りにいるお世辞にも人相も目つきも良いとはいえない奴等が
今にも襲ってきそうな位鋭い視線をこちらに向けているのだ。

まぁ殺気はないから、多分様子を見ているだけなのだろうし、
別に襲ってきたとしても何て事はないのだが、今日は静かに飲みたいのだ・・・・・


だが、まるで嘗め回しているような、ねっとりとした視線に
つい顔を顰めてしまうのはしょうがないといえるだろう・・・・


自分の人相も人の事はいえねェが、
それにしても何処に行っても同じ視線を浴びるのは、流石に気が滅入る時がある。

しかも、良い顔をしてない連中に限って、何故かいつも話かけてくるのだ。
でも別に喧嘩したい訳でもないらしく、良く酒を奢ってくれるのだ。

まぁどいつもこいつも、馴れ馴れしいのは変わりないがな・・・・・










しかし、だ・・・・



困った事に今この店はほぼ満席に近い

開いてる席があるにはあるが
面倒な事に今机に突っ伏してる―――サンジの横しか開いてなかった。



違う店に行く事も考えたが、面倒だし、今すぐ酒が飲みたかったから
直ぐにその考えを却下して、サンジの横に座ることにした。




「・・・・・・」



俺が座っても、サンジはピクリとも動こうとしない。


この店には、こういった店には珍しく若い女の従業員がいる。
それなのにサンジがこんな醜態をさらしているのは非常に珍しい事だと、ゾロは思った。



( もしかして、クソコックじゃねぇのか?)


一瞬そんな考えが過ったが、
酔いつぶれても変わりゃしない、普段からどうも感に触るこの気配は、確かにサンジのものだ。



そんな事を思っていると、俺の視線に気がついたマスターが、
酒を出しながら、呆れているといった感じで苦笑しながら教えてくれた。



「そのお客さん。この島の名物酒を二口位飲んだら、もうこれだよ。」

この酒は確かに強いけど、此処まで下戸なのは初めてみるよ ――――


苦笑するしかないって顔をしているマスターのセリフに、俺は大いに呆れると同時に納得した。




( なる程な。だからこいつ、ナミやロビンが誘っても、何だかんだ言って絶対飲もうとしなかったんだな )


にしても、
一杯も飲みきる事が出来ないのだったら、こんな所に飲みに来るな、と言ってやりたい

まぁ言いたい相手がこれだから仕様がないが・・・



( もし俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?こいつは・・・)


マスターは苦笑しているが、今の所別に困ってる様子ではないので、
こいつの事は放っておく事にして、俺は此処で一番強い酒を頼んだ。










「・・・フゥ」


流石、一番というだけあって、
中々の度数と俺好みの味に満足しながら、酒を楽しむ。


何たって、今日は珍しく、
ナミから大目にお金を貰う事が出来たので、心済むまで酒を飲める







最初は少し隣を気にしながら飲んでいたのだが、一向に起きる気配を見せない。


( 死んでんじゃねェのか?)


なんて、物騒な事を思いながら、
マスターの好意で貰ったツマミを食べながら、久しぶりの酒を味わっていた。



今飲んでいる酒は、この島の地酒らしく
一度飲んだら癖になる味で、さっきからこればっかり飲んでいた。




軽く10杯は過ぎた頃、
俺はこの島の住人に聞こうと思っていた事を思い出した。


「そういや・・・マスター。此処には鍛冶屋はあるのか?」

「あるよ。腕が確かだけど、偏屈で有名なじぃさんがしてるよ。
 でもあのじぃさんは、結構選り好みするからね。してもらえるとは限らないよ」


そう言いながらも、マスターは丁寧に場所まで教えてくれた。




( 鍛冶屋があるのなら、ここらでもう酒はやめねぇといけねェな )



