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「ハッ!何だ俺の相手はこんなガキか?もっとマシな奴はいねぇのかぁ?」



最後には青と竜まで巻き込んだプチ騒動は、その日の内に解決する事が出来
翌日無事に試合を迎えた蓮は、闘技台で対戦相手と対峙していた。




相手は大柄な体格に加え、身長ももしかしたら三メートル近くあるかもしれない大男

その対戦相手は、自分の試合相手。つまりは俺を見て鼻で笑った後、
さも楽勝だと言わんばかりに、お世辞にも品が良いとは言えない程大口を開けて喚きだした。



「どうせ今までだって、運だけで生き残れたんだろうが・・・
 俺様が相手だったのがおめぇの運のつきだな」


ガッハッハと品のない笑い声を上げる大男
ゴングは鳴っているというのに、構えを取ることすらしない。


完全に油断し、見た目で自分が相手よりも下だと決めつける。




蓮には相手の実力を知るには、もうこれだけ十分だった。

男の言葉は正に今の自分の心境だ、と冷めた心地で男を見やりながら、構えをとった。



「一応言っておくが、構え位とったらどうだ?」

「あぁ?聞こえないねぇ〜相手してやるからさっさとおいで、子猫ちゃっ!ガハッ!!」



試合相手は、最後まで言い切る事も叶わないまま
優に百メートル以上はあるだろう端の壁まで吹き飛ばされてしまった。





勿論吹き飛ばした相手は、対戦相手である蓮




一瞬で間合いを詰め、
自分の倍近くある巨体を軽々と蹴り飛ばした。



目にも止まらないその速さに
見物客の殆どは、蓮がいつ動いた事すら分からず、呆然と目を見開いていた。


先程までざわめいていた闘技場は、シンと静まり返った。
そんな中で一つ、落ち着いた冷静な声が響いた。




「審判。」

「ぁ・・あぁ。続行不能により、この勝負道・蓮選手の勝利!!」



審判がそう判断を下した時、なにやら観客席が一際煩くなったような気がするが、
蓮は特に気にする事なく闘技台を後にした。












「蓮〜〜!!」

「お疲れ!」

「お疲れさん」


会場出口で待っていた陽、青、竜

彼らの労う言葉に蓮も笑みを浮かべながら彼らの元に歩み寄る。



ほいジュース、と竜がスポーツドリンクをくれた。
竜はなんというか、こういう気遣いが上手だ。


さりげなくて、押しつけじゃない本当の優しさ


何より、竜は自分達よりも五つ年上なので
素直に、こういった優しい気遣いを受け取る事が出来る。


お礼を言って、半分程飲み干す
今日は結構日差しが強いから、冷えた飲み物がどんどん身体に染み込んでいく



うん。うめぇ。


さして疲れている訳ではないけれど、こういう時の飲み物は格別に美味しい





「いや〜それにしても何時見ても速いな〜お前って」


感心するように言う青に俺は別に、と答えた。


勿論遠慮してるとかそんなのじゃない。本心からの言葉だ。
なんせ家に帰れば、俺より速く動ける奴がいるからな



「当たり前よ〜〜蓮だもん」

「・・・何でお前が言うんだっての」


まるで自分がほめられたように胸を張っている陽に呆れれながら、
青のもっともなツッコミも気にせず俺に抱き着こうとする陽の頭をがっしり掴んで制する。



チラッと見ると青も呆れかえった顔をしているが当たり前だ。
昨日あれだけ盛大なる仕置をしたにも関わらず、懲りずにこんな人が多い場所で抱き着こうとするからだ。

でも陽のこういった事は、何も今日が初めてじゃない。



そういえば、初試合の時もそうだった・・・・


そんなに日は経ってない筈なのに、懐かしく感じて、自然と笑みが浮かぶ。


そんな中、青は益々呆れた声音を強くして、陽をジト目で見やり
竜もうんうんと頷いていた。




「陽はさ〜もう少し落ち着いて見れないのかよ・・・」

「?おいらは十分落ち着いてるぜ?」

「嫌々旦那。あれは落ち着いてるとはいいませんぜ」


陽の言う事に、否という竜を、俺は今日初めて見た・・・


きっと明日は・・いや、今夜には大雨が降るかもしれない。
ってか、陽・・・お前は一体俺の試合中に何をややったんだ?



