スタート地点 ( S+Z )


「はっ?今何て言った、クソジジィ」

「ハァ・・・何度も言わせるんじゃねぇ、チビナス。早く準備しろ」


そう言って手渡されたのは、海外でも有名な某推理アニメ


゛身体は子ども、頭脳は大人゛

その名は名探偵・・・


――というキャッチフレーズが嫌でも頭によぎるブレザー服だった。

しかもご丁寧に真っ赤な蝶ネクタイ付きだ・・・



一体ジジィはどんなセンスをしてやがるんだ、と内心思いながらも
これ以上時間をかけるとそれこそ子どもだろうが容赦なしの足蹴りが飛んでくるのは、身を持って体験済みなので

不満気な顔をしつつもサンジは祖父から渡された服装にそそくさと着替え始めた。



そんなサンジを穏やかな眼差しで見ながら(顔は厳ついが)、
祖父はこれから初まる新たなる出会いとスタートがこいつにとっていい方向になる事を心から願った。













〜 スタート地点 〜













「ここ・・・なのか?」



サンジ目の前に聳え立つのは最近オープンしたばかりの施設だった。

5階建てで、階事に有名な老舗店が隙間なく立ち並ぶこの施設は都内でも五本指に入るほどの広さと大きさを放っていた。


そんな中で一番の最も人気を放っているのが、最上階にある一つのカフェだった。






あらゆるメディアから取り上げられ、オープンして二ヶ月もしない間に、他国でも知られる程の人気になった其処は、
まだ幼稚園に通っている幼いサンジでも当たり前のように知っている場所であった。




そんなこの施設は実は屋上が存在しない。
だから最上階が屋上のようなものだった。
その為か、下のフロアに比べると面積は大幅に狭くなっている。

結果最上階でオープン出来るのはせいぜい二店位なものなのだが、此処にはこの人気カフェしかない。




そんな人気のカフェ店は老若男女問わず人気ぶりであった。

ゆったりとした空間で、ほかのテーブルともいい具合に間を開けている。
そんなカフェには外に通じるテラスがあり、そこでは五階から見える外の広大な景色が存分に楽しめる。
寒い日等はあまり行く人はいないが、春等気温が一定の温かさになってくると
テラスを開け放し、其処から流れる込んでくる自然の風を、中の席でも堪能しながら憩いのひと時を楽しめる。

中もインテリア風の造りで、男でも気軽に来る事が出来る。


だが、このどれらもこのカフェの人気のほんの一部に過ぎない。





この店が有名老舗店を抜いて人気となった理由

それは、ひとえに一つ一つの料理の完成度の高さと、店員の待遇の良さがものをいっていた。


そしてその店員達がそろいもそろって、器量良しが多いのだった。

まぁ中にはそうでもいないものもいるが・・













「お待ちしておりました」

「あいつはもう休憩時間か?」

「はい。外のテラスでお待ちになってるはずです。」

「分かった。」


呆然としているサンジをそのままに祖父はテラスに向かって足を運んでいた。

テラスを開けた途端に頬に感じたそよ風にハッと我に返ったサンジが慌てて追いかけた。






普通なら今の時間はあまり人がいない筈なのに、外のテラスは席が殆ど埋まっていた。
チラッと見た感じだったが、中もカウンター以外は座る席がなかったように見えた。

祖父について歩く中、この店は本当に人気なのだとサンジは思った。
そう思ったのはそれだけでなく
風に乗って香ってくる食欲をそそる良い匂いは、例えお腹が満たされていても注文してしまうだろう魅力があった。


だが、そこでサンジはあれっと思った。


(この匂いは・・・)


家でも香った事がある・・


「ジジィ!ここってまさか・・・」

「お・・いたぞ。あそこだ。」

「ぉ、おいジジィ」


湧いた疑問を口に出す前に祖父は何か見つけたのか、嬉しそうな声をあげて、歩く速度を速めた。
サンジも置いていかれないように慌てて歩く速度を速めるも、子どものサンジが大人の足幅に叶う筈がなく、
小走りになる事を余儀なくされた。




少し息が切れながらついた場所は、きっとこのテラスでも一番の人気だと思える場所だった。

景色が良く見えるだけでなく、傍に立つ優雅に伸びている一本の木の下につけられている洒落たテーブル
サンジの身長からは見えないがその上には木漏れ日がさしている事は簡単に想像でき、
この季節にはもってこいない場所になる事は安易に分かった。



