神のお告げ




四隅に置かれた松明から上る炎だけがこの部屋を照らしていた。

しかしそれでけで部屋中を照らせる訳もなく、
中央は薄暗く、殆ど明りは届いていなかった。










「長よ。聞こえるか長よ」

「は。お久しゅうございます」

「時は満ちた。また、能力ある者を集え。」

「神の御心のままに」



部屋の真ん中には松明はない筈なのに、
突如青い炎が現れ、その中には燃える事なく悠然と佇む人形が一つ



その人形は、人間の頭程の大きさしかない、
お前ふざけているのか、と思わずツッコミたくなるような顔をしたライオンの人形だった


しかし、その人形が只の人形でない事は、勿論この場にいる者は知っている。








フードで見えない頭を、深々と下げ、
その人形が消えるまで動かずに待つ



暫くすると
青い炎は消え去り、部屋の中はまた何時もと変わりない松明の赤い炎だけになった事を確認し
フードの男は最後にもう一度深く一礼をして、静かに部屋から出ていった・・・・













「お帰りなさいませ、長老。お告げですか?」

「そうだ。今回は16年ぶりだ。比較的早いほうになるな」


部屋を出た後、男は同族が集まっている会議室に向かった。

其処には既に、一族の人間が全てが集まっており、皆は静かに自分の言葉を待っていた。

しかしそれは焦る気持ちを抑えようと無理しているのは、丸わかりで
ソワソワと落ち着かない空気が漂っていた。




「皆の者!落ち着いて良く聞くのだ!
 今先程、我らが神・グレートスピリット様からお告げが下された」



高らかと響く声に、
笑みを浮かべる者や厳しい表情を浮かべる者に二分割された



「神は、今年15年振りにサイキックファイトの開催を希望されたし!
 さぁ皆の者、今こそ我らパッチ族が神の手足となる時。神が求める強き能力者を集うのだ!」


「「「「「ぅおおおぉぉーーーー!!!!」」」」」



古来より神に仕えてきたパッチ族達は、
長の言葉に、そしてこれから始まる壮絶なる熱い戦いを思って、歓声を上げた



「では、皆それぞれ作業につくのだ!解散っ!」














*  *  *


時、所変わって中国には、とある名家の一つに『道家』という
代を変えながら永い歴史を紡いできた名家がありました。


その家が持つ力は、昔から中国内最高の力と怖じ恐れられていた。
それは、何百年もの時を越えても変わることはありませんでした。


この物語は
そんな家に産まれた少年に、ある知らせが届いたことにより始まってゆくのだった ―――・・・・










道家のとある一室に朝からずっと籠っている少年でありこの物語の主人公は、
積み重なっている書類に追われ、時間等忘却の彼方に置きながら必死に手を動かしていた。


其処に、コンコンという控えめな音が響いた



「入れ」

「失礼します」

「どうしたんだ椿?まだ見張りの時間だろ」

「交代してもらいました。蓮様そんな事よりこれを」


時計を見ると針は昼の二時辺りを刺していた

この時間帯は基本、誰も部屋に来るような者はいないのだが、今日は違った。


入って来たのは、俺より少し低めの身長で黒のマントを羽織っており、顔には犬の面
一見正体不明で、誰かなんて見当もつかないが、蓮と呼ばれた少年には一体誰なのかなんて愚問であった。

俺の相方・椿だ



何時もなら夕方になるまでは、家の外で危険がないか見張りをしているか任務に出ている筈

誰よりも真面目で胸の内に熱い熱情を込めている椿が、
まさか自分の与えられた役目を他の者に代わってもらうなんて、余程の事なのだろう。


それは分かるが・・・と俺はチラッと自分の手元に目を向けた。


俺の机には、椅子に座っている俺の背丈と同等の高さを持つ書類の山がまだ二つ程鎮座している。
これだって、朝から奮闘してやっと此処まで減らしたのだ。

毎朝の日課であるトレーニングを終わらし、朝食を食べ終えてからこの部屋に入った時なんて、
それこそ机の上は書類を一枚置くスペースしかなかったのだから

大体俺はこうした書類業務が一番といっていいほど苦手分野に入るのだ。



もし厄介事だったら、また今日も徹夜だな・・・っと
内心でもう一度盛大なるため息を付きながら俺は、表情を引き締める。


所謂、仕事の顔に戻った蓮に、椿は何の変哲もない一通の手紙を差し出してきた。


椿の手にある真っ白の手紙
一体何の手紙なのか、さっぱり見当がつかない


しかし、只の手紙でない事は、椿の何処か緊張した面持ちで嫌という程分かるので、
俺も気を取り直して受け取った時、漸くこの手紙が普通と違う事に気が付いた。


直ぐに封を開けようとしたが、
この手紙に普通とは違う、ある仕掛けが施されている事に気が付いて、手紙を床に放り投げた。



「蓮様?・・・っ!」


椿が不思議そうな声で、蓮を見た途端
先程床に落ちた手紙がいきなり炎上したのだ


椿は何の声もあげず、平常心を保とうとしているが、幼い頃からの付き合いである蓮には
椿が必死に保っている平常心の裏側で、驚いているのが伝わって来た。


( 今もその面の下には必死に無表情を保とうとしてるんだろうな )