俺の呆れた視線に、陽はアハハ、と乾いた笑みを零す。
すると青が悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべて、教えてくれた・・・・



 







『何だよあいつ・・図体だけの癖して!!』

『お、おい陽、気持ちはすげぇ分かるけど、座れって!後ろの人たちの邪魔してんぞ』


のんびり屋の陽が普段とはかけ離れた動きで、一番前の席を取ったので
俺達は一番前で蓮の勇姿を見る事が出来る。

それは良い。全然良かった。

しかし、問題はそれから後の事だった・・・







陽は試合相手のちょっとした言い草や仕草に、一々文句をつけるのだ。


嫌、それだけなら勝手にやってればいいのだが、
何がありえない、って一々立ち上がって喚くのだ。



『あ!あいつ今蓮の事変な目でみやがったぞ!!許さん!』

『最近俺、お前がすげぇ遠いわ・・・あ、すいません。直ぐに座らせますんで・・・おい陽!』

『だ、旦那。ちょっと落ち着きましょうや』

『ぃよっしゃーーー!!見たか今の、すっげぇ格好良かった!一瞬だな一瞬』



試合相手だけならまだしも、蓮が少し動いても、これなのだ。


『竜・・・なんでこいつ、こんなに蓮大好きなんだろうな』

『・・・運命の出会いって奴だろうな』

『嫌、お前まで意味分かんねぇ事言うなよ!其処は全力で否定してくれよ〜〜』(泣)

『へへ。当たり前の結果だな。あ!おい竜、青行くぞ。蓮が戻ってくる』



自分も長い事、陽の友達を続けている。

そんな自分達を置いて
此処まで陽の心を開かせ、好かれる蓮に、実は少し嫉妬していたのだが ―――・・・



どうやらそれも、今日で終わりだな。うん





『へぇへぇ』

『へい。行きましょう』











「・・・・・」


なるほどな。
そんな事があったとは・・・・


これで、試合が終わった時にあんなに観客席が賑やかだったのか、分かった。


正直呆れてものも言えないぜ・・・

竜は・・・まぁいいとして、青の苦労に心底同情する。




本当に、陽は普段はのほほんとしていて、掴み処がなくて
時々何を考えているのか分からない時があるが

何だか益々陽の事が分からなくなっていっている気がするのは、俺だけだろうか・・・・













何だかんだありつつも、四人仲良く宿に向かって歩いてく


皆笑顔を浮かべて、話たりじゃれ合ったり



この時ばかりは、蓮も年相応な笑みを浮かべている・・・・









この楽しい時間が続いたら・・・そんな事を考えるまでに

蓮はこの三人が好きになっていた・・・・





ほんの些細な

楽しいひと時



しかし、その身にかせられた運命が、その時間を引き裂いていく ――――・・・・










仲良く歩いていく蓮達を
少し離れた建物の屋上から見ているものたちがいた・・・・



「へ〜・・・あれが、君が言っていた殺さなければいけない奴″なのかい?」

「・・・・」

「フフッ。・・・・いいよ。君の好きなようにしたらいいさ」

「ありがとうございます」

「でも・・・嘘は嫌いだよ。殺すと決めているなら、きちんと実行してくれるね」

「えぇ。あいつは・・・・私が必ずこの手でっ!!」

「楽しみにしているよ。ファンラン」

「はい。覇王様」





その背中に刻々と迫る影に



蓮は未だ気が付かない・・・・・・





その影が、これからの運命を大きく変える事に・・・・・・











[2013/10/7]


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