短編


蒸し暑い夏


この学園は周りが山に囲まれている為

昆虫の王(騒音の王ともいう)・・・セミの大合唱もすさまじいものがあった。


いくら金持ち学校の為、防音設備も整っているとはいえ、
こんな山奥・しかもセミの騒音付き・・・



耐えられるか!!



とばかりに、
夏休みが入ると同時に坊ちゃん達は逃げ出すように実家に戻った。



誰もいなくなった学校はいつもの賑やかな程甲高い声や野太い声もない、それはもう静かだった。





しかし



そんな学校にも残る人間はいた。






 まずは部活動を行っている学生達。




 もう一つは、この学園一の人気者・生徒会だ。


生徒会は何故残っているのか?



・・・それは書類や文化祭等の準備、打ち合わせ等々、


しなければいけない事が山程残っていた為、帰る事もままならなかったからだった。


本来ならば夏休みが終わる1週間位前から、
授業に出ずひたすら缶詰状態で部屋に篭って書類を終わらせれば十分の筈・・・





それが何故夏休みも3日過ぎた今もこうして残っているのか?





「はぁ・・・今日から柳に会えない・・・」

「そうでなくても、中々会えないのにねぇ〜」

「さっさと終わらせて会いに行くぞ」

「・・・」


「「「「はぁ〜〜〜〜〜・・・」」」」



会話を聞いて分かった人はいるかな?




彼らがこうして未だ作業に追われているのは、

散々王道転校生を追いかけ回していたおかげで、
溜まりに溜まった書類のツケが回ってきたからだった。


自分の仕事を放棄してまで、追いかけました成果はあったのか?というと、

先ほどの会話でも分かるように・・・全然なかったのである。


かくいうその転校生も愛しの君を見守る(ストーカーともいう)事が大変で
そんなの知った事じゃない。

それに

生徒会に愛しの君=俊が目をつけられたら堪らないとばかりに、生徒会と遭遇しない様にひっそりと学園生活を送っていたのだった。



だから生徒会が転校生の柳と会える事も殆ど無かったのである。





何て哀しい片思い″


誰かが想いに決着をつけない限り、報われる事のないループ地獄″






  *  *  *





生徒会の連中は転校生の柳に会いたい気持ちを抑えながらも必死に作業をしていた。

当の本人は会う気は更々ないみたいだが・・・




「「「「はぁぁぁぁぁ―――」」」」


・・・会えない事がそんなに憂鬱なのか


生徒会全員のため息と一緒に吐き出されている鬱憤とした空気は、

もはや生徒会室だけには留まらず、廊下にまで進出していた。



廊下にまで溢れているドンヨリオーラに

生徒会を崇拝している生徒は愚か、先生までも近づこうとせず、回れ右をして退散していった。


夏休み2日目にはいつの間にか生徒会の様子が全校生徒・先生に伝わってしまい、

生徒会室に来る人はいなくなってしまった。



只でさえ毎日同じ顔を見ながら仕事をしていてため息が出るのに、
訪問者までいなくなってしまい益々暗くなっていく生徒会。




そんな悪循環を繰り返す生徒会室だが、



3日目で転機が訪れる事となった。










トコトコトコ


「ぅ― 後ちょっとだ。頑張れ!」





生徒会室に続く広く長い廊下を、ひたすら一生懸命歩く少年がいた。


どうやらこの少年


見る限り部活動をしている訳ではないみたいだ。



この防音設備が整った学園な・の・にッ!それを遥かに上回るセミの騒音にも負けずに・・・


一度しかない学園生活で最も貴重な夏休みにも関わらず・・・



学園に残った数少ない、

まぁ・・・ある意味肝の据わった生徒のようだ。





コン コン


「誰だ」

「先生から急ぎの書類を持ってきました。」

「入れ」


「失礼します。」



きちんとドアをノックして礼儀正しく入って来たのは、


自分の顔より高く積み上げられた書類を落とすまいと一生懸命両手で支えている、



王道転校生の同室者・雨宮 俊だった。





(偶然?運命?)



(素敵なタイミングで表れた君)



(一体君は彼らにどんな影響を与えるのだろうか)





(報われない恋のループ地獄に決着をつけるのは?)



(素敵な学園生活を掴むのは?)








[2012・2・4修正]


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あきゅろす。
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