ありありと思い浮かべる事が出来て、心の中でクスッと笑いながら、
目の前で行き成り燃え出したその手紙をジッと見つめた。





「この衣装は・・・・」

「うそ・・・・まさか」


炎が消えたと思った瞬間、灰が舞ながら一つの形をかたどっていく

一目で分かる高度な術



誰がこんな手を込んだ事をするのかという疑問は、
灰が形を変え、新しい形になり終えた事で解ける事となった。



人間の形・・・をしたそれに、蓮と椿は覚えがあった






手紙の灰を使った一時の転身術・・・・


まるで実態があるかのように見えるが、実際はない

その灰で作られた幻を媒体に精神だけを一時的に移行する事によって
限られた時間の中で、会話が可能な、訓練を積まなければ使用は難しい割と高度な伝心術


この術は燃える物なら何にでも使える事から、
遥か昔、連絡手段がまだない時代にはよく使われていたと文献で見た事がある。


そして、灰が作り出しているこの人間が来ている衣装にも見覚えがあった・・・・・




鷲の羽で作られている頭飾り
顔には派手な化粧
首には幾つか小物のようなものがぶら下げられている

一昔前のアメリカのインディアンのような民族衣装を身に纏っている




実際に見るのは初めてだが
確信は十分にあった


そしてそれは、椿も同じのようだ。




「「パッチ族・・・・」」


俺と椿が同時に呟くと
術で作られし幻が口を開いた。



「能力を持つものよ。今年神よりお告げが下された。
 これよりひと月後、東の大陸にてサイキックファイトが開催される。
 その大会で優勝をした者には、神の力が授けられるだろう。
 力ある者よ。待っているぞ」


まるで時間がないと言わんばかりに、パッチ族の男は淡々と言いたい事だけを口早に言うと、
青みがかかった炎が上がると同時に、一瞬で消えていった。

残ったのは、先ほどまでと何ら変わりのない執務室と
張りつめた空気を隠す気もない蓮と椿

そして、床に残された灰と化した手紙だけだった・・・・









「蓮様。サイキックファイトってあの伝説の?」

「あぁ。まさか俺達が生きてる内に開催されるとは思わなかったな。
 前は確か俺達が産まれる一年前だったからな」

「フフッ。どうなさるんですか?」

「まぁ。罠じゃないようだしな。それにほら」


蓮が手紙の灰が落ちている所まで歩み寄ると、徐に手を灰の中に突っ込んだ。

引き抜いた手には、勿論たくさんの灰が付着していたが、手の中には違う者が握られていた。




「?これって・・・・」

「あぁ。開催地までの案内地図みたいだ。」

「どうやら本物のようですわね」

「・・・にしても、一か月後だなんて、えらい急だな」

「確かに。でも、開催自体が不規則だって文献にも書かれてましたもの。きっと神は気まぐれなんでしょう」

「ハハッ・・・だな。じゃあ今日の仕事をさっさと終わらして準備にかかるとするか」

「分かりました。私もこれから他の者達に伝えに走ります」

「おう。任せる。お前も出るのか?」

「え?私・・ですか?」


まさか自分に聞かれると思っていなかった椿は心底驚いた。
だが、みっともなく狼狽えるような真似は主の前でしたくなくて、一呼吸おいて自分を落ち着かせる。

こんな時、本当に面を被っていて良かったなと思う。

まぁ、そうやって自分を整えた所で、目の前の主人には狼狽えた事なんてとっくにお見通しなんだろうけど・・・



「私には今そんな余裕はございませんし、そりゃ神の力というのは興味ありますけど・・・・
 そんな事よりも、貴方様のサポートを全力で行う事の方が大事です。」




「サイキックファイト」に優勝した者には
神の力を与えられ、願いをなんでもかなえられるという・・・・


これもまた文献にかかれてあった事だ。


「はは。お前らしいな。まぁ、俺も・・・そうだな。
 願い・・・なんかよりも、どんな強い奴がいるのかって事の方に興味があるかな」

「フフッ。だと、思いました。では私はこれにて失礼します」



片膝をつき片手の拳を胸に当て、深々と頭を下げる椿を見て、蓮の胸に少し苦い想いが過ったが、
この胸の痛みも今に始まった事ではないので、一々気にしていたら疲れてしまう



「あぁ。頼んだ」

「御意!」


言うと同時に一瞬で影も残さず消えた椿



「はぁ・・・・たっく普通に出ていけねぇのかよ・・・・」



正式に自分の相方となってから
椿は何かある度に、ああして膝までついて深く頭を下げて礼をするのだ。


幼馴染でもあり、何に置いてもかけがえのない存在である椿に、
あんな態度を取られるのは正直嫌なのだが、言っても聞かないのだ。あいつは・・・・



( あいつも頑固だよな・・・ほんとに )


俺は心の内で少しだけ、椿に愚痴ると、
さっさと仕事を終わらせる為に、再び机にある苦手な書類に向かう事にした。










[2014/4/7加筆修正]


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