※内容を読みましたか?

本当に?


ならどうぞ・・・・











「お〜いゾロ!一緒に帰ろうぜ!!」


登下校の鐘がなって数分も経たぬ間に、一室の教室には
帰り支度でガヤガヤと賑やかな外野をもろともしない、嬉々としたサンジの声が響いた。


いつも通りの光景、いつも通りのやり取り


一週間前に起こったある事件から、こうしてサンジは
ゾロと一緒に帰るようになった。


最初は戸惑いの色を強く浮かべていたゾロも
今では慣れたように、渋々と鞄を持ってサンジの元まで歩いていく。

それこそ最初は突如として始まったサンジの奇行ぶりに
戸惑うのはゾロだけでなく、ゾロと同じ教室の同級生達も戸惑いを隠せないでいた。


しかし、慣れとは怖いもので


サンジが訪れる度に室内を支配していた戸惑いと少しの緊張した空気は、
一週間経った今では既に欠片も見つからない程、サンジがゾロの教室に訪れる事は日常の一部と化していた。


「ん。じゃあ行こうぜ!」

男2人だというのに、一体何がそんなに楽しいのか

そう不思議に思う程ニコニコと笑みを浮かべ、ゾロの手を引きながら扉に向かうサンジ


あの、女好きのサンジが・・・と

昔から彼を知っている者がいれば、全員が全員
それこそサンジの親だって目を見開いて、立ちつくしてしまうだろう・・・・

しかし、その昔馴染みも
今は違う学校で、こいつと古くからの付き合いがあるのはこの学校ではもう俺だけなのだ。


サンジは ―――−−−

綺麗な金髪に海を連想させるような碧眼で
イギリス人と日本人のハーフで生粋のフェミニスト

その容姿と社交的な性格で、モデルもしているとくれば、女が放ってはおかないだろう


事実、入学して経った半年もしない内に
既にこいつは学園で「王子様」と呼ばれていた。

だがそれも学校だけでなく
一歩外に出ればファンに囲まれ、あっという間に人ごみの中だ。






そんなあいつは・・・・




一週間前のあの日の後から
一緒に帰ろうと群がる女達に断りを入れてでも、俺と帰りたいと言って聞かなくなってしまった。




今では、女達も羨望の眼差しを俺に向けてくるだけで、
サンジに近寄る事はなくなってきた。


それでも、それは俺達がいるクラスだけの事で・・・・



「あ!サンジく〜ん。一緒に帰らない?今日は皆でカラオケに行くんだぁ〜」


廊下に出た途端
どっかのクラスの女がサンジの腕に素早く自分の腕を絡め、上目使いでサンジに一緒に帰ろうと誘いにきた。


そのあまりの素早い動きといったら

高校生らしい、恋に夢中な女の子にゾロは苦笑するしか出来なかった。


何せこれも良くある光景だ。
っというより、一週間前まではそれがもう当たり前だったのだ。



「ゴメンね。俺はゾロと帰るから」

「も〜〜サンジ君最近ずっとゾロ君と一緒じゃん。急に仲良くなっちゃってさ〜〜」

「ゴメンね」

「たまにはいいでしょう?ね。ゾロ君!今日だけでいいからサンジ君貸してくれてもいいでしょう?」


貸してって・・・サンジは別に俺のものでもなんでもないぞ・・・・



一方のサンジも、流石に女相手には強く出られないようで、
目じりを下げてさりげなく断りを入れている。

これで、今までは大抵の女達は渋々諦めるのだが、どうやら今日は違うようだ・・・・


俺から見ても、分かる位サンジに絡めている腕の力を強めて、俺を見てくる。

サンジには決して見せる事のない、強気な瞳
そして俺に向ける一見爽やかそうに見える笑顔に隠れた嫉妬に歪んだ顔


分かりやすいその態度に、俺は内心苦笑しながら、コクンと頷いた。



「やったぁ〜!じゃ、行こう。サンジ君!」

「え・・ちょ、ちょっと・・・」


言うなり、俺に背を向けて歩き出す女
腕を取られているので必然的にサンジも一緒に行く羽目になる。

サンジはひどく困ったような声を上げながら、何度も俺の方に振り返っていたが
少し歩くと諦めたのか、前を向いて女と一緒に行ってしまった。


残った俺は、溜息だけを残して、一週間ぶりに一人で帰宅する事にした。







*  *  *


俺の家は学校から三駅離れた場所にある。


バスもあるのだが、バスより電車の方が近いし時間も速いので俺はこっちを使っている。


何より、学校から電車までは一直線で家から駅までもすごく近いのだ。


そうとなれば、
産まれつき方向音痴である俺には、この乗り物しか登校手段は残されていないという事になる訳で



「次は、シェルズタウン〜シェルズタウン〜お降りの方は〜・・・・」


(後二つ・・・か)


