余分な肉なんて少しもついてない

ついているとしたら綺麗な筋肉だけ

肩幅だって当たり前っていったら当たり前だけど、女の子よりかは断然広い


だけど・・


今自分の腕の中にいる肩は俺よりも凄く細くて・・・

それこそ、力を入れたら壊れるんじゃないかって思った・・・・


もしこれが・・・・何もない、例えば教室の中だったり街中だったりしたら?


お前は真っ赤になった顔で、俺を殴るかな

嫌、どっちかってーと困った顔を浮かべて、俺の元から逃げ出してしまいそうだな・・・・









俺がゾロと出会ったのは、小学生3年生くらいの時だ

あいつはもうその時から、あまり物事にも動じない奴だった。


俺の家の近所で剣道を教えてるメガネのおっさんが突然来て
そいつの足に隠れるようにしてたのがゾロだった・・・


階段に隠れてそっとジジィ達が話してるのを聞き耳立ててたらいきなり呼ばれて

もしかしたら、聞き耳たててたのがばれたのか、なんて
ドキドキしながら向かった先で俺はゾロと対面した。



第一印象は

何だこのいけすかねぇ奴は!だった・・・


だってよ・・

あの時のあいつ
まるで死んでるんじゃないかって程無表情でさ

俺がよろしくって言ってんのに、一っ言も喋らねぇんだぜ?


最初はこんな奴知らねぇとも思ったけど、この近くに俺と同じ年の奴はいねぇし、
こいつも引っ越したばかりで不安だろうから、ちゃんと面倒見ろってジジィから言われて・・・

何で俺がってむかついたけど
俺は優しいから、ちゃんとあいつに会う度欠かさず挨拶もしたし何度も何度も話しかけた。


最初は全然無反応で
挨拶しても頭下げるだけで全然笑いもしねぇから、もうやってらんねぇと思ったんだけど

そんな事を思ってるうちに
次第にゾロは、俺がちょっかいかけて飛びついたりすると、
決まって怒るというより、どしていいか分からないって顔して逃げ出そうと暴れるようになった。


