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ド ド ド ド ドド ド ド ド・・・・










激しい銃撃が止んで数分経ったが、店の中の者は誰一人として動くものはいなかった。


それは銃弾に当たったからでも恐怖からくるものでもなく、敵の様子を伺っているからであった。











突如襲撃されたにも関わらず
この喫茶店にいる者達は皆素早く現状を把握し、焦ったり慌てる事もなく

机の下に隠れたり、自分の能力を最大限に活用し難を逃れる事が出来た。


この大会で勝ち進んでいる者達だけあって、その咄嗟の判断力と反射能力は流石ともいえるだろう。






どうやら敵もこちらの様子をうかがっているのだろうか

未だ身が焼かれる程の殺気は感じるが、全く次の攻撃が来る気配がない。



それでも油断は禁物

蓮は警戒を解かないまま外から視線を外し
腕の中にいる華蘭に怪我がないか確認する事にした。



「華蘭、大丈夫か?」

「はい・・・蓮さまも大丈夫ですか?」

「ああ。にしても狙いは・・・俺達だろうな。どっちの客だと思う?」


狙いは蓮か

それとも華蘭か


どちらにせよ自分達のどちらかである事を
蓮も、華蘭もほぼ確信していた。




―― 先ほどの銃撃



店全体に打ち込まれているように見えるが、銃弾は明らかに自分達中心に撃たれていた。



周りと自分達との被害の差


そして ―――


蓮と華蘭を最も確信つけたのは



偏に今までの経験からだった・・・・



「そんなの心あたりがあり過ぎて分かりません。・・・でもこんな大勢の人がいる所を狙うなんて!」

「まだ殺気を感じる。良くは見えないが外にいる黒のフードを被った奴が犯人で間違いないだろうな・・・」


店の中は、未だ硝煙が立ちこめていた。
そんな中、チラッと見えた犯人らしき人物の情報を華蘭にも伝える。


華蘭も向こう側に気がつかれないように、自分の背にあるテーブルの端からソッと覗き見た。




蓮の言う通り
喫茶店の外には黒のフードを被って顔は見えないが、少し小柄な人物が立っていた。


その両手にはこの店を襲撃する時に使用したのだろうライフルが見えた。





「とにかく外に出るぞ。此処にいたらまた他の奴らまで巻き込んじまう」



敵の姿を確認した後、また机の影に引っ込んだ華蘭に
蓮は此所に来るまで着ていたフード付のコートを差し出した。


蓮の意図をすぐさま理解した華蘭は、目を閉じると短い言霊を唱え始めた。









《その物に宿りし魂よ》


《我の声を聞き我に従え》




   




霊感や能力もない只の一般人が見たら、分からないだろうが

今言霊を唱えている華蘭の全身からは
自分達の力の源である「孚力」が溢れ出ている。


そしてその溢れている孚力は
華蘭が言霊を言い終えたと同時に淡い光となって、いつの間にか取り出していた1枚の札に移っていった。



その仕草、姿は

普段見ている華蘭とはだいぶかけ離れていた。



顔つきも、何時もの優しい笑み等なく

強い意志が籠った戦闘用のその顔は、見るものを魅了するには十分で



久しぶりと言っては過言ではない戦闘時の華蘭を見た蓮は、
命を狙われているかもしれないという状況にも関わらず、知らず知らずのうちに魅入ってしまっていた。



「蓮様?」

「あ・・あぁ、悪い」


蓮が不思議そうな声音に、ハッと我にかえると
華蘭が心配そうな顔でこちらを見ていた。


ただ華蘭に魅入っていただけなのだが
そんな事恥ずかしくて言える訳もなければ、そんな状況ではない。


華蘭が何の心配をしているのかは、古い付き合いである自分には手にとるように分かる。



「大丈夫。何処も怪我なんてしてないから」

「本当に?良かったですわ」


苦笑しながら告げると、一気に安心したように強張った表情を緩めた華蘭


しかし、それもほんの一瞬で

直ぐにまた気を張り詰めた華蘭は、真剣な表情で蓮から渡されたコートに先程の札を貼りつけた。






―― するとどうした事か・・・



先ほどまで何の変哲もない只のコートが姿形を変え、
瞬く間に蓮と同じ位の人の形・・・っというか蓮そっくりになったではないか。


蓮は久しぶりにみる華蘭の技に、流石だな、と内心感服し
華蘭は敬愛する人の前で失敗という、無様な事にならなかった事にホッとしていた。






「行くぞ華蘭!!」

「はい!」




蓮が合図を出すと同時に
華蘭が蓮のコートで作り出した人形が動き出し、机から飛び出た。






ドドドドド!!!






人形が飛び出した瞬間またも激しい銃声がその人形めがけて鳴り響いた。


人形は、最初の銃弾は上手に交わしたが
所詮は術で作り出された只のダミー人形


直ぐに銃弾の餌食となってしまい、崩れるように倒れた蓮そっくりの人形は、
床に横たわった時にはもう、ボロボロになったコートに、嫌、元の姿に戻っていた。


ほんの一瞬で役目を終えた人形だが、
十分な程役目を果たしてくれた。



敵の意識も銃弾も人形に引き寄せることが出来た。



敵に出来るその隙を蓮達は待っていたのだ。


敵が自分たちの作り出したダミーに気を取られている今の隙を、蓮と華蘭が見逃す筈はなく


勢いよくテーブルから飛び出した華蘭は、そのまま敵に向かい走った。






「ッ!?!!」



敵はいきなり飛び出した華蘭に一瞬驚いた様子を見せるも
直ぐに自分の近づいてくる華蘭に標的を定めた。


しかし、直ぐに華蘭から銃口を外し、華蘭が窓枠を飛び越え店から出ても
一切銃を放つ事はなく、まるで標的を探す獣のように神経を研ぎ澄まし辺りを見渡し始めた。



その敵の行動に
狙いが自分ではない事を確信した華蘭は、懐から出した短剣を狙いを定めて放った



敵は軽く舌打ちをすると、持っていたライフルで短剣を受け止めた。


ドスッと、濁ったような音と同時に短剣はライフルに突き刺さった。


敵は、使い物にならなくなったライフルを放り投げると、
まるで真似をするように、腰にかけていた短剣を取り出し、華蘭目掛けて放った。




華蘭は、そんな敵の動きにほくそ笑むと
短剣の起動を読み、まるで流れる流水の如く軽やかな動きでそれを避けた。


しかし、敵も避けられることは承知だったのだろう
すぐさま二度三度と短剣を華蘭に投げつけた。




敵が華蘭に意識を集中させた今を蓮は待っていた。


敵の注意が店から逸れた今が絶好のチャンスとばかりに、蓮は勢い良くテーブルの影から飛び出し

割れてボロボロになっている窓ガラスの枠をもろともせず足にかけて店を飛び出し

敵に向かい一直線に走った。





「ッ!!」





敵がこちらに向かってくる人物を目で捕らえた瞬間
殺気を爆発させ、背中に隠していたライフル手に取り蓮に向けたのだが、

時既に遅く


蓮は既に敵の間合いぎりぎりの所まできており
その片手にはピストルが握られていて、銃口を襲撃者に向けていた。








そうして蓮と華蘭は・・・・


襲撃してきた敵と対面を果たしたのだった・・・・・











[2014/1/18]


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あきゅろす。
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