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庭球ゲーム
Call me(真田)
『名前で呼んでもいい』…そうは言われても、男ならまだしも女子に対して気軽にそうできるほど自分は軽薄でない、そう告げると彼女…山野辺はひどく悲しそうな顔をした

その情景を夢で再び見て、目覚めてからいたたまれない気持ちになった
昨晩、火の番をしていた自分の元へやって来た山野辺に、上級生の自分をくん呼びする理由を尋ねたら…少しでも仲良くなりたいからという返事とともにもしなら自分のことも苗字でなく名前呼びしていい、と言われたので思った通りに返答をしたのだが…その後、悲しそうな顔したまますぐに山野辺は去って言ってしまい、何だか釈然としない気持ちを残したまま戻った自分もこうして朝を迎えた訳で
咎めたわけでもないのに、何故あんな傷ついたような顔をされたのか分からない
そのもやもやとした気持ちは解消されないまま、支度を済ませて朝食を摂るため食堂へと向かうとその前で山野辺と鉢合わせてしまった

真田「山野辺…」
山野辺「あ、真田くん!おはよ〜!」
真田「ああ、おはよう…」
山野辺「今日の朝ごはんはタラの芽の味噌汁だって、ご飯が進みそうだね」
真田「あ、ああ…そうだな」

昨日のことなどなかったかのようにけろりとしている彼女を見て、あれはもしかして俺が見た夢であったのかと疑いたくなる。けれど、この自分の中に残るわだかまりは消えないままで…

真田「なぁ、山野辺…」
柳「おはよう。弦一郎、山野辺」
山野辺「あ、柳くん!おはようございます…!」
真田「蓮二…」

蒸し返すのはアレだが、いっそ真意を確かめておこうと思い切って山野辺に声をかけようとすると、折悪くその場に表れた蓮二に言葉を遮られてしまう。そうこうしている内に小日向に呼びかけられた山野辺がそちらへ行ってしまい、結局何も聞けないままその場に取り残されてしまった
山野辺の姿が完全に遠ざかったタイミングで蓮二が弦一郎、と声をかけてきた

柳「…山野辺と何かあったのか」
真田「何故そんなこんなを、と言いたいところだが…分かるのか?」
柳「ああ、お前も彼女も今朝は妙に覇気がないからな」
真田「俺はともかく、俺には彼女はいつもと変わんように見えるんだが…」
柳「…だからお前は鈍いと言われるんだよ、弦一郎。彼女のあれはから元気というやつだよ」

呆れたような顔つきで呟かれて反論しそうになったが、昨日の彼女のあの顔が思い出されて…ふいに言葉をなくした

真田「やはり、俺は鈍いのだろうか…」
柳「珍しく素直だな」
真田「少し思い当たるところがあってな」
柳「…その思い当たるところ話してみたらどうだ、俺でよければ聞くぞ?」
真田「そうか?実はな…」

相手が蓮二なこともあるし、包み隠さず昨晩のいきさつを話すと呆れたような顔つきを更に呆れさせて蓮二がため息をこぼす

柳「弦一郎は思っていたよりもずっと鈍いんだな…それでは彼女が傷つくのも無理ない」
真田「なっ…」
柳「彼女はせっかくお前に好意を示したというのに、それをあっさりと無下にされて…よほどショックだっただろうな」
真田「は、好意…?」
柳「仲良くなりたいという話の流れの後で、名前で呼んでほしいなんて自ら言い出すのは好意に他ならないと思うが?」

怪訝そうな表情で俺を見つめる蓮二の言葉に一瞬思考が停止する

真田「しかし…仲良くなりたいといっても、彼女はもともと友好的な性格であるようだし…現にお前もくんづけで呼ばれているではないか」
柳「好意にも種類があるし程度もある。確かに俺も柳くんと呼ばれてはいるが、名前で呼んでくれと言われたことは一度もない」
真田「それはたまたま話題にならなかっただけで…」
柳「どうかな?話題になったとしても、きっと山野辺は俺にはそうは言わなかったと思うがな。言ったろう、好意にも種類があると…山野辺のお前に対する好意はかなりの確率で恋愛感情に近いものだと推測する」
真田「れ、恋愛感情だとっ…!?」

声がでかいぞ、弦一郎…とたしなめらて、側を歩く連中の視線に気づき、口をつぐむ

真田「しかし…何故、お前にそんなことが分かるんだ?データ収集の賜物か…?」
柳「分かっていないお前のほうに俺は驚くがな…データなど取らずとも山野辺を見ていればすぐに分かる、彼女はお前しか見えてないからな。それに弦一郎…お前もそれは同じなんじゃないのか」
真田「何だと」
柳「俺は、お前が山野辺以外の女子の言動をこうも気にしているのは見たことがない。まぁ、それが恋心だと決めつけるのは性急だとしても何かすら特別な感情を彼女に抱いているのは間違いないだろう」
真田「むぅ…」
柳「だから、結局その悩みは弦一郎が自らの気持ちをきちんと自覚しないことにはまず解消されないだろうな。そうしないとまた同じようなことを繰り返すだけだ」
真田「そうは言っても一体どうしたものやら…」
柳「それは自分で考えろ」