照れ隠しというには聊か乱暴だが、それでもあいつの真っ赤になった顔なんて超レアもんだから

痛いのはいやだけど、
次第にあいつが見せる色んな顔に嵌っていった・・・・


一年も経つと、俺はゾロの事が一杯分るようになっていった。

そして今では
ほんの少しの表情の変化で、ゾロがどんな気持ちになってるのか分るようになった。


小学校の時は仲のいいクラスメイト達の中に無理やりゾロを引き込んで、一緒に遊びまわった。

おかげで小学校高学年になる頃には、ゾロは俺ほどじゃあないが、
仲のいいクラスメイトにも些細な、けどしっかりと表情を表に出すようになっていった・・・


俺は嬉しかった。


あの完全無表情で、滅多に喋ろうとしない奴が、此処まで成長したんだって・・・


でも嬉しいと同時に胸の奥に何かつっかえたものを感じるようにもなった。


そしてそれは・・・・



日々を増すごとに

俺抜きでクラスメイトと話すゾロを見るたびに

俺に向けていた下手くそだけど、愛嬌のある笑顔を、他の奴に見せる度に

俺の胸につかえてたものは、次第に大きく膨らんでいった・・・




中学も初めの時は、俺もまだ女の子は大好きだけど
でも一緒にいるなら、男友達・・・中でも幼馴染のゾロと一緒にいる方が何倍も楽しかった。


しかし、それも本当に最初の頃だけで・・・


中学二年に上がる頃には、もうゾロに対する自分の気持ちにしっかりと名前を付けれるようになっていた・・・


それからはもう・・・ゾロに冗談では抱きつけなくなっていて・・・

いや、頑張れば抱きつけるけど、大の男同士で何やってんだって感じだし

何よりそれだけじゃ終わりそうもない自分を俺はもう自覚していた・・・


本当は、高校も別にしようと思ってた。

でもそんな時、ゾロに事件が起きて、俺はやっぱりゾロと一緒の学校を選んだ。


ゾロと一緒の学校を選んだ俺は・・・


胸につかえてたものが弾けないように、俺の気持ちがゾロにばれない様にと

高校に上がると同時に女の子に走った。


それはもう、手当たり次第って言葉がピッタリな位
毎日自分の周りには可愛い女の子がいた。


それで、少しは気が紛れたけど、ゾロを見るとやっぱりモヤモヤしたものがあって、
入学して一カ月も経たないうちに、俺とゾロはあんまり話さなくなってしまった・・・・




今、そんな俺の腕の中には、産まれてからずっと、


俺の心の中に不動の地位で天辺に居続ける男ゾロがいる・・・・







腕の中にいるゾロは顔色も悪くて、俺の服を掴む手はまだ少し震えてる

恐る恐ると言った感じで吐き出された息には、確実に安堵とまだ残る恐怖心が含まれていて、



改めて、後ろで打ちひしがれている変態野郎を殺したくなった・・・・・











小学三年で出会ったからずっと、一緒に育ってきたこいつが

こんな風に俺に身を寄せるのは、これで二回目だ



最初は丁度一週間前だった・・・



それまでは、俺がゾロと線引きして接していた事もあって

幾ら家が近所で小さい頃からの幼馴染みだっていっても
一緒に帰る事なんて、高校に上がったのを境にぱったりとなくなった・・・・


一週間前のあの日だって、今日と同じように込み入る帰りの電車の中で


たまたま・・・

本当、偶然にあいつを見つけたのだ・・・・


確かその時の俺は
帰宅デートにと狙いを定めていた女の子を見事ゲットした俺は、一緒に手を繋いで込み合う電車の中にいた。


今思い返したら、その子とは一体何を話していたのか
何であんなに誘いたいと思ったのかすら、思い出せないけど

兎に角、俺はその子と一緒に電車に揺られる中、
ふと視線の端に、緑の珍しい・・けど、俺にとったら見飽きた色を見つけた。



その日は、確かに人は一杯だが、前を進めない程じゃなかった。

何時もの俺なら、自分の気持ちをごまかすようにあいつを見て見ぬふりするのに、
なぜか今日に限って視線を逸らす事が出来なかった・・・

もしかしたら、一緒にいた女の子が携帯を弄っていたからなのか

それとも女の子でごまかしながらも本当はあいつを求めてる自分に正直になりたかったのか


今ではもう分らない。



けど・・・

確実にこの日を境に俺とゾロの関係が変わったのは事実な訳で。


揺れる人ごみの中で緑の見慣れた色が視界に広がっていく中
俺はある一点に目を止めた瞬間、異変に気が付いた。







普段のあいつからは、想像も出来ないほど、真っ青になった横顔が

何かをギュッと耐えるように、目を固く瞑って苦痛の表情を浮かべていた・・・・





もしかして電車か人ごみに酔ったのか、っと思いながら、
俺はそれまでの俺とゾロのぎこちなさなんてすっかり忘れ
慌ててあいつに近づいていった所で、俺は漸くゾロの様子が可笑しい理由を知った・・・・・