思わぬ朗報に喜ぶが、酒が飲めなくなるのは正直残念だ。

しかし以前立ち寄った島には鍛冶屋がなかった。
だから、此処でこいつらを磨いてあげなければ、機嫌を損ねてしまう。


酒はまたメリーに帰ってからでも飲める
そう思い金を払おうとした時、大柄の男がドンッと酒ビンを机に叩きつけてきた。




「よぉ。あんたここいらじゃ見ねぇ顔だな」
「・・・・」


馴れ馴れしく話しかけてくる男は、ニヤニヤと笑顔を浮かべている。
一見爽やかにも見えるが、正直怪しさは全く抑えられてない



こんな奴はほっとくに限る―――


俺は無視したのだが、男は堪えた様子もなくどんどん話かけてきた。



「どうだい?此処で会ったのも何かの縁だ。
 まだ時間があるのなら、一緒に飲もうぜ。あんたみたいな別嬪さんなら、いくらだって奢るぜ」


別嬪という言葉に眉間の皺がグッとよるのが自分でも分かった。



実をいうと、俺はこういった場所で飲んでいると
いつも決まって、こんな男たちが寄ってくる。


最初は一体何なんだってんだ!っと怒りもしたが、
言った通り向こうが酔いつぶれるまで酒を奢ってくれる事が多いので、今では怒る気もない。


だから、自分が注意を払って気をつけておけば、
思いもしない情報を得る時もあるし、何より自分が満足するまで酒が飲める。


その変わり、隣で話しかけてくる男は
決まって「今夜どうだ?」だの「あんた本当に美人だな」等と意味分からんし非常に鬱陶しいのだが

適当に相槌を打っておけば相手は勝手に酔いつぶれるから何の問題もないし、
ウザくなったら、無視して店を出ればいいだけの話だ。



それに、
明日鍛冶屋に行く金を残しておかなければいかないので、全然飲み足りてないのも事実。
隣には日ごろから何かと煩いコックがいるが、今は酔いつぶれて起きる気配もない。




俺は一瞬どうするか迷ったが、結局酒の誘惑に負けた。









・・・・の、だが・・・









ドガァアァアア!!!!









何かが俺の横を通り過ぎたと思ったら
大きな破壊音と共に、先程まで俺の横に立っていた男が床に沈んでいた。





そして、音も立てず優雅に降り立った黒いスーツの男






待て、
お前はさっきまで、俺の隣で机と友達になってた筈じゃなかったのか?


お前、本当は起きてたのか?酔ってないじゃねぇか、とか




言いたいことはあったが、あまりのサンジの速すぎる身の動き
そして、サンジから発せられる、海の底にでもいるような冷たく氷に閉ざされた殺気に



俺は言い出すタイミングを失ってしまった・・・・・・
















今床に沈み込んでいる男から、酒を奢ると言われ・・・

俺が無言の了承を示そうとした・・・・




此処までは分かる。




そして男がこちらに少し身体を寄せてきた。
こういった場所にくる奴は、馴れ馴れしい奴が多い。

それはどの国でも変わんねェんだなっと思った瞬間には、これだ・・・



男が床に沈められていたのだ・・・・・・・・



しかも沈めたのは先程まで、確かに酔いつぶれていた筈の男・・・・・













サンジの豹変ぶりにゾロは唖然としていた。



珍しく目をパチクリさせて、驚きを露わにしている。




サンジは、自分が床に沈めた男を海の底深い冷たく暗い視線で見下ろしていたが
その視線を急に俺の方へ向けた。



普段は表情をコロコロ変える奴だから、
今無表情になっているのが、少し恐ろしくもある。




「てめェ・・・・・」




ゴゴゴゴゴォ




まるで、嵐が来る前の静かな口調で俺に詰め寄るサンジ




これは、本当に怒ってるな、と、頭の片隅で思いながら
「起きてたのか?」と、何だか場違いな事を聞いてしまった。







「何、あんな奴に触らせてんだよ!!」

「は?」


俺を据わった目で睨みつけてくるサンジ

意味不明な言葉はさておき、
何で今日のコックはこんなに支離滅裂なんだ、っとゾロは思った。


サンジのこの喧嘩腰の態度―――といってもそれはゾロだけが思っているだけで、
もしこの場にナミ達がいたら、単なる嫉妬が生み出した可愛い(?)戯れだというだろう。





普段なら、ゾロも直ぐに言い返して、喧嘩になるのだが、
酔っ払いと喧嘩するなんて事ゾロはする気もないし、何しろ今日は静かに飲みたいのだ。


まぁ・・・それももう難しいのだが・・・




「はぁ・・・お前、いい加減に・・「「おい!兄ちゃん!よくも俺たちのお頭をッ!!」」・・・ハァァ・・・」



非常に面倒な事に、
今度は床と友達になっている奴の、子分らしき奴らがいちゃもん付けてきた。



ゾロは、もう今日は静かに酒を飲む事は諦め、考えた。


勿論この場を
乱闘してすり抜けるか、無視するかだ。


まぁ後者は無理そうだとゾロは思うが、
此処で騒ぎを起こせば、ナミから雷が落ちるのは明白だろう・・・・・



さて、どうするかと思った瞬間、
今まで俺を睨みつけていた男が動いた。







ドガッ



バキッッ!!







お前は本当に酔っ払いか!と疑ってしまう、サンジの俊敏な動きに
ゾロは一瞬呆けてしまった。



( 明日ナミになんて言われるか・・・・)


無論自分は無関係だと言いたいが、
そんな事ナミは聞いてはくれないだろう・・・・


やはり別の店にしたら良かった、と思うがそれももう後の祭りだ。









最後の子分を仕留めた所で、
サンジはプツンと、まるで糸が切れた人形の様に床に座り込んでしまった。









[2013/4/15]


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