それを裏付けるかのように、其処にはもう先客が座っていた。

そして自分の息が整う間もなく、自分の前にいるジジィが急に待たせたな、なんて笑いながら、その先客に声をかけたのだ。



先客はいや俺も今来たばかりだ、と言って木漏れ日に照らされた顔をこちらに向けた。










「こいつが、言っていた?」

「そうだ。まだ五歳でな・・・口ばっかりが先にたつようになっちまった。まぁ男所帯だから仕方ねぇかもしれねぇがな」

「はは。」

「おい自己紹介しろ。」

「・・・・・」

「おい?」


祖父がどうしたと聞いているような気がするが、正直俺は今それ所じゃなかった。




テラスに座っていた客はどうやらジジィと知り合いのようだ。
木々の間から漏れる太陽の光で相手の顔が見えなかったが、声と服からして俺の嫌いな男である事は間違いない。

俺は男は嫌いだ、でも女性は好きだ。大好きだ。


でもこの声は嫌いじゃない。


そう思いながら、息を整えていると
客がこちらに振り向いた。

そのおかげえで、光がそれて、はっきりと顔が見えた。






(ッ〜〜〜〜〜///////)




相手の顔を見た瞬間、俺は一瞬息をするのも忘れてしまった。



そいつは今まで見たこともない位、綺麗な顔をしていた。

整った顔つきで鋭い目つき、そして綺麗な金色の瞳に俺が写っている。

そいつの周りだけキラキラ輝いているって思った。





そいつがあんまり綺麗で見惚れていると、反応のない俺を見てそいつは不思議そうに首をかしげた。


「・・ぁ・・・サンジ・・・です・・・・」

「サンジか。俺はゾロだ」

慌てて自己紹介をすると、綺麗な笑顔で名前を教えてくれた。




(よし!名前ゲット!!)

内心ガッツポーズをしていると、座るように言ってくれた。



丁度後二つ椅子が残っていたので、俺はゾロの横に座りたかったのだが、ジジィに先を越されてしまった。
チクショウ・・・


そして何かジジィとゾロは何か話しているのだが
どうやら店の事についてらしいけど、俺には良く分からなかった。

でも、さっき俺が思った通り
やっぱりジジィがこの店をしている事は分かった。



途中でしかめっ面になったジジィが呆れたようにため息をついた後、
店の方から情けない声が聞こえてきた。

間もなく、客中の視線を浴びながらやってきた
コックの格好をした奴と一緒に、ジジィは店内に入って行ってしまった。



一体何なのか少しは気になったのだが、それよりもゾロの顔を見ていたくてあんまり気にしていなかったら
ジジィが席を外して行ってしまったので、俺は内心慌てた。


ゾロと話たいけど、一体何から話せばいいんだ!と慌てていると、ゾロの方から話しかけてきてくれた。





「此処にきた事について、何かゼフから聞いてるか?」

聞いている訳がない。
朝ごはんを食べて、さぁテレビを見ようと思っていたら、ジジィにこの服を渡されたのだから・・・


首を横に振ると、ゾロは小さくやっぱりな、と言って
何か考え込んでしまった。




顎に手を当てて、眉をひそめているゾロの顔は、やっぱり綺麗で
他にもどんな表情をするのだろうって思った。

他の顔も見逃さないようにとジーっと見ていると、
こっちに向いて何だって聞いてきた。



(やばい。見すぎた・・・)

まさかの事に思わず声が上ずってしまった。
ばれないように見なければと、床や景色を見る振りをしてゾロを見るようにした。




そうして見て思ったこと


ゾロは一体いくつだろうか

彼氏はいるのかな

何処に住んでるのかな


等と言った、本当にお前は五歳児かと言われるようなことだった。



見れば見るほど綺麗だという言葉が出て来る。
この世が生んだ女神ともいえる、女性でもないのに、だ。


あれほど見ておいて結局はそれか、と突っ込みたくなるような事を考えていると、またゾロが話しかけてきた。




「お前、いくつだ?」

今度のゾロの問いに俺はムッとした。
俺は゛お前"じゃない!きちんと゛サンジ"っていう名前があるんだ。

だからきちんと名前で呼べ!