ゾロの後ろに立つスーツを着た男



この電車の中じゃ、さほど不自然じゃない程度の距離で


でもその男の手が、明らかに不穏な動きをしているのを俺はこの目でしかと見た。




それが分かった途端、俺は頭の中が真っ白になった。




気が付いた時には
ゾロに触れる薄汚い手を捻り上げ、ゾロから放している所だった。


ゾロが放心したように、俺を見ていた事を、視界の片隅に留めながら
俺は、野郎に次の駅で降りろと、自分でもこんな声が出るのかと思う位低く、殺気の籠った声で告げた。


いや、実際に籠っていたんだろう。


もし、男が何か言ったら、俺は絶対に相手を蹴り上げてる自信があった。




男を黙らした後、俺は未だ顔色最悪のゾロを安心させるように抱きしめた。



その時の俺は、どうしたんだっとばかりに好機の目を向ける周りなんてどうでもよくて



自分の腕の中で小さく震えるゾロの事しか頭になかった・・・・




中学で剣道部に入ってから、どんどん自信をつけ
何があっても前に進んでいくゾロ

中学の終わり頃、原因不明で急に声が出せなくなった時だって
あいつは変わる事のない、強い瞳を輝かせて全然泣かなかった。

声を出せないなんてハンデを、全く感じさせないあいつ。
そんなあいつの、こんな脆い一面を、俺は初めて知った。


初めてと言っていいこいつの弱さを見た瞬間、俺の中で何かが変わった。


自分の心の変化に、戸惑い何て全く感じる事はなく、
俺の中でストンとつっかえてたものが落ちていった。




俺は、未だ腕の中にいるゾロに気を取られて、駅に到着した事も、
俺のゾロに汚い手で触った男が、一目散に逃げ出した事にも気が付かなかった。



ゾロがおずおずと俺の胸を押した時になって、漸く放送で俺達が下りる駅が来た事を知った。


そして、驚いた顔のゾロに構わず、手を繋いで、そのままゾロの暮らす家まで一緒に帰ったんだっけ




おかげで、あの時一緒に電車に乗った女の子から
盛大なる嫌味と、人気のランチを奢る事になった。




そんな事があってから・・・

登下校は必ずゾロと一緒に行うようになった。


あのスーツ野郎を取り逃がしちまったからな!

それでなくても
またいつあんな目にあうか分んねぇんだ

電車にゾロ一人乗せるなんてもってのほかだ!

だから勿論朝も一緒だ



唐突な俺の変化にゾロも最初は訝しげな視線や戸惑った揺れる瞳を見せていたが、

最近漸く、自然に一緒の登下校デート(ってのは勝手に俺が思ってるだけだけど・・)が出来てたんだが・・・






今日は隣クラスの子のせいで、最悪の事態を招いてしまった・・・・・・








今までの俺の行いと言えばそれまでなんだが、
ゾロがあんなにあっさりと身を引いたのを見て、正直戸惑い傷ついた。


だけど、やっぱり俺があの場でしっかりと断れなかった事

そして何より、今までの俺の行いが悪い



俺は、俺の腕にしがみ付いてる女の子に一生懸命謝って、
兎に角俺はもう君たちとは帰れないってきちんと伝えて


急いで、ほんっとーに急いでゾロに追いつくために全速力で走った。




何とか何時もの電車に乗れたのはいいけど、
この人ごみの中で、ゾロを見つけるのは、結構大変で、何両も人ごみを謝りながらすり抜けて


もしかして、ゾロはこの電車に乗ってないのか、とか思ってた時

やっとゾロを見つけたと思ったらこれだ・・・・・




もう怒りなんて言葉じゃ抑えられなかった・・・・







俺のゾロの(今が予定なのが悲しいが・・・)
まだ俺が触った事のないゾロの引き締まった、それでいて無性に触りたくなる魅惑の尻に触れている
しかも、前取り逃がした奴と同じクソ野郎にだけじゃない


またこういう事態を招いてしまった自分自身も酷くムカついた・・・・










さっきより身体の震えが収まったが、それでも顔色は最悪なゾロ







無意識だろう・・・俺の服を握っているその手に

ホッとした顔で俺の胸に頭を預けるなんて・・・滅多に見せない弱さを見せるお前に


俺はもうメロメロなんだぜ、ゾロ






ゴメンな。ゾロ・・・



新しい高校生活で、地元から離れて不安なお前を避けて、冷たくして

なのに、
いきなりまた近づいて、お前の隣をキープしている俺を、さりげなく避けようとしているのは分かってた。



けど、もう逃がしてやらない





覚悟しろよ?









お前は・・・・・








俺のモノだ ――――・・・・・・・











[2014/8/12]


[*前へ]

4/4ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!