明かされた正体


最後に見た君の顔も今と同じだった・・・



どうして俺はいつも君の事を苦しませてしまうのだろう



もし何か一つ願いが叶うとしたら・・・



出来る事ならもう一度

君の笑った顔が見たい・・・


夢の中だけでもいいからもう一度・・・






――――――−−−−−





フードが外れ、敵の素顔が明らかになった事で
静かだったボロボロの喫茶店には、大きなざわめきが起こっていたいた。




其れもそのはず



敵はとても美しい顔立ちをした。


敵と分かっていても、思わず見とれてしまう程・・・・・







「ぉ・・・女・・・?」


 店の中で固唾を飲んでこの戦いの行方を見守っていた客の一人がポツリと呟いた。



―― そう。

敵は誰もが一目で分かるほど綺麗な女


本来ならこんな場所にいる方が間違いだと感じてしまう程の美女だった。





目の前にいる人物が信じられず、痛い位何度も目を擦っている者

ポカンと間抜けな音が聞こえてきそうな位大きく目と口を開けている者

素直に驚いた表情をしている者



喫茶店ではそれぞれ色々な表情がした客で溢れてしまった。

もし百面相の意味を知らない者がいたら今こそ連れて来て欲しいものだ。





そんな中、一番蓮の近くにいる華蘭だけは


突如現れた謎の女の事よりも

敵の顔を見た途端
青ざめた顔をして全く動こうとしない蓮の様子の方が心配だった。






( 怒りに我を忘れ・・・こうも簡単に敵の罠にかかるなんて・・・)


―― 華蘭は


敬愛する人のまえで焦りのあまり失態を犯しただけでなく、

足手まといにしかなっていない自分が何より憎くて仕様がなかった。 



動かない自分の身体がもどかしい・・・


( 蓮さま?いったいどうしちゃったの?・・・)








「・・・・・」

 
蓮は相変わらず青い顔をしたまま敵を凝視してた。



そんな蓮に対し敵は

男なら皆喜んで何でもしてあげるような綺麗な顔を
怒りとも悲しみとも言える表情で睨みつけていた。





この状態が一体いつまで続くのか・・・



しかし華蘭の心配も思わぬ相手より直に終わる事となった。





「此処にいる皆さんを巻き込むつもりはなかったの。
 ・・・それについては謝ります。ごめんなさい・・」


まるで鳥のさえずりの様に可愛く澄んでいる声


聞いてしまったら思わず振り返ってしまう程その声は魅力で溢れていた。



この声の主があの襲撃者だとは到底思えない。



しかしそう思うのもつかの間


呆然と店の中で様子を窺っていた者達は
次の瞬間には身体が凍りついてしまった。





「にしても・・・やっと気がついたのね道・蓮。
 ・・・私は・・・あなたを殺しに、この大会までやってきたわ!!
 今ここで復讐を果たすのもいいけど、邪魔者が入ったみたいだからまたの機会にするわ。」


先程の落ち着いて謝った声が嘘の様に
その声は怒りに満ち溢れたものだった・・・・・



声が他の人よりも何倍も綺麗な為その迫力に拍車がかかっていて
その声音は、聞く者全ての背筋が凍る程の威力を持っていた。






またの機会に、と淡々と告げ終わると、
敵は吹き抜ける風の様に一瞬で蓮の元まで近寄った。



なのに蓮は未だ動く気配を見せない。


華蘭のように捕影剣が刺さっている訳でもないというのに・・・
 




傍から見なくても分かる程
今すぐにでもキスが出来そうな位2人の距離は近い。



蓮は相変わらず身動き一つしない。

このままでは蓮さまが危ない。と
華蘭はとにかく蓮の正気を取り戻さなければ、と思ったが身体は相変わらず動かせない。



しかし声は出す事が出来る。

華蘭は息を大きく吸おうとしたが
敵がまた予想もつかなかった動きを見せた事によって、それは中断させられた。




「ボソッ・・・それまではこの剣を預からさしてもらうわ。
 それとこのクナイ返しといてね。相方さんに」



敵は蓮の耳に口を寄せ何かをささやいた。

しかしそれは、少し離れた場所にいる華蘭に聞こえない程小さな声だった。



きちんと華蘭の耳に聞こえてきたクナイ″という言葉に蓮さまの手元を見ると



敵は蓮さまに小型のクナイを渡していた。


そしたら今度、敵が先程までの怒りが嘘の様にクスクスと笑いながら、
いつのまに奪ったのか、蓮さまの愛剣を携え一呼吸もおかない間に音もたてずにその場から消えてしまった。





私だけじゃなく、店の中にいる者全てが呆然と
先程まで敵がいた筈の空間を見つめていた・・・・・
 










呆然としている私達を現実に引き戻したのは蓮さまだった。


敵の顔が分かってから、青い顔で茫然としていた蓮さまが
突然胡坐をかきながら地面に座ったと思ったら苦虫を噛み潰した様な苦しそうな表情で




――― 勢いよく拳を地面に叩きつけたのだ







その後ろ姿は哀愁と悲しみが漂っていて誰も声をかける事が出来なかった・・・











[2014/1/25]


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