その気持ちを込めてゾロにもう一度自分の名前を言った。
するとゾロは本当に悪かったというように謝ってくれた。


子どもだからと、適当にあしらいもせず、対等に接してくれるゾロに益々好感がもてた。


赤くなった顔を見られたくなくて、横を向いて、熱が収まるのを待った。


そしてこの際、思った事を聞いてみようと決めた。

まずは歳だ!
でも相手に聞く前にまずは自分から言うのがシンシってもんだ!!



ゾロの綺麗な顔を見ると、中々上手く言葉に出来ないから、
自分の手を開いてゾロに見せた。

するとゾロは、最初首をかしげていたが、直ぐに分かってくれたようだ。

流石ゾロだ。
イシソツウはばっちりだな!!


等と勝手に喜んでいるとゾロも歳を教えてくれた。
しかも此処で働いている事まで教えてくれた。



だが、次の瞬間




俺はゾロの言葉に凍りついた





「料理は作れねぇから、主にホール担当なんだがな」

「・・・」

「だが、暫く此処を休む事にしたんだ。」




(ッ!!!!!)

折角ゾロと会えたのに!

何でなんだ?会えなくなっちまうじゃねぇか!!


これから毎日此処に通おうと決めたのに、何でなんだよ!!


「や、休むって、なんで!」

大きい声を出している事にも気づかず、サンジはゾロに詰め寄った。



すると何でもないとでもいうように教えてくれた。


「ある家の養子になる事にしたんだ。だからしばらくゴタゴタするからな。」






ヨウシ・・・?





確か以前テレビで聞いた事がある・・・


確か・・・


「ヨウシって他の家の子どもになる事か?」

「あぁ。まぁ子どもって歳でもないがな」

そう言って苦笑した。




やっぱりそうだ。





ゾロは他の家の子になるんだ・・・







(何でだよ・・・・)






胸が苦しい・・・








他の家の子に、なんて・・・・!





だったら俺の家に来りゃいいじゃねぇか!!


そう言いたいのに、感情が高まったせいか、
目が熱く、視界がどんどん歪んできた。



顔を見られたくなくて、俯いたのだが、胸の痛みが消えない。

寧ろ強くなっていく。


ヤバイと思った時、ジジィの声がした。



(何だよジジィ・・)




行き場のない感情を祖父にぶつける訳にもいかないと思っている辺り、サンジは他の子よりも大人びているが、
やっぱり子どもで・・・


好きなものが自分の物にならない悔しさをどうする事もできなくて、心の中でだけ悪態をついていたが



そんな祖父が発した言葉に頭が一瞬真っ白になった。








「おいチビナス。明日からゾロも家族の一員だ。」








(家族・・・?)








「・・・え・・?」






今ジジィは何て言った?







(家族・・・・)




家族って事はつまり・・・




これからも、一緒って事なのか・・・・?






少しづつ頭が働き出していると、ゾロが俺の名前を呼んだ。




「ゼフの言った通り、今日から正式にやっかいになる。」


よろしくな、と今日見た中で一番綺麗な笑顔を浮かべながら、右手を出してきた。





(ゾロが・・・俺の家族・・・)



って事は・・・ずっと一緒って事だよな!!



(ずっと一緒・・・)





まだ今日会ったばっかりなのに、全然嫌じゃない。


むしろ大歓迎だ!!!!







俺は嬉しさでパンクしそうな中、急いで自分の右手を綺麗にして、ゾロの手をギュッと力一杯握った。




そして気を抜くと緩んでしまいそうな顔を心一杯の笑顔にかえてゾロに向けた。








「よろしくな!ゾロ!!」






















サンジ君。ゾロとの接触に成功した右手は一週間洗わなかったとか(^^)





〜此処からプチ設定です〜


ゾロは物心ついた時から両親の顔を知らず、孤児院で育ちました。
其処で一緒に育ったクイナ、ゾロ、サガは今でも仲の良い大親友

クイナとサガ、ゾロはそれぞれ15の時に引き取り手が表れたのですが、
ゾロはその引取りに襲われそうになり、家を出ます。


そんな事、新しい生活を送っている二人にはいえず、
途方もなく町を彷徨っている所を飛び込んできたのが、新しくオープンする施設の求人紙だった。


其処に写真付きで載っていた最上階のカフェ店の雰囲気に引かれ、面接を受けに行った時、ゼフと出会う。






ってな感じです(^^)





[2013/1/2]


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