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すっかり薄暗くなってしまった景色をバックに
サンジは当てもなく、ブラブラと街中を歩き回っていた。
いつもの自信に満ちた表情はなく
街の背景と共に暗く、自慢の金髪も何処かくすんでいるように見える。
「はぁ〜〜」
重ぐるしい溜息
既に両手では数えきれない程の溜息をついている事に本人は気が付いているのだろうか・・・・・・
明らかに沈んでいるのは分かるが、
街人は特に気にした様子もなく、誰もが通り過ぎていく。
「ビックリしたんだぜ?ナミ達と別れた後、俺達は一度宿に行く事にして歩いてて、
通りかかった店の中が騒がしいと思って覗いたら・・・お前とゾロがいたんだ。」
「うん。それに中も騒がしかったし、何かあったのかと思ったら、サンジはもう酔っぱらってたし・・・」
ウソップの言葉に頷きながら、チョッパーは思い出したように
歩けなくなる程飲んじゃだめだぞ!っと可愛い目と蹄のついた手でビシッと注意してきた。
だが、俺はそんな事よりも
全く記憶にない出来事の方が気がかりでならなかった。
まず俺の記憶はマスターと話ながら地酒を飲んでいた所で終わってる。
其処から先を何度思い出そうとしても、全然思い出せない
そんな俺の記憶では
あの酒場の中にはゾロはいなかった筈だ。
グルグルと焦った顔が今度は困惑気味に変わっていくサンジ
ウソップとチョッパーは互いの顔を見合わせて、
こりゃダメだと言わんばかりに肩をすくめた後、首を横にふって溜息をついた。
「お前ゾロに感謝しとけよ。俺達は見てねぇが、ゾロの話だと、
酔っぱらったお前が、話しかけてきた奴にいきなり喧嘩を吹っ掛けたそうじゃねぇか。」
「中にいたゾロが、溜息つきながら教えてくれたんだ」
サンジが座り込んでるのを見て、最初別人かと思ったぞ、俺
「んで、どうするんだって話してたら、お前が行き成りゾロの足に抱き着いて、
全然離れようとしない所か、無理矢理剥そうとすると意味不明な事言いながら泣き出すし・・・
揚句に抱き着いたまま寝だすんだぜ;;」
その時の事を思い出しているのか、苦い表情で淡々と話す
ウソップが呆れた溜息をついた後、続けるようにしてチョッパーが話を紡ぐ
「見兼ねたゾロがマスターに礼を言って、近くの宿に運ぶってんで、俺達も手伝ったんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
ダラダラと冷や汗が止まらない。
俺は何て恥ずかしい事をしてたんだ。
嫌、恥ずかしいっていうレベルじゃねぇだろ・・・これは・・・
美女でも可愛いとも、ましてや女ですらないゾロに抱き着いて泣き出し・・・あまつさえ眠るだと!?
死んでしまいたい・・・・
ナミさんとロビンちゃんがいなくて本当に良かった・・・・
二つの相反する思いが入り混じって、どんどん悲しくなってきた。
泣き出しそうな俺に止めを刺すつもりなのか、ウソップとチョッパーは話を続ける。
「部屋まで連れてったら行き成りお前が起きだして、俺とチョッパーを追いだしたんだぜ;;
まぁ後はゾロに任す事にして、俺達はもう遅くなったから自分たちの宿に戻る事にしたんだ」
・・・つまり面倒事を押し付けたって訳ね・・・
そうだろうよ・・・
俺だって、大の男、しかも手におえない酔っ払いとは関わり合いにもなりたくないさ・・・・・
「はぁ〜〜〜〜」
ウソップとチョッパーから語られた真相は
あの朝の悪夢がなかったら、とうてい信じる事すら出来ないであろうものだった。
あの二人、特にチョッパーに至っては、嘘をついても直ぐに分かる。
だからこそ、あの話は本当なのだろうと、思うのだが、
それとは裏腹にその真相を信じたくない自分がいる・・・
まだ美女二人にそれを見られなかったのは、幸いだったが、
いかせんあの二人の事だ・・・
ちょっとした騒ぎになったのなら、きっともう知ってるに違いない・・・・
俺は自分で自分が分からなくなった。
酒を飲んでいたとはいえ、美女と男を間違える訳がない。
あの場には可愛いウエイトレスの御嬢さんもいた筈だ。
それなのにゾロに抱き着くなんて・・・・
折角なら、その時のゾロの顔を拝みたかった。
きっと、今までにない位可愛い・・・・って!!
だから違うだろ、俺ッ!!