今から着く駅から次の駅まで、確か15分はかかる

今の時間この電車は他校の学生も一杯いて、座席は勿論満席だ

ゾロは何とかドアの近くに立って、
過ぎゆく景色を見ながらシモツキ駅に付くのを揺られながら待っていた。




「・・・・・ッ!!!」




満員になっている車内


ドア付近にいるからか、そこまできつきつに他人と密着する事はないが
それでも少しでも動けば誰かにぶつかる程の距離だ。

このシェルズタウン駅には大きい進学校が二つあるおかげで、朝とこの時間には更にたくさんの人が乗ってくる。


そしてそれに例外はなく、今日もたくさんの学生が乗り込んできた。


そして、更に窮屈になってしまった電車のドアが閉まり動き出した途端

ゾロは自信に降りかかった異変に身体を大きく震わした。



(っ・・ちくしょう・・・何だって・・・)




今日は確かに、何時もよりも人が多いとは思う。




それでも・・・・それにしたってだ・・・・



何だって今日なんだよ・・・・










耳元にかかる荒い息が気持ち悪い




否応なしに手が自分の身体を撫でまわしてくる







吐きそうだ



何だってこんな・・・


 
自分は誰がどう見ても女には見えないのに・・・・



知らず手すりを掴む手には力が入り、異様な程手が白ばんでいる


辺りをキョロキョロ見ても、携帯をいじったり音楽を楽しんだりしている者達で溢れかえっていて
誰も他人の事なんて眼中にない


まぁ誰かと目が合ったとしても、助けを呼ぶ事なんて自分には出来ない・・・


ここ最近一緒にいるあいつは、こういう時に限って自分の傍にいない



嫌、こういう事なんてそうそう起きる訳がないと甘く見て
意固地になって一人で電車に乗ったのが、そもそもの間違いだったんだ・・・・


だけど、それに気が付いた時には既にもう遅かった・・・・・



「・・・ッ・・・」


誰とも知らない手が、ゾロの身体をねっとりと撫で付けるように動き回る

ゾロが周りを見渡している間にもどんどん動きを大きくしていく手は

遂に撫でまわすだけでは飽き足らず、強度を付けるようにして揉みだしてきた。



気持ち悪い・・・・吐き気がする!!


ちくしょう・・・・


誰か・・・






「おいてめぇ・・・今すぐその汚ねぇ手をどけろ」





恐怖と嫌悪に震えていた身体が、何かに引っ張られていくと同時に暖かい熱に覆われた

そして耳に届いた絶対零度の声音は
いつもの明るいあいつからは到底考えられないものだった



けど、ずっと求めていた声に変わりなくて・・・・


身体も心もあいつに守られた俺は
さっきまでの嫌悪も恐怖感も少しづつ消えていくのを感じていた・・・



「ひっ・・何だお前・・」

「次で一緒に降りてもらうぜ・・・」


有無を言わせないその声音に
見知らぬスーツを着た男は真っ青になって口を閉ざした。


サンジはそんな男に、ギロッと
それこそ視線だけで相手を殺せるんじゃないかって位の視線を送ると
相手はビクついて益々顔を真っ青にしてそのまま俯いてしまった。




サンジはそんな男に舌打ちをしたと思ったら、急に俺の肩を掴んで、俺をドアの方へとそっと押し付けた。


さっきまで手を動かすだけで大変だったのに、
此処はさっきまでの窮屈さがない。



きっとそれは、こいつのおかげだ・・・・


俺の顔の横に手をついて、まるで全てから俺を守ってくれるかのように立っているこの男の・・・・




「遅くなってゴメン・・・ゾロ・・・大丈夫か?・・いや、大丈夫じゃねぇよな」

「・・・・」

「すげぇ顔色悪い・・・・後少しの辛抱だからな」

「・・・(コクン)」

「・・くそっ!」


頷いた俺に、サンジは悔しそうな顔をして俺をギュッと抱きしめてきた。



痛い位の腕の中に閉じ込められた途端
サンジがいつも付けている香水の匂いが、俺の中に流れ込んでくるのを感じて、俺は漸く張りつめていた息を吐く事が出来た。











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