蓮二はそうあっさりと言い放ってから、そろそろ行かないと朝食に遅れるぞと、すたすたと歩いて行ってしまった
朝食を摂っている間もずっと先ほどの蓮二の言葉が引っかかったままでお陰で山野辺のほうを見ることすら何だかためらわれてしまう。朝食を終えて、作業の前に一度バンガローに戻ろうと足を向けると途中、少し離れた場所で仁王達に囲まれるようにして話をしている山野辺の姿が目に映った

仁王「…じゃ…」

この距離からだと何を話しているかは上手く聞き取れないが、仁王が何かを山野辺に語りかけて、それに顔を泣きそうに歪めた彼女を忍足がなだめるように声をかけつつ、千歳がなぐさめるように頭を撫でてやる
その様子を眺めているだけで、何故か心がざわつく。それは苛立ちにも似ていて…どうしてそんな風に思うのか分からないが、そう感じたらいても立ってもいられず、自然と体が駆け寄った

真田「ひわ…!」

名前で呼びかけられて彼女がおどろいたように見開いた目をこちらに向けた。気がついたら自ず、名前を呼びかけていた自分にも内心とても驚いていた

真田「どうした!?何か仁王にひどいことでも言われたか…?」
山野辺「う、ううん…」
仁王「なんじゃ、随分な言われようじゃの。しかも、まさかそれを山野辺を泣かすようなことを言うた張本人に言われるとは思わなんだ」
山野辺「仁王くん…!」
真田「何だと」
忍足「ほんまやな…お嬢ちゃんはな、真田に嫌われたんやないんかって心配して泣いとってんで。仁王も俺らもそれを慰めとっただけやわ」
真田「では、山野辺は俺のせいで…」
千歳「じゃけん、こうやって真田が夢中ですっ飛んできよるけぇ、山野辺さんの心配も杞憂じゃったみたいやし…後は二人に任せて、俺らは退散したほうがよかっちゃね」

良かったねぇ、山野辺さん…と千歳が去り際にぽんぽんと彼女の頭を軽く叩いて、先にその場を後にする。千歳の言葉に同意するように忍足と仁王が後に続く

真田「仁王…!」

呼びかけられて仁王が振り向く

真田「…済まなかった」
仁王「ええよもう。じゃけど真田、あんまり彼女を泣かすなよ」
真田「あ、ああ…」

ひらひらと手をふりながらそう言い残して仁王がその場を去る。二人きりで残された彼女と目が合ってなんだか気恥ずかしいような気まずいような気持ちになる。何と声をかけていいか考えあぐねていると、先に彼女が口を開いた

山野辺「ごめんね、真田くん…いろいろ迷惑かけて」
真田「お前が謝る必要はないだろう」
山野辺「ううん…ひわね、真田くんが優しいからって、ちょっとそれに甘えすぎてたかなぁって反省してたんです」
真田「そんなこと…」
山野辺「だから、さっき忍足くんが話したみたいに真田くんに嫌われちゃったかもって思ってたんどけど…」
真田「馬鹿な、俺がお前を嫌うはずなどないだろう。昨日のあれはその…何と言うか…俺は女子とそういった会話をするのに慣れていないから、ついな…」
山野辺「うん…今は分かります。だってちゃんと名前で呼んでくれたから」

嬉しかったと、笑みかけられてうかつにも胸が高鳴るのが分かる

山野辺「ねぇ、真田くん」
真田「何だ」
山野辺「もう一回、ひわのこと名前で呼んでくれませんか?」

お願い、と上目遣いに頼まれて断るわけにもいかず、小声で呟くように彼女の名前を呼ぶ

呼びかけられて彼女が花がほころんだような満面の笑みを浮かべた。それをずっと眺めていたいと思う俺のこの気持ちは恋心…というやつなのだろうか

ーーーーーー
あとがき

本編ゲームの柳さんが男前すぎて書いてて思わず真田より感情移入した(笑)
そのうち、柳メインの話も書きたいです
仁王と千歳は個人的にお兄さん組の中でも特にお気に入りですが仁王はまだしも千歳の熊本弁がよく分からず、博多弁と岡山弁がごっちゃになるので間違った方便を喋らせている気しかしない(笑)

そしてここまであとがきを書いて肝心の真田にはほとんど触れていないという体たらく

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