しまいには、脳裏に何度もゾロに抱き着く自分の後ろ姿が浮かび
俺は泣きそうになった・・・・・
久しぶりの上陸だというのに・・・・
何故大切な陸での時間の殆どを、あいつの事に使わなけりゃいけねぇんだ・・・・
忘れてしまえ、と何度も自分に言い聞かせるのに、
その都度脳裏に、色々なゾロの顔が浮かんでしまう
そんな自分の心情が、何だか分かりそうで、分かりたくなくて・・・・・
俺は、どんどん嫌気がさしていく・・・・・
( もう終わりだ・・・・・)
「おいクソコック!」
( とうとう今絶対聞きたくない幻聴まで聞こえてきた )
「おい!」
「いっ・・何しやが・・・・ゾロ・・・」
「たっく。何ボケッとしてやがるんだ。」
今一番会いたくなかった人物が目の前に・・・・・
サンジは頭を叩かれた事に対して怒る事も忘れ
思わぬ再開に、どんな顔をすればいいのか分からないままフリーズしてしまった。
正直・・・
気まずくて仕様がない・・・・・
( 何でてめぇはそんなに平然としてんだ!)
ゾロは普段通りなのが、また一段と腹がたつ
それでなくても、こっちは朝からこいつの事ばかり考えて、
ナンパも出来ず鬱々とした散々な一日だったというのに。
( なのにこいつは・・!)
いつもと変わらねぇ、すました顔しやがって!!
あまりに変わらない態度
此処まで来ると、
何だか自分ばかり意識しているのがアホらしくなってきた・・・・・・・
「変な奴だなお前。熱でもあるんじゃねぇか?」
「っ!?////////」
急にゾロが俺のおでこに手を当ててきた
思いもよらない行動に
サンジの顔は真っ赤になってしまった。
気色悪い事するんじゃねぇ、だとか
変な奴はてめぇの方だ、とか
言いたい事が次々浮かんでは消えていく。
フッと見かけによらず、優しい手つきで俺に触れたゾロ
いつもより倍増している眉間の皺に、本気で俺の心配をしてくれてるのが分かる。
( 柄にもない事しやがって・・・・)
今も俺がその気になれば、その身体を引き寄せて抱きしめ、
あわよくばキスが出来そうな程近くまで顔を寄せてじっとこちらを見ているゾロ。
( そうだ。こいつは見かけによらず、弱ってる奴には優しいんだ )
何だか、あんなにウジウジ考えていた俺が馬鹿みたいだ・・・・・
少し薄暗くてもはっきり分かる、綺麗で端正な顔
それが目の前にあるだけで、こんなにもドキドキしてるのだ。
もうウジウジと言い訳するのは止めだ。
これ以上遠回りして、自分の本当の気持ちを見ない振りをするのはおしまいにしよう。
( 認めてやるよ・・・・・)
ホント・・・・
酔うと本心が出るってのは嘘じゃなかったんだな
俺は――――
ゾロが―――――――
「――――だ」
「あ?何か言ったか?」
先程までの心配そうな顔から、
不思議そうな顔に変わったゾロを、素直に可愛いと思った。
重症だな、こりゃ
「別に。何も言ってねぇよ。
それよりほら、この気色悪い手をさっさと離しやがれってんだ」
「お〜お〜。いつものムカツク面に戻りやがって・・・」
「んだと?それよりもお前何処に行くつもりだったんだよ」
「あ?お前を探してたに決まってんだろ」
「へ?」
「お前ホテルにこれ忘れてたぜ」
そう言ってゾロが腹巻きの中から出したのは、俺がいつも愛用しているライターとタバコだった。
態々、これだけの為に俺を探してたってのか?このマリモちゃんは
( おいおい・・・何だか、可愛いじゃねぇか・・・・・)
ほらよ。と差し出された手の中にある俺の愛用品
確かにこれは必要だが、
どうせならこの差し出された手の方を受け取って、自分の胸の中に抱き寄せたい気持ちが湧き出てきた。
だがこいつには、長期戦で挑むつもりなのだ。だから、今は止めておこう。
いずれ・・・・
こいつの方から飛び込みたくなる程、俺なしじゃいられない身体にしてからだ・・・・・
そんな邪な事を思いながら、表面ではにっこりお礼を言って愛用品を受け取る。
珍しい俺からのお礼の言葉に、ゾロは目をパチクリさせている。
いいぜ。これからもっと味あわせてやる。
このラブコックの凄さをな
そして、惚れるがいいさ
俺の魅力にな
End.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて、サンジ編は終了です。
ゾロサイドの話も作っている最中です。
何だか最後のサンジは結構強気になってますね。
本当はもっとへタレで行くつもりだったのですが・・・・
あれ?いつから変わっちまったのやら・・・
結局サンジとゾロのあの夜に、何があったのか
それはゾロサイドを見れば分かりますです。
それでは(^^)
[2013/3